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人見知り彷徨者、青き光の魔剣士となる ~剣道少年の異世界冒険譚~  作者: さとうはるか


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2 見知らぬ場所へ来た二人


 僕は逆側の窓を開けると、上条さんに声をあげた。


「上条さん、こっちだ!」


 僕は手を出す。上条さんが伸ばした手を、僕は掴んだ。

 その瞬間、上条さんの後ろの窓が割れる。


「きゃあっ!」


 僕は上条さんの手を掴むと、思い切り引っ張った。

 上条さんの身体が僕の方に飛び込んできて、僕はその身体を受け止める。


「――!」


 上条さんが、僕の胸の中で顔を見上げる。

 その眼と眼が合った瞬間――時間が止まった気がした。


 けど、そんな事を考えてる場合じゃない。


「上条さん、とにかく外に逃げるんだ!」


 僕は上条さんの身体を窓側に寄せた。

 上条さんが、頷いて窓に脚をかける。


 が、その瞬間、上条さんが悲鳴に近い声をあげる。


「な……夏木くん――」


 上条さんが、窓際で躊躇してる。僕は上条さんの隣に立つと、窓の外を見た。

 ――真っ暗だ。何も見えない。この暗闇に飛び降りるのは、確かに恐いに違いない。


 けど、その時、僕の背後でギィ、という金属が軋む音がした。

 僕らが元座っていた席の天井が、凹んできている。


「上条さん、飛び降りよう!」

「う、うん!」


 僕は上条さんの両腕を外側から支えると、上条さんと一緒にバスの外側へ飛び降りた。


 真っ暗で何も見えないけど――地面に着地する時に気を付けないと。

 と、思っていたけど……いつまで経っても地面が足がつかない。


「な――夏木くん!? どうなってるの!」

「離れちゃダメだ、上条さん!」


 僕は上条さんの両腕を強く掴んだ。

 上条さんは、僕の方に向くと僕にしがみつくように抱き着きついてきた。


 わ――上条さんの細い身体が、僕の身体に触れている。

 けどそんな事を気にする間もなく、僕らは長い間、暗闇の中を彷徨っていた。


 そして――僕は意識を失った。


*  *   *   *   *   *   *   *


 頬に何かが触れている。

 チクチクする――草だ。僕は眼を開けた。


 緑が目に入る。僕は草むらに寝転がっているのだった。


「――上条さん!」


 僕は急速に意識を回復し、上半身を起こした。

 が、すぐ傍に上条さんはいた。まだ、眼を閉じたままだ。


 僕と同じように意識を失っているんだろう。眼を閉じてると、その睫毛が長いのが凄くよく判る。

 

「あ……う――」

「上条さん!」


 僕は呼びかけた。と、上条さんが眼を開ける。

 上半身を起こすと、僕の顔を見た。


「……夏木くん――」


 そう涙声を洩らすと、上条さんはいきなり僕に抱きついてきた。


「な! 上条さん!?」

「――恐かった! 無事でよかったよ……」


 僕に抱きついた上条さんが、少し震えている。

 僕は――その震える肩に触れようとして……躊躇して、やめた。


「あ、あの……上条さん――」

「あ! ご、ごめんなさい! 本当に恐かったから……」


 慌てて離れた上条さんを直視できず、僕はうつむいた。

 

「だ……大丈夫――」

「けど……ここは何処なの? バスは――?」


 僕は上条さんに促されて、改めて周りを見回した。

 どういうわけか――草原の中だ。それに、壊れたはずのバスもない。


「ど……どういう事なんだろう? 僕らはトンネルに入ったはずなのに――」


 意味が判らない。僕と上条さんは顔を見合わせたが、お互いにこの状況に関して、何か言えることはなかった。


「他のみんなは? 先生たちも――いないわ」

「もしかしたら……既に別の場所に移動してるのかも」


 僕は一応、そう言ってみた。けど、明らかにおかしな状況だ。


「とにかく……人のいる処まで行こう。――怪我してない?」


 僕は立ち上がりながら、上条さんに訊いた。

 上条さんはスカートの裾を抑えながら立ち上がる。


「うん……大丈夫みたい」

「じゃあ――行こうか」


 僕らはどっちに行けばいいかも判らない草原を、ただ歩いた。

 まったく人家がないし、車道がない。

 ――どうしてこんな田舎にいるのか判らない。


「……ありがとう、夏木くん。あたしのこと――助けてくれて」


 不意に、隣を歩く上条さんが、そう言った。

 僕はびっくりして隣を見る。


 上条さんが、少し恥ずかしそうな微笑を浮かべて、僕を見ている。

 その可愛さに驚いて、僕は慌てて眼を逸らした。


「な――なんでもないよ……」

「あたし……パニクっちゃって動けなかったのに、夏木くんは冷静だった。――夏木くんて……やっぱり、凄いね」


 上条さんがそう言って、また微笑む。僕は――一瞬、呼吸が止まる気がした。


「と……とにかく、連絡しないとね。そこまで歩こう」

「そうだね。もしかしたら先生や家族に連絡がいってるかもしれないし」


 上条さんは不安そうに言った。

 僕は――心配するような家族はいない。母さんは――僕のことなんか、気にしてない。


 けど、そんな余計なことは言わず、僕はちょっとつくり笑顔を浮かべてみせた。

 しばらく何もない草原を歩いていると、先の方に森が見える。

 その森の傍に――赤い屋根の家があった。


「家だ、上条さん!」

「ほんとだ! やったわ!」


 僕と上条さんは顔を見合わせて、喜びを分かち合った。

 ついつい早足になって、僕らは赤い屋根の家を目指す。


 森の傍まで来て、その森沿いに草原を僕らは歩いていた。

 ――が、森の中でがさり、という音が聞こえた気がして、僕は声をあげた。


「待って、上条さん!」

「どうしたの、夏木くん?」


 振り返った上条さんの後ろに、森から巨大な影が現れた。


「ヒッ!」


 僕は思わず声をあげる。影は2m…いや、3mはある、立った巨大な熊だった。

 振り返る上条さんも、その正体を見る。


「きゃああぁぁっ!」


 上条さんの声に、熊が反応した。


「フルルルル……」


 口から息を吐いている。その眼は僕らを見て――明らかに、獲物と捕らえた様子をしていた。


「上条さん……ゆっくり、僕の後ろまで来て」


 熊は急に走って刺激しちゃダメだって聴いたことがある。

 それで僕はそう言った。上条さんが頷いて、僕の背後まで来る。


 けど……日本にこんな巨大熊がいるなんて聞いたことがない。

 ツキノワグマにしたって、立った体長は人間とそう変わらないはずだ。


 なのにこの熊は明らかに僕らの倍以上の背丈だ。

 しかもよく見たら――額に角が生えている。これはなんだ? 熊…なのか?


「フウルルル……」


 僕がそんな疑問を抱いている中、熊はゆっくりと歩いてきた。


「逃げるんだ、上条さん!」


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