願う想い
11 願う想い
『憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し。』
想根彦神は周囲に穢れが蔓延する。
《御身願い奉るは想を置き。願を示す。我願うは光也、我願うは静也、我願うは安也、我願うは幸也》
闇照の前に繋ぎ目の文字が次々と浮かび上がる。
順に光、静、安、幸という順に並んだ繋ぎ文字が闇照の黒毛の胴体へと吸い込まれる。
闇照は砂利の地面を鳴らすように足踏みをおこなう。
神願『光神禍祓御魂!!。』
闇照黒毛が光だし、白き輝く白光は闇照の黒毛の毛皮を覆う。白光を帯びた闇照は目の前の浮遊する想根彦神に突撃する。
ひゅっ
スッ
爺の姿をした想根彦神は老人と思えぬ軽やかな身のこなしで避ける。
「ちっ、あの想根彦神という神様は見た目よりすばしっこいなあ。」
蚤童子は険しい顔を浮かべる。
「加勢します。」
《頼む!。》
矢座霧乃君(浪矢)は神願術を使い具現化させた聖剣アークフェザーを片手に握り。闇照と囲むように想根彦神と対峙する。
『怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨む怨むーー!。』
怨むという言葉を連呼し続けると想根彦神から黒い靄が溢れ出す。
《気を付けろ!矢座霧乃君、穢れ神となった神は無意識的に穢れの神願術を使う。》
「穢れの神願術?。」
想根彦神は経文を唱えるかのように語りだす。
『御身願い奉るは穢れ結え。呪い結えと請う。憎に生まれ出ずるは呪となりて。深淵の闇へとまどえ』
想根彦神はぶつぶつと恨み辛みを口にするとどす黒い繋ぎ文字が浮かび上がる。
文字には怨、恨、憎、辛、箱、贄、憤、怒の順に並び。一つの黒い塊にと集束する。
パン
想根彦神は黒い塊を手で叩きうち潰す。
神願『八傀』
想根彦神が黒い神願を唱えると目の前に黒い箱が現れ。そこからどす黒い亡者のような赤子が現れる。
箱から出てきた赤子が産声を上げる。
『怨ギャアア怨ギャアア怨ギャアア。』
可愛らしい声で泣くのではなく。憎悪のたらしめた低音のおぞましさを感じる声が赤子の口から響いた。
《矢座霧乃君、聞くな!。呪いの産声だ!。穢れに染まるぞ》
矢座霧乃君(浪矢)は想根彦神と対峙し聖剣アークフェザーを両手に握る。
鍔にあるアクアブルーの宝石ようなものから光の粒子が集まる。
「神翼翔!。」
ズザザザザザザ
無数の何千何万何億という白羽根が黒い赤子を包むように覆う。
「おんぎゃあああああ。」
どす黒い赤子は真っ白な白羽根に包まれて緩やかな顔を浮かべ消えていく。
《なっ!?。あの白い剣は穢れを祓うだけでなく浄化もするのかっ!?。》
闇照の黒い犬顔が驚きに満たされる。
矢座霧乃君はすかさず想根彦神に懐に飛び込む。
『ぬっ。』
想根彦神は咄嗟に身を退くが矢座霧乃君(浪矢)は隙も与えず聖剣アークフェザーをなぎ払った。
ずざっ
『ぐああああっ。』
想根彦神は苦しげに見悶える。
《よし!。》
闇照は願言を組んだ神願術を唱えると即座に想根彦神に突撃した。
神願『光神禍祓御魂!!。』
サッ
白光に身を宿した闇照が想根彦神を横を横切る。
『ぎゃあああああ!!。』
想根彦神が断末魔の声を上げるとパタリと地べたに落ち横たわる。
想根彦神から黒い靄や吹き出す。
《矢座霧乃君!、穢れが想根彦神から吐き出される気を付けよ!。》
闇照の忠告に矢座霧乃君(浪矢)は警戒して身構える。
ぶあああああ
噴き出された穢れが意志を持つかのように狙い定め。再び矢座霧乃君(浪矢)に向けて襲い掛かる。
「小僧!また穢れがお前を狙っているぞ!。」
「同じ手は喰らうかよ!。」
矢座霧乃君(浪矢)は聖剣アークフェザーの剣身を前に出し防御をとる。
ぶあああああおおお
どす黒い塊が蛇のように塒を巻き 矢座霧乃君(浪矢)の身体に覆う。
「おおおおおおおっ!!!。」
矢座霧乃君(浪矢)は聖剣アークフェザーをかざし全身全霊を持って身を防いだ。数秒が数分のスローモーションのように流れ。矢座霧乃君(浪矢)の意識はそこで飛んだ。
深い深い闇の中に記憶が流れる。それは憎しみの穢れとは違う。朧気に宿る玉響の記憶。矢座霧乃君(浪矢)は再び記憶の海へと沈んだ。
う~ ワンワン!
