第三話 冒険者になるために! 1 戦いの準備
見ていると、上条さんの掌に芽が生えている。
「凄いよ、上条さん! 魔法が使えてる!」
「えへへ……テレるなあ。けど、夏木くんだって凄く使えてたじゃない」
上条さんはそう言って笑ってみせた。
――そう言えば、そうか。けど、植物を創成するなんて、凄い魔法だ。
「けど――こんな魔法でどうやって戦うの? これじゃあ、ネズミも殺せないよ?」
「そこから創成するものを大きくしていくんです。例えば蔓にして、鞭のように使うとか――蔓で敵を拘束して、その間にわたしかシロウが倒せばいいんです」
メルティは微笑して、そう答えた。
なるほど……そういう感じか。
「なるほどねえ! メルティ、凄い!! じゃあ、ちょっとやってみるよ!」
上条さんは目を伏せがちにして、何か念じ始める。
――と、地面から植物の蔓のようなものが次々に飛び出してきた。
「「えぇっっ!?」」
僕とメルティが驚いていると、その蔓はメルティの腕や脚に絡む。
と、あっという間に、メルティは蔓によって宙に吊るされた。
「いや~ん!」
宙で斜めになったメルティが悲鳴をあげる。
「マイナ、ひどいですぅ! 降ろしてください!」
ちょっと――斜めになったメルティのスカートがまくれて、下着が……
いや、僕は見てません! 白――だったけど、見てません!
「ご、ゴメン! なんか、ちょっとイメージしたら、にょきにょきと蔓が伸びちゃって!」
と、蔓が緩んで、メルティが地面に着地する。
「あ~、ビックリしたぁ。急に、どんどん蔓が伸びちゃうんだもん」
「驚いたのは、こっちの方ですよ! けど……マイナの潜在力は相当です。これからは少し、具体的な敵をイメージしてトレーニングすれば、すぐに即戦力になります!」
メルティは少し興奮したみたいに、グーを作ってそう断言した。
それからメルティは、眼鏡を僕の方に向けて口を開く。
「じゃあ、今度はシロウです。一角熊を戦った時のことを想い出して、魔力を高めてみてください」
「そう言われても……よく判んないんだけど――」
戸惑いながら、僕はう~んとか唸ってみる。
けど、何も起きない。すると上条さんが口を開いた。
「ねえ、夏木くん、木刀を持ってみたら」
「あ……この木刀?」
「そうそう。夏木くんてね、竹刀を持つと人が変わるの。きっと、剣を持つと人が変わるのよ」
上条さんはにこやかにそう言うが――なんか釈然としない気分もあるけど、僕は木刀を持って構えた。
――身体の中心を意識する。特に、ヘソ下の丹田という場所だ。
そこに、熱量がある気がする。
「気合よ! 夏木くん!!」
上条さんに言われて、僕は木刀を中段に構えたまま気勢を発した。
「ヤアアアアァァァァ――」
腹に力を入れて声を出す。
この発声によって――僕のリミッターが、いつも振り切れる気がする。
と、僕の全身から青い光が放出し始めた。
「あ、光ったよ、夏木くん!」
僕は少し気を鎮めつつも、その全身から光を発する感覚を維持することを意識した。
「ヤアアアァァァァ……」
僕は全身の熱を維持する感じで、発声を続ける。
動いてみるぞ。
「ダアァァッ!」
僕はダッシュして、木刀を真っ向から振り下ろした。
すぐさまに横に跳んで、抜き胴の要領で木刀を横に振り抜く。
さらに後方に振り返り、剣道ではやらない袈裟斬りを空で振った。
――が、そこで力が抜ける。
「あ……」
膝から力が抜けて、その場に倒れ込んだ。
「夏木くん!」
上条さんとメルティが駆け寄って来る。
僕は苦笑してみせた。
「ちょっと――魔法は使えるみたいんだけど、短い時間しかもたないや」
「いいえ! やっぱり凄いですよ、シロウ! 凄いスピードで、凄い剣技でした! 剣の振りが素人とは思えないです!」
メルティが眼鏡の奥から目を輝かせて、僕に言った。
と、上条さんが、少し自慢げに言う。
「へへ~、夏木くんはね、剣道部でもかなり強い方だったんだよ」
「ケンドウブ?」
「う~んと剣術って言えば判るかな。僕らの世界にあった剣の技を鍛える集団――って感じかな」
僕はメルティに判るようにそう説明した。
「シロウやマイナの世界も、戦う集団がいたのですか?」
僕と上条さんが顔を見合わせる。と、上条さんが口を開いた。
「こっちの世界みたいなモンスターはいないから、ちょっと違うかな。あたしたちがやってたのは……なんていうか、訓練――で完結するもの。本当に殺し合ったりはしないの。戦争はあったけど……基本的には平和な世界」
上条さんはそう言うと、苦笑してみせた。
と、その顔に寂しげな影がよぎる。
――やっぱり、元の世界のことを思い出すと悲しいに違いない。
僕は……
「もっと……戦えるようにならなきゃダメだ――」
「「え?」」
僕はメルティに訊いた。
「メルティ、剣は持ってる?」
「いいえ、わたしは魔導士なので、剣は持ってません」
メルティが首を振るので、僕は上条さんに言った。
「上条さん、もっと重い木刀――いや、木剣を創成できるかな?」
「え? いや……やってみるけど――具体的に、どんな感じ?」
上条さんは戸惑いながらも、僕に訊ねる。僕は答えた。
「長さや形状は竹刀の感じでいい。ただし刃の部分をもっと太く、重くしてほしいんだ」
「いいけど……どうするの?」
「今後、本当の剣を振った時、重さに慣れとく必要があるから。訓練用に、重い木剣が欲しいんだ」
僕がそう言うと、上条さんは微笑んだ。
「判った。じゃあ――頑張ってみるよ」
上条さんはそう言うと、両手の平を前に向けて、その間を見つめるように念を込め始めた。
手の間に、光の粒子が煌めき出す。
――と、光が集まっていき、やがて長い棒になる。それは最終的に、僕が注文したような木剣となって現れた。
「できた! どう?」
「凄いよ、上条さん! イメージ通りだ!」
形は竹刀のようだけど完全な木製で、刃の部分は杭のように丸くて太い。
そしてイメージした通り――結構、重たかった。
と、メルティが感動したように声をあげる。
「マイナの創成魔法、本当に凄いです! もう、こんなにコントロールができて、しかもこれだけの大きさの物を一瞬で創成できるなんて!」
感心するメルティに、僕は言った。
「それじゃあ、僕は青い光をもっと長時間維持できるように――それに、今後、剣を振ることをイメージして訓練するよ」
僕がそう言うと、上条さんも口を開いた。
「それじゃあ、あたしも創成魔法をもっと自在に使えるようになるね! みんなで頑張って、冒険者になろう!」
上条さんは明るい笑顔でそう言った。
きっと本当は、新しい世界で知らない事だらけで不安だろうに……
その笑顔を守るために――僕はもっと強くなるんだ。




