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浪矢の異世界転生旅行記(改)  作者: 無なる者
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愛情と憎しみ


10 愛情と憎しみ


俺はそのまま京子というセーラー服の娘の後を追う。

闇照と闇月乃姫ジュネと連絡をとって落ち合う形だ。

京子は川原まで走り母親と対面する。

母親の隣には幼いラベンダー色の髪と瞳をした闇月乃姫ジュネ立ち合っていた。川原の草むらには闇照とその頭に乗っかる蚤童子が控えている。 


「京子·····。」


京子の母親は少し躊躇いがちに話しかける。


「お母さん····。」


京子は俯き気まずそうにしている。

お互いのわだかまりとシコリが親子の会話に壁をつくる。


············

長い沈黙が流れる。

8年の親子の溝をそう簡単に埋めることは難しいのだろう。互いの想いをぶつけることさえも躊躇いがあるようだ。


ズズズズズ

数分の時間が流れると突然京子の頭上に黒い靄が現れる。黒い靄は生き物ようにうごめき歪に変形する。


「何だあれは?。」


歪な黒い塊を矢座霧乃君(浪矢)は眉間に紫波を寄せ直視する。

蠢い靄がくっきりと形を成し。それは人型へと変わる。

姿を現したのは長い白ひげを蓄えた老人であった。まるで仙人のような姿をした老人は空中を浮遊しながら下にいる京子に呼びかけるように何度も呟きだす。


『憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め。』


それは怨恨を漏らし。恨み辛みを捌け口如く繰り返す。


「あいつは····想根彦神そうねひこがみっ!?。」


川原の草むらで闇照と一緒に隠れていた蚤童子は呟く。


『その者はお前を裏切った。その者はお前を見捨てた···。その者はお前など愛してなどおらん。お前は捨てられた。お前は見放された。お前は愛されない。憐れな娘。憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め。』


想根彦神は京子の耳元で何度も被虐心を憎悪で逆撫でするような言葉を投げ掛ける。


「うああああーーーっっっ!!。」


京子は突然の獣ように唸り声をあげる。。


「京子····。」


母親は京子の豹変に狼狽える。


「許さない許さない許さない!。お母さん何か嫌いだ!。お母さんは私を愛さない!。お母さんは私なんかどうでもいいと思っている!。いつもいつも待っていたのに!。帰ってきてくれなかった!。ずっとずっと待ってた!。ずっと帰りを待ってた!。嫌いだ!嫌いだ!嫌いだ!大っ嫌いだ!!。お母さんが憎いっ!。」


京子は金切り声交りの声を上げ鋭く睨み付け。母に大して何度も陰口を吐き罵倒する。


「京子·····。」


母親はそんな娘の様子を哀しげに見つめる。

スッ

闇照が矢座霧乃君(浪矢)の隣に降り立つ。


《どうやら悪い予感が的中したようだ。想根彦神は穢れ神になっておる。》

「しかもだ。どうやら想根彦神があの京子という娘にとり憑いていたようだ。本来なら神に憑かれることは守り神として名誉だが。今の想根彦神の状態は穢れにまみれているから災いしかもたらさねえ。」

