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人見知り彷徨者、青き光の魔剣士となる ~剣道少年の異世界冒険譚~  作者: さとうはるか


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3 熊との――戦闘


 僕はもう、至近距離まで来た熊を見て、刺激を与えない策が無駄だと悟った。


「逃げるんだ、上条さん!」


 僕は上条さんの手を取り、後ろに猛ダッシュした。

 瞬間、倒れかかるように熊が爪を振り下ろす。

 僕がいた場所に、熊の爪が空を切ったのが判った。


 確か熊は凄く脚が速いって聴いたことがある。

 けど、逃げない訳にはいかない――どうする?


 何か対抗策を――僕は走りながら上着を脱いだ。

 後ろを見ると、四足で熊が走ってきている。

 その額に生えた角は、危険な角度でこちらに向けられていた。


「いやあぁぁぁっ!」


 上条さんが悲鳴をあげながら走っていた。

 恐いに決まってる。けど、上条さんを助けないと――


 僕は上条さんとつないでいた手を離して振り返ると、熊に向かって僕の上着を投げた。


 向かって走って来てる熊に、僕の上着がかかる。どうやら、あの角に引っかかったらしい。


「上条さん、先に逃げて!」

「夏木くんは!?」

「後から行く――とにかく先に逃げて!」


 上条さんは悲痛な顔を見せたけど、そのまま走っていった。


「ブルルルッ!」


 顔にまとわりついた上着をとろうと、熊が首を振って手で上着を掴もうとしている。

 僕はその間、距離を取りながらも熊が見える位置にいた。


 僕に注意を引きつけてる間に、上条さんを 逃がさなきゃいけない。

 そして熊が上着をはぎ取り、僕の姿を確認した。


「ゴアオオォォォッ!」


 熊が咆哮する。あまりの迫力に、恐怖した。

 全身がすくむ。


 熊は立ち上がると、僕をめがけて歩いてきた。

 ――けど、動けない。脚が……震えてる。


 熊は近づいてくる。ダメだ、このままじゃ殺されて喰われる。

 せめて動くんだ。抵抗しなきゃ――ビビってる場合じゃない!


「イエアアァァァァッ!!!」


 僕は剣道で出す、精一杯の声を出した。

 そうだ――格上の相手とやる時は、いつだって恐い。


 そんな時は、大声を出して自分を奮い立たせる。

 そうしなきゃ、動けない。臆病な自分のままじゃ――戦いにならない。


「ゴオオオアォッ!」


 お返し、とばかりに熊が吠える。

 僕ももう一度、吠えた。


「イヤアアアアァァァッ!」


 だが、熊は臆すことなく、跳びかかってきた。

 のしかかられたら、もう終わりだ。絶対に助からない!


「うわぁぁぁっ!」


 僕はそれを横に跳んでかわした。

 僕のすぐ横に、熊が着地する。


 ――とっさに避けたけど、凄い速さだ。

 次はもう、かわせるとは思えない。


「ヤアッ!」


 僕は横にいる熊の眼をめがけて、拳で殴った。


「グワアォッ!」


 熊が嫌がって、腕を振る。だが、その速さについていけず、僕の腕に爪が当たった。


「うっ――くぅ……」


 ちょっと当たっただけの感じだったのに、腕が切り裂かれている。

 ダメだ。何か反撃をしないと――


 僕は足元に落ちてる石を拾った。それを思いきり、熊に投げつける。


 熊の顔に当たり、熊がブルルッと顔を背けた。

 僕はさらに石を拾い、もう一個ぶつける。


 だがその瞬間、熊は猛スピードで襲い掛かってきた。

 ダメだ――これは…かわせない。


 そう思った瞬間にも、何故か僕の足は動いていた。

 熊ののしかかり攻撃を、僕は横に動いてかわしている。


「……なんだ――?」


 僕は――自分の不思議な感覚に驚いていた。

 今、自分の身体が一瞬、光った気がする。

 その時だった。


「――夏木くん!」


 少し離れた場所から、悲痛な声が上がった。

 見ると、それは上条さんだ。どうしてそんな処に?

 僕が囮になってる間に、逃げてくれたんじゃなかったのか?


 かなり離れてはいるけど――まだそこは熊の視界内だ。危険だ!

 そう思った時、熊も声をあげた上条さんを見つけた。


 熊は僕を見て――そして上条さんを見た。


「ブルルル……」


 熊は――上条さんの方に身体を向けた。

 反撃してくる厄介な獲物より、狩りやすそうな獲物を狙うのは野生の習性だ。


「上条さん、逃げるんだ!」


 僕は大声をあげて上条さんに呼びかけた。

 だが、その瞬間にも熊は上条さんに向けて猛ダッシュしている。

 

 上条さんが慌てて、後ろを向いて逃げ始めた。

 けど、明らかに熊の速度の方が速い。


 ダメだ、このままじゃ上条さんが追いつかれて、熊に喰われる。


「上条さんっ!」


 僕は駆け出した。

 上条さんを――襲わせたりしないぞ。

 絶対に上条さんを助ける!


「ウオォォォォッ!!」


 僕は気勢を発した。

 その瞬間――またさっきの特殊な感覚が、全身に宿る。


 と――僕は凄い速さで走っていた。


「え――!?」


 僕は自分の走る速さに驚きながら、走っていた。

 その僕の身体は――うっすらと青く光っている。


「なんだこれは――」


 けど、目の前では逃げる上条さんに、熊が追いつこうとしていた。


「やめろぉっ!」


 僕はさらに速度を速め、熊より先に上条さんに追いついた。

 熊が跳びかかるより先に上条さんの腰を捉え、抱えてダッシュする。


 熊の爪が空を切った。

 と、僕の足も突然に止まる。全身から出てた、青い光も消えた。


「な――夏木くん……?」


 僕は上条さんを抱えたまま、荒い呼吸を繰り返す。

 どうしたんだ、一体? 青い光を放っていた時は、速く走れたのに。


 もう一度――もう一度、上条さんを抱えて遠くまで離脱するんだ!

 僕は上条さんの腰を抱えると、もう一度気力を振り絞った。


「ウオオオォォォ――」


 全身から青い光が出て、僕は上条さんを抱えてかなりの速度でそこから走った。

 ――がそれは数秒しかもたず、息切れして尽きる。


「夏木くん――一体、何をしてるの?」

「僕にも……ハァハァ……判らない…ハァハァ――」


 僕は呼吸を繰り返しながら、上条さんに言った。


「けど――青く光ると、速くなるみたいなんだ……。僕はこれで熊を引きつけるから、その間に逃げて!」

「けど、夏木くん――」


 上条さんが泣きそうな顔を見せる中、もう熊が迫って来ていた。


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