「駄目だよ!。クロ!。」
サッ
幼い少年は真っ黒な黒い犬に静止するように抱き締める。
少年は夜の民家の玄関の外にいた。幼い少年は宥めるように黒い犬に寄り添う。
「なんだいこの犬は!しつけがなってないねえ。」
柄の悪そうな雰囲気のおばさんが玄関前の扉の前でふんと不機嫌に鼻を鳴らす。
「すみません····。」
幼い少年は頭をたれ謝罪する。
ワン!ワン! ワンワンワワン!
「だって!ご主人。こいつらまたご主人に暴力を!」
幼い少年はクロという黒い犬に向けて痣だらけの顔でニッコリと微笑む。
「おじさんとおばさんが僕が家に来て迷惑なんだよ。だからクロ僕のことは心配しないで。」
く~ん
「ご主人···。」
クロという黒い犬は悔しそうに牙の口を軋ませる。
「全く!しつけもなってない犬も一緒に面倒みなきゃいけないなんて。今日は晩飯抜きだからね!。」
柄の悪いおばさんは悪態をつく。
うううう
「貴っ様っ!···」
鋭い眼光を放ち。ううと唸るクロという黒い犬を幼い少年はギュッと強く優しく抱き締める。
バン
玄関の扉は強く閉められた。
クロという黒い犬と幼い少年は外に閉め出された。
強く優しく抱き締めていた少年はクロの黒毛の胴体から離れ語りかける。
「クロ駄目だよ。おばさんを憎んじゃ。」
く~ん
「ご主人··でも」
幼い少年は微笑む。
「クロ、憎しみは何も生まないんだ。憎しみは憎しみだけしか残らないだよクロ。憎んでも憎んだ先にあるのはただの虚無なんだって、昔パパとママが言ってた。」
く~ん
「ご主人···。」
「クロがおじさんとおばさんを憎んで。クロには憎しみしか残らなくなったら僕は哀しいよ···。」
く~ん
「ご主人」
幼い少年の痣だらけの幼い顔に笑顔を浮かべる。
「だから、ね、クロ、クロだけは憎んじゃ駄目だよ····。」
スッ
幼い少年の語りかける声が走馬灯ように意識をよび起こす。
目覚めたときには横になっていた。
右手には聖剣アークフェザーが握られていた。
目に入る青い晴天の空と一緒にラベンダー色の髪と瞳と薄い紫の紅をしたような唇をした幼い少女が心配そうに顔色を覗いていた。
「ジュネ、大丈夫だよ。」
「ろうやっ!。」
闇月乃姫は抱き締める。
《気が付いたか···。》
「闇照様····。」
浪矢はゆっくりと身体を起こす。
《矢座霧乃君の中にあった穢れの残りカスは私が吸収した。だがほとんどはその白い剣が穢れを浄化したのだが。見事な神願術による造り出された剣だな。しかも穢れを祓い浄化までするとは。どのような想いを組めばこのような見事な剣が出来上がるかわからぬよ。》
闇照は黒い口から苦笑がもれる。
俺はスッと立ち上がり神願術を聖剣アークフェザーの具現を解除する。
「昔、一緒に旅した娘がいたんです。想いを託されました。この剣はその想いの結晶です。」
矢座霧乃君(浪矢)は嘘が交じるが真実味のある告白をする。
《そうか···矢座霧乃君にとってそれほど大切な存在なのだろう。その神願術から形を成した剣の強さを見れば解るよ。想いはその神願術の力に比例するからなあ。》
「むぅ~。」