「そんな····。」


矢座霧乃君(浪矢)は額に汗を垂らし母と様子を凝視する。

暫くすると京子とその隣で宙に浮く想根彦神の間に歪な黒い文字が浮かび上がる。その文字はまるで彼女の憎悪に呼応するかのように現れた。


「あれは····『そう』かっ!?。

そう?。」


矢座霧乃君(浪矢)は眉をよせる


「見ての通りそうとは憎しみ憎悪を司る穢れだ。相手を憎み恨み辛み。怨恨をもたらす穢れだ。よりによって縁結びの神様が憎の穢れに充てられるとは····。」


蚤童子の表情が険しく歪む。


「ぐああああああーーっ!。憎い!憎い!憎い!お母さんが憎いーっ!!」

「京子っ!!。」


ダダ


「あっ!?駄目っ!!。」


闇月乃姫ジュネの静止を振り切り母親は飛び出して穢れに覆われた京子の身体を抱き締める。


「ごめんね··ごめんね··京子。一人にしてごめんね···。」


母親は娘を強く抱きしめて何度も謝罪の言葉を投げかける。


「うぅ、嫌いだ嫌いだ··お母さんなんか嫌い··だ··。」


母親に抱きしめられた京子は胸の中でうわ言のように恨み辛みを吐露し続ける。


『恨め恨め恨め恨め恨め恨め恨め恨め。』


頭上に浮く想根彦神は親子に対して憎しみを促す。


《くっ、あのままではあの親子が憎しみ穢れに呑まれる。だが私の神願術ではあの親子共々傷付けてしまう。どうしたものか。》


闇照の黒い犬顔が苦渋に歪む。


「闇照様私に任せてください。」


俺は闇照の前に出て進言する。


《?、矢座霧乃君の何か妙案があるのか?。》

「はい、私の神願術なら親子にとり憑いている穢れ、穢れ神を祓いのけることができるやもしれません。」

《しかしお主はまだ神願術を覚えたてではないか?できるのか?。》

「大丈夫です!。」


俺は力一杯自信を込めて強く進言する。

あの親子はまだあったばかりで何の面識がある訳じゃないけれど。だけど仲違いしたまま憎んだままでははあまりにも哀しすぎる。穢れや穢れ神がいなければあの親子はお互いわかりあえていたかもしれないのだ。それを憎しみの穢れによって台無しにされて欲しくない。


《あいわかった。矢座霧乃君の信じよう。》

「なっ、闇照!?。」


闇照の獣耳の頭上にのっかっていた蚤童子が信じられない顔を浮かべる。

矢座霧乃君(浪矢)は前に出て少し離れた親子の前に立つ。


「闇照本当に宜しいので?。あの神の若僧はまだ半神前。神願術だってまだ覚えたてのひよっこの神ですよ。」


闇照の頭上に乗っかる蚤童子は心配する。


《確かに矢座霧乃君はまだ未熟な神であるが何故かな。あのものなら何とかしてしまうのではないかと思えてくるのだよ。根拠はないのだがそういう気がする。神の勘ではあるが。》

「勘ですか?。」


蚤童子は困惑し首を傾げる。

親子の前で矢座霧乃君(浪矢)は深呼吸する。

大丈夫だ。原理は理解している。後は実行するだけ想いを置き願いを示す。矢座霧乃君(浪矢)は瞼を閉じ瞑想する。

昔旅していた頃のことを思い出していた。最初の異世界の旅でそこで出逢った三姉妹の勇者、そして託された聖剣。浪矢はその想いを形にすることした。最初の旅は哀しい別れの悲劇的な旅であったが浪矢に与えたものはそれだけではなかった。

