2 メルティとの出会い
僕と上条さんは、顔を見合わせた。
僕は――見知らぬ人というだけで、もう声が出ない。
首をすくめて少し後ずさると、上条さんが喋ってくれた。
「あたしたちも――どうしてこんな所にいるのか、判らないの。そもそも……ここは何処?」
「此処は――テルネリアの西南、サガシ地区の小さな村の、さらに外れの森ですけど……」
「なんですって――」
上条さんは、驚きに眼を見開いた。
「まさか――外国なの?」
「上条さん……」
僕は上条さんの背中から、そっと囁いた。
「どうしたの、夏木くん?」
「まさかとは思うけど……此処は異世界かも――」
「――異世界!?」
上条さんが驚きの声をあげる。きっと、上条さんはラノベとかアニメとか、そんなに詳しくないに違いない。
上条さんは、眼鏡の子に向き直った。
「ね、あなたの名前は? 今は何年の何月何日?」
「あの……わたしはメルティ。そこの小屋に住んでる魔導士です。で、今は神誕歴3026年11月10日です」
「――魔導士!? 3026年って……」
上条さんはさらに声をあげた。
「ウ……ウソでしょ。何か撮影でもしてるんじゃないの? こんなのって――」
上条さんはそう呟くと同時に、突然、その身体が崩れた。
僕は慌てて上条さんを抱き支えるが、上条さんの意識がない。
「あの――その人も怪我をしてるんですか?」
「いや……ショックだと…思います」
僕は、眼鏡の子――メルティと眼を合わせないように、そう答えた。
メルティは安堵したように息をつく。
「そうですか。けど――あなたは怪我してますね。よかったら、うちに来てくださいな。手当をしますけど」
「……い、いいんですか?」
「はい」
メルティが、にっこりと笑った。改めて見ると……けっこう、可愛い子だ。
「けど――その方を運ぶのは手伝ってもらえませんか?」
「あ……はい」
僕とメルティで上条さんを両側から支え、メルティと一緒に小屋へと入った。
メルティが促すので、上条さんをソファに寝かせる。
「じゃあ、あなたは腕を洗ってきて下さい。そっちに洗面台があります」
僕は言われた通り腕を洗って、メルティの所に戻って来る。
メルティは薬瓶を持ってきていて、脱脂綿を湿らせると僕の腕につけた。
「つっ――」
「沁みますか? けど、我慢してくださいね」
メルティは、傍で微笑んでくれた。
「けど、あなた――とても勇敢でお強いんですね。まさか一角熊を一人で倒してしまうなんて」
「いえ……まだ死んでませんでした。その…メルティさんの火炎がなかったら、僕らは熊にやられてました」
自分のツメの甘さが悔やまれる。たまたま助けてもらったからよかったが、それがなければ、僕も上条さんも熊にやられてたはずだ。
「いえいえ。もうほとんど致命傷でしたからね。わたしは最後のひと押しをしただけ。あなたの魔法が凄かったんですよ」
メルティは何でもないように、そう言って微笑む。
が、僕は驚きを隠せなかった。
「僕が――魔法……?」
「え? あれは魔法ですよね。光属性の付帯魔法でした。とっても綺麗な青い光で――」
……やっぱり、あれは気のせいじゃなかった。
あれが魔法? ――いつの間に? いや……何故?
「夏木くんっ!」
突然、声をあげて上条さんが目覚める。
身体を起こして、周りを見て――僕の姿を見て息をついた。
「夏木くん――よかった……え? ここは――何処?」
「このメルティさんのおうちだよ」
僕はメルティを手で差して、上条さんに答える。
と、上条さんは身体を起こして、きちんと座り直した。
「あ、あの、さっきは助けてもらって――ありがとうございました!」
上条さんはそう言って、頭を下げる。僕も改めて、メルティに頭を下げた。
「いえいえ、そんな! こちらの――男性の魔法で、もう瀕死だったから、とどめが刺せただけです」
あ――僕、まだ名乗ってないな。
「あの……僕は夏木士郎って言います。その……魔法って――」
「魔法っ!?」
上条さんが声をあげる。
「夏木くん、あれ魔法だったの? いつ使えるようになったの!?」
「いや……僕は――ちょっとよく判らないけど……」
僕は返答に困って、うつむく。と、メルティが上条さんに向かって言った。
「あの……あなたも魔法使ってましたよね?」
「えぇっ!? あたしが!?」
上条さんは自分を指さした後に、ぶんぶんと首を振る。
が、メルティは言葉を続けた。
「いえ、お二人とも魔法を使ってましたよ。え~と、ナツキシロウさんは青い光の付帯魔法、あなたは――」
「あ、あたし、上条舞菜っていいます」
上条さんは話の途中で、自己紹介して頭を下げる。メルティは微笑むと、話を続けた。
「カミジョウマイナさんは、創成魔法――木刀を創りましたよね」
その言葉を聴くと、上条さんは、あ、という顔になった。
「夏木くんが……『何か武器になるもの』って言ったから――何かないか、って思ったの。そしたら、なんか掌が熱くなった気がしてた……」
上条さんは呆然としている。メルティはそれを見て笑う。
「そうです! それが魔法ですね。カミジョウマイナさんは、樹木系の創成魔法が使えるのだと思います」
メルティはにこやかにそう言ったが――僕と上条さんは、顔を見合わせた。
「あたしたちに……魔法が使えるなんて――どういうことなの?」
僕は黙って首を振る。まったく、答えようがない。
と、メルティが口を開いた。
「あの~…もしかしたら、とは思うんですが――お二人は異世界から来た方?」
「――多分、そういうことになります」
上条さんが、観念したように頷いた。
メルティは眼鏡の奥の眼で笑ってみせた。
「それなら、魔法が使えるのも不思議ではありません。伝承にも、『彷徨者は高い魔力を有する』と聴いてます」
「彷徨者?」
「彷徨い人、とも言われてます。異世界から迷って来た人を差すんです」
メルティの言葉に、僕たちは驚いた。上条さんが訊く。
「じゃあこの世界は――今までもその彷徨者がいたってこと?」
「はい、記録にあります。歴史に名を残した有名な方も多いですよ」
メルティはそう言って笑った。けど――上条さんは笑ってない。
「待って……その彷徨者は――元の世界に帰った人はいるの?」
「いえ――そこまでは……」
上条さんはそれを聞くと、両手で顔を覆った。
「あたしたち……こんな異世界でどうしたらいいの――? 親も先生も……知ってる人さえいないのに……」
僕は上条さんに何か言いたかったが――何も言えなかった。
実際、高校生の僕らが、こんな見知らぬ世界で、どうやって生きていったらいいのか判るはずもない。
「あの――」
悲嘆にくれてる僕らに、メルティが口を開いた。
「よろしければ……一緒に暮らしますか?」
「「――ええぇぇ!?」」
僕と上条さんは一緒に驚いて――顔を見合わせた。