闇月乃姫は不機嫌に頬を膨らました。
前の異世界の転生で出逢った女性に関することになると不機嫌になる。
「京子!京子!。」
京子の母親が意識を失っている京子を抱き抱え何度も呼び掛ける。
パチッ
「お母さん···。」
空ろな顔で京子は母親を見上げる。
「京子ごめんねえ。」
「お母さん。私もご免なさい。わかってた。お母さんが私の為に一緒懸命働いていたことを。それでも私はいつもほったらかしされて許せなかったの。お母さんが私の為に出稼ぎしていたこと理解してたけど言葉で理解してたけど心がどうしても許せなかった。ごめんなさいお母さん···。」
「いいのよ···。私も無理に京子の気持ちを考えずに先走っていたから。よく話しましょう。私と一緒に暮らすのが本当に嫌なら私の母と一緒暮らせばいいのだし。」
「ううん、私、お母さんと暮らしたい。お母さん一緒にいたい。」
「京子····。」
京子は母を抱き締め母も京子を優しく抱き締めた。
「あちらの親娘喧嘩も万事解決したようだな。」
闇照の獣耳に乗っかる蚤童子は鼻の下を指でこする。
『ううむ····。』
砂利の地面に横たわって想根彦神の紫波だらけの瞼が開く。
起き上がり。スッと宙に浮く。
『ふぅ、迷惑かけたのう···。』
《想根彦神様お目覚めになられましたか?。》
『ふむ、本来ならあの親娘の縁を繋げることが儂の役目じゃったんじゃが。如何せん娘の憎しみの想念が強くてのう。気が付いたらこの有り様じゃよ。感謝するぞい。』
《いえ、これが私めのお役目で御座いますから。》
『ふむ、そうか、そうか。』
想根彦神は仙人のように長く伸びた白ひげを満足そうに撫でる。
「やい爺、縁結びの神なら早くろうやと縁を繋げろ!。」
「ちょ、闇月乃姫。」
闇月乃姫がいきなり横暴な口の聞き方に矢座霧乃君(浪矢)は焦る。
『何じゃい。藪から棒に。お前さん半神前の神か?。何じゃお主達縁を繋げろと言われても既に繋がっておるではいか?。』
想根彦神は困惑したように白眉を寄せる。
「縁は縁でも恋愛の縁を繋げろっと言っている!。」
闇月乃姫はふぅふぃと興奮しながら臆することなくグイグイ前に出る。
「恋愛の縁ねえ。ふむ。」
想根彦神はじっと俺の姿を見据える。
『微妙じゃな···。お主達の恋愛は悪くはないが良くもない。というかその矢座霧乃君という神に関しては多数の恋愛の糸が繋がっておる。多分これからどんどん増えるかもなあ。』
「何!?」
闇月乃姫の下瞼の紫波だらけ隈が更に酷くなり。物凄い形相になる。
「その女殺す!今すぐ殺す!ろうやは誰にも渡さない!!。」
闇月乃姫は憤慨しヒステリック状態になっていた。
「闇月乃姫、落ち着いて··。」
俺は何とか宥めようとする。
「ほんとあの小僧は相方に苦労しているなあ。」
蚤童子は同情するような視線を送る。
《ふふ、賑やかなことは善いことだよ。》
闇照の牙の口が緩む。
「そうですねえ。外から見れば楽しいですけどねえ。」
蚤童子は微妙な顔をうかべる。
巨大な黒い黒毛を帯びた犬の神は若い二人の神の戯れを温かく微笑ましく見つめていた。




