第二話 ここは異世界 1 青い光
上条さんを抱えて走るのは、青く光ってる状態でも負担が大きい。
僕はそう思って、熊がやってくる方に自分から近づいていった。
「イヤアアアァァァッ!」
僕は熊に向かって気勢をあげる。
熊が立ち上がって、咆哮をあげた。
「グワアォゥッ!」
熊が爪を振り下ろしてくる。
――避けろ!
僕は青く光る感覚で、爪をかわした。
さらに熊がのしかかり攻撃をしてくる。
――かわせ! 僕は一瞬だけ青く光ることで、その攻撃をかわした。
いいぞ。見切れる――
僕は、対峙した相手の剣筋が見える感覚を、熊に対して感じ取った。
剣道をしてる時も、相手の動きが見切れる時がある。
正直なところを言うと、二年生の先輩たちの動きは僕には見切れる動きだった。
だから二年生の先輩たちから一本取られることはなかった。
けど、それで自分が一本取れるかどうかはまた別問題だし、三年――特に如月先輩の動きは全く捉えきれなかった。
けど……この熊の動きは、如月先輩ほどじゃない!
僕は襲ってくる熊の動きを、青く光る一瞬の速度上昇でかわし続けた。
けど――このまま逃げてるだけじゃ、いずれやられる。
「何か……武器になるもの――」
僕は周囲を見回した。草原の中には、鉄パイプとか落ちてるはずもない。
その時、カサリ、と音がした。
そちらを見ると――木刀っぽい木が落ちてる。
「グワアァォゥッ!」
「はっ!」
僕はまた青く光って熊の攻撃をかわしながら、その木刀を拾った。
長さもちょうどいい。どうしてこんな所に木刀があるのかは判らないが――これで反撃できる!
「ヤアアアアァァァァァッッ!!」
僕は気勢を発した。全身から、青い光が発する。
こっちの方が、踏み込みが速いはずだ。
「ヤアァッッ!」
僕は向かって来る熊に対して、面を打ち込んだ。
「ガアアォゥッ!」
顔を打たれた熊が、首をブンブン振って嫌がる。
僕は木刀を構える。一撃加えた――けど、熊に逃げる気配はない。
「グルルルル……」
熊は口から荒い息を吐きながら、こっちを見ている。
剣道の最速である小さな飛び込み面では、軽いダメージしか与えられない。
大きく振りかぶる正面打ちを入れなきゃダメだ。
そう思った瞬間、熊が跳びかかってきた。
反射的に、突きを出す。高校生では突きは反則技だから攻撃技として使うことはないが、構えたまま相手に入らせないために真っすぐ竹刀を出すことはある。つまりストッパーの使い方だ。
「グアァゥッ!」
跳びかかったところを、鼻さきに突きを出された熊が後退する。
熊は跳びかかかるのを止めて、立ち上がった。
「ガアゥッ!」
「小手ェッ!」
僕は振り下ろそうとしてきた熊の手を、逆に小手打ちにした。
熊が怯んで、腕を引っ込める。
けど――ここまでやっても、熊に去る気配はない。
やはり、熊の頭部を割るくらいの威力で、熊を倒さなきゃダメだ。
僕は覚悟を決めた。
左足を前に出す。そして木刀を――上段に構える。
剣道でもやったことのない構えだ。だけど――これが一番威力を乗せやすい。
「勝負だ……熊」
僕は小さな声で囁いて、息を吸った。
「ダアアアァァァッッ!」
「ゴワアアオゥッ!」
僕が気勢をあげると同時に、熊が咆哮する。
向かって来る熊に、僕は踏み込んで真っ向から木刀を振り落とした。
その時、僕の全身から青い光が放たれる。
その青い光は木刀も包んで、青い刀身を僕は熊の脳天に叩きつけた。
「イヤアッッ!」
ゴボ、という感覚で熊の頭に木刀がめり込む。
明らかに頭蓋を割った感触を受けてから、僕は熊から跳び退いた。
熊が、そのまま地面に倒れ込む。
僕は木刀を構えたまま、手が震えているのを感じていた。
「ハァハァハァ――」
息が――やっとつける。僕は荒く息を吐きながら、全身から力が抜ける感覚を味わった。
「夏木くんっ!」
上条さんが駆け寄って来る。
あぁ……よかった。なんとか――上条さんを守れた……
「――夏木くん!」
上条さんが、僕にいきなり抱き着いて来る。
え? えぇ!?
「夏木くん、凄いよ! あの熊を――倒しちゃうなんて……」
「あ、あぁ……う、うん――」
僕は上条さんに抱きしめられてる事で、なんだか訳が判らなくなっていた。
「ありがとう、夏木くん! 夏木くんのおかげで――助かったんだよ……」
上条さんは抱き着いてる状態から離れると、涙を拭っていた。
……恐かったんだな。当然だよ。
「よかった……夏木くんが死ななくて――あ! 夏木くん、怪我したよね!?」
「あ……うん――」
そう言えばそうだった。
と、腕を見ると切り裂かれたシャツの下から血が滲んでる。
「う……」
今になって痛み出した。戦ってる時は夢中で気付かなかったけど、落ち着いたら凄く痛い。
「痛い? 夏木くん。手当しないと――」
そう上条さんが口にした時、不意に横に影を感じた。
熊が――立ち上がってる! こいつ、まだ死んでなかったんだ!
僕は木刀を構えて、上条さんの前に立った。が、腕の痛みを感じる。
「くっ……」
僕が歯噛みをした――その瞬間だった。
「――ファイアーボール!」
声とともに――横から突如、飛んできた火の玉が熊に当たった。
熊の身体が一瞬で火に包まれ、燃え上がる。
「え……」
上条さんが僕の腕にしがみついてる。
燃えあがる熊は火柱となりながら、最期の声をあげた。
――と、突然、その火柱が消えて、空中に光の粒が輝く。
その光の粒は、地面に落ちた。……紫の宝石のようだった。
「――大丈夫ですか?」
火の玉が飛んできた方向から声がして、僕らはそっちに視線を向けた。
一人の少女が走ってきている。
ふわりとしたブラウンの髪をなびかせ、眼鏡をかけている。多分、僕らと同年代の少女だ。
ただし、格好は学生服じゃない。なんだかコスプレみたいな格好をしている。
……魔法使いっぽい。
「ああ、よかった、間に合って。この一角熊、最近、この辺をうろちょろしてたんで、気にしてたんです。けど……」
眼鏡の子は、不思議そうに僕らを見た。
「……こんな所に、どうしていらしたのですか?」