矢座霧乃君(浪矢)はスッと瞼を見開く。


「御身願い奉るは想を置き願を示す···」


《まさか!?願言がんげんを組んだ神願術を行う気か!?。》


闇照は願言を組んだ神願術はまだ矢座霧乃君には早く扱えぬものと思っていた。

矢座霧乃君(浪矢)は空に繋ぎ文字を印を切るように刻む。


「我願うははく也、我願うはせい也、我願うはこう也、我願うは也、我願うはよく也、我願うはけん也。」


矢座霧乃君(浪矢)は一つ一つの文字に想いを置く。最初の異世界の旅に出逢った三姉妹の勇者の掛け替えのない旅路を。そして幾多の想いを繋ぎ文字に込めて置く。


ヒラヒラ

突然矢座霧乃君(浪矢)の上空に鳥類など一切飛んでいない筈なのにまっさらな青空に純白の白羽根が舞い落ちる。


《これは····。》

「何だこりゃあ?。」


闇照と蚤童子も共にあり得ない現象に困惑する。

白羽根は親子の頭上にも舞い落ちる。

親子にとり憑いていた想根彦神の皺だらけの顔が苦悶に歪んだ。

白、聖、光、癒、翼、剣とズラリと並んだ繋ぎ文字が一つに重なり光の塊として収束する。


パン

それを矢座霧乃君(浪矢)は収束した光の塊を手で強く打ち鳴らした。


神願 『白翼聖光御剣しらよくひじりみつみつるぎ


矢座霧乃君(浪矢)は神願を唱えた後直ぐに右手の平を前にだし左手を右手首へと掴む。


「現れよ!聖剣アークフェザー(白翼の光剣)!!」


バサアッ

矢座霧乃君(浪矢)は知らぬ言語を叫ぶと白羽根が跳び跳ねるように舞い上がる。矢座霧乃君(浪矢)は右手を振り払うようにほどくと。矢座霧乃君(浪矢)の手には見たこともないつるぎをが一瞬で現れ手に収まっていた。鍔が美しい白翼を型どりその真ん中の中心には藍色の宝石のようなものが埋め込まれていた。それを闇照と蚤童子は呆然と見つめる。


「ミュルっ!!。」


ミュルミュル

闇月乃姫ジュネの首に巻き付きながら潜んでいたミュルが長い白い胴体をくねらせ矢座霧乃君(浪矢)の元へ飛び込む。矢座霧乃君(浪矢)の持つ白翼を帯びた白い剣に入り込んだ。


カッ

更に白光に輝きだし鍔に型どる翼が増える。

チャキ

美しい白翼を帯びた剣を握りしめ矢座霧乃君(浪矢)大きく左から右へとなぎ払った。


白翼翔はくよくしょう!!。」


ズザババババ ザッ バーーーン!


一振りするとそこから無数の白羽根現れ。目前にいた親子に無数の白羽根が波風のように横切る。


ザザザザザザザッッッッパーーーん!

ぐおおおお

親子にとり憑いていていた想根彦神が横切る無数の白羽根によって引き剥がされた。


《でかした!!。矢座霧乃君!。》


闇照は引き離された想根彦神に追い打ちかけるように体当たりをする。


ドン


宙に浮く仙人のような姿をした想根彦神は年寄りと思えぬ身軽さで体当たりの衝撃を回避する。

闇照は想根彦神の目の前に立ち塞がった。

想根彦神は長い白髭を生やした口からぶつぶつと怨恨が込められた言葉がこぼれる。


『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。あやつさえいなければ。あやつが全て悪い!。あやつなどいなくなってしまえ!。許さぬ!許さぬぞ!許しておけぬ!。殺す!殺してやる!ぶっ殺す!。死ねえ!死ねええ!死んでしまえええ!。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!。全てがああ····憎いっ!!。』


想根彦神の皺だらけの顔が物凄い形相で睨む。

闇照は想根彦神の憎悪の威圧に動じず。4本脚をおりまげ身を低くして構える。


『許さぬ!許さぬ!許さぬ!許さぬ!!許さぬ!許さぬ!許さぬ!許さぬ!許さぬ!呪ってやる!呪ってやる!呪ってやる!呪ってやる!呪ってやる!呪ってやる!祟ってやる!祟ってやる!祟ってやる!祟ってやる!祟ってやる!祟ってやる!祟ってやる祟ってやる!祟ってやる祟ってやるぐああああ嗚呼ああ!!。っかあーーー!。憎ういうぅぃいいぃィィういィぃぃぃぃィィィ!。』


浮遊する想根彦神は恨み辛み事を呂律が回らなくなるくらいまで吠えるように叫んだ。



     穢れ神 『そう


       想根彦神そうねひこがみ


     いざ神浄じんじょうに·····


        参るっ!!


        ドドン!!。


何処からか太鼓が打ちならす音が轟いた。

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