↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の桁ミスで500kgの聖剣を渡されスライムに殺された元勇者、魔王に転生して奪われた人生を取り戻す  作者: 羊皮紙のヤギ
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/30

第18話 四天王会議

 忠誠の誓いを交わした翌日、ヴェルドラゴン城の大広間で初めての四天王会議が開かれた。


 長い黒檀の円卓を囲み、四天王がそれぞれの席に着いている。


 主賓席には俺。


 右隣にガルドス、左隣にティアラ。


 対面にメイヴィス、端の床に直接ボルグが腰を下ろし、厨房付近ではリリィが静かに控えていた。


 窓の外から差し込む灰色の光が、磨き抜かれた黒石の卓上で反射し、会議室全体の重苦しい静寂を浮かび上がらせる。


「……これより、我が軍の今後の戦略方針を定める」


 俺が口を開くと、円卓の空気が一気に引き締まり、全員の視線のピントが俺の手元へと収束した。


「はっ。現在の戦力配置について報告いたします」


 ガルドスが、指の骨を「カタカタ」と乾いた摩擦音で鳴らしながら立ち上がった。


「現在、我々の支配権下にある魔物はオーク二十、ゴブリン百、スライム群、ワイバーン四、そして沼の主。四天王を加え、総員二百十を超える勢力となりました。……グロッグによる再編成も順調です」


「二百か。北の魔王アズガロスの五百には及ばないが、局地戦で後れを取る数ではない」


「はい。しかし、アズガロスは領地拡大のピントを東へと向けております。遅かれ早かれ、このヴェルドラゴン城が標的となるのは必然かと」


「ならば、先制すればいい」


 ティアラが拳を卓上に叩きつけた。


 青い火花が黒石を走り、全員の視線が彼女に集まる。


「アズガロスが東に目を向けている今、北の裏をかけば、奴の本拠地を焼ける。防御だけでは、いつまでも獲物だ」


「それは自滅だ、ティアラ」


 ガルドスの声音が、一層低く重くなる。


「我が軍の兵站は、二百の胃袋を満たすのが精一杯。遠征すれば、城は空き、背後を突かれる。お前の雷は強いが、兵を守る糧は雷では生まれん」


「では、いつまで籠るつもりだ? 魔王の城に、籠城だけの魔王がいるか?」


 空気が鋭く張り詰める。


 ティアラの角が低く唸り、ガルドスの眼窩の青い火がかすかに明滅した。


「黙れ、二人とも」


 俺は地図に描かれた山脈の境界に黒鉄の重りを置いた。


 金属の重い音が、円卓の緊張を一瞬で押し潰す。


「まずは、城から半径五里の防衛線を強固に確立する。それと並行し、人間界の動向をジャックのルートで引き出せ。アズガロスを叩くのは、我々が『選ぶ』時だ。今は、選ぶための目と糧を集める番だ」


 会議の最中、床に直接巨体を沈めていたボルグが、丸太のような太い手を恐る恐る上げた。


「……魔王様。ボルグ、提案があります。城の東門の結晶装甲ですが、あれは魔獣の突撃を防ぐには少々厚みが足りません。私の岩石魔力で、さらに三尺ほど基礎を補強させてください」


「東門か。あそこは人間界の結界からも最も近い位置にある。お前の盾の魔力があれば心強いな」


 レインが頷くと、ボルグは恐縮したように太い眉をハの字に曲げた。


「はい。……五十年前、人間たちの城門を一人で守っていた時、私は神殿の命令に従ってただ立っていました。私に親切にしてくれた若い兵士たちのために。……ですが、最後には、彼らも『魔物を駆逐する役割』を神殿から与えられ、私に向けて槍を突いてきました。……あの時の冷たい金属の感触だけは、今も私のこの硬い岩肌が覚えているのです」


 ボルグの丸い瞳の奥に、かつて彼が人間から受けた「裏切り」の澱が、静かに沈殿していた。


「だからこそ、今度は誰かの命令ではなく、私のこの意志で、私たちの新しい家であるこの城門を守りたいのです」


 レインはボルグを見つめ、低く言った。


「ああ。お前の守る盾の力は、神殿の与えた役割に依存しているのではない。お前自身が、あの日の若者たちの『生の記憶』を今も守り、かつそれを乗り越えようとする、その意志に宿っている。東門の補強は頼むぞ」


「魔王様……!」


 ボルグの巨躯が、感極まったように小さく震えた。


 俺は円卓の地図を強く叩き、全員の視線を戻させた。


「次の議題だ。……我々が対峙すべき最大の壁は、アズガロスでも、アレスでもない。誰かに決められた『勇者が魔王を倒す』という、押し付けられた結末だ」


 四天王たちの視線が、俺の口元に集中する。


「かつての俺は、勇者として走らされた。女神のミスで死に、魔王として蘇った。アレスもまた、同じように誰かに都合の良い『正義』として使われている。だが、ここにいる我々は違う」


 俺は円卓の面々を順に見渡した。


「我々は、裏切られた者同士が、自らの足で集まった『家族』だ。与えられた結末を拒絶し、俺たちの人生をこの泥の上に新しく刻む。それが、ヴェルドラゴン魔王軍の真の理念だ」


「……御意に。我が主の描くその余白、この骨の剣で切り開いてみせましょう」


 ガルドスが錆びた大剣の柄を叩き、乾いた忠誠を捧げた。


「レインの『家族』なら、私の青い雷で害敵をすべて焼き尽くすだけだ」


 ティアラが鋭い角を揺らし、不敵に微笑む。


「ふふ。数千年の退屈が吹き飛ぶような、面白い物語になりそうね。私も喜んでそのページの一部になりましょう」


 メイヴィスが銀髪をかき上げ、紫の視線を俺の瞳に合わせた。


「ボルグ、お城を守ります。おにぎりのための田んぼも、私が耕します」


 巨人が力強く胸の岩肌を叩き、地響きのような頼もしい音を立てた。


 会議が終わり、全員がそれぞれの部署へと散っていく。


 会議室に残る、仲間たちの熱い魔力の残香が、この冷たい生体結晶の城に、静かな鼓動を刻み続けていた。


 だが、俺の脳内には、会議の結論が冷たく沈んでいる。


 防衛線の確立。


 人間界の監視。


 そして、いずれ訪れるアズガロスとの衝突。


 その前に、まずは「ゼロ」へ向かう。


 ジャックから、新勇者アレスの動向を聞き出す。


 家族を守るための、次の一歩だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。