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寄生虫

「綾香、悪いけど今日は出張で泊まりだ。礼子さんのグループの集まりもあるから、お前も少しは家を綺麗にしておけよ。地権者の嫁がだらしないと、俺の面目が潰れるんだからな」


翌朝、誠二は鏡の前で高級ブランドのネクタイを締めながら、勝ち誇ったように言い放った。そのネクタイも、私が昨年の誕生日に「地権者枠の配当」から買ってあげたものだというのに。

「出張、大変ね。頑張って」

私は感情を殺した声で、彼を送り出した。

玄関のドアが閉まった瞬間、私はiPadを開き、一つの管理用画面を呼び出す。

私の「地権者専用アカウント」には、このマンションの全戸の入退室ログ、共有部の予約状況、そして管理組合の会計データにアクセスできる権限がある。一般住人には秘匿されているが、再開発時の契約で私が保持している特権だ。

画面には、誠二のカードキーが先ほどエントランスを通過したログが表示されていた。そしてその行き先は、羽田空港ではなく——銀座のシティホテル。

(出張なんて大嘘。不倫相手と「タワマンの夜景」の前に、まずは銀座で景気付けってわけね。乙すぎる)

私は一息つくと、一通のメールを送信した。宛先は、管理組合の理事会。


内容は**「区分所有者による居住者変更届」**。


「本日付で、当住戸の居住者から夫・誠二を除外します。あわせて、貸与しているカードキーの全機能を、本日18時をもって無効化してください」

誠二は知らない。この部屋の契約者は私であり、彼はあくまで「私の同居人」として住まわせてもらっているに過ぎないことを。私が一筆書けば、彼はこの瞬間から、この巨大な城における「不審者」に成り下がるのだ。

その時、インターホンが激しく鳴った。

モニターに映っていたのは、48階の女王、柏木礼子だった。

「ちょっと、綾香さん! 開けなさいよ!」

ドアを開けるなり、礼子は顔を真っ赤にして怒鳴り込んできた。

「貴方の旦那様、誠二さんから聞いたわ。貴方、管理組合に『ラウンジの利用制限』について苦情を入れたんですって? 何様のつもり? 地権者の分際で、私たちが楽しむ権利を奪う気?」

私は動じず、手元の資料を彼女の目の前に差し出した。

「苦情ではなく、事実の指摘です。柏木さん。規約第12条に基づき、ラウンジの独占使用には理事会の承認と別途料金が必要です。貴方が過去三ヶ月間、一度も料金を払わず、あたかも自分の持ち物のように振る舞っていた証拠——この会計報告書の矛盾、どう説明されるおつもりですか?」

「な、なによこれ……!」

「さらに、貴方の旦那様の会社。今期、かなりの赤字ですよね。このマンション、来月には競売にかかるという噂が銀行界隈で流れていますよ。他人の家の『掃除』を心配する前に、ご自分の『差し押さえ』を心配されたらいかがですか?」

礼子の顔から、一気に血の気が引いていく。

彼女は私の胸ぐらを掴もうとしたが、私はその手を冷たく振り払った。

「柏木さん。ここは私の土地に建っている建物です。私を怒らせるということは、貴方の最後の『居場所』を私が買い叩くということ。理解していただけますか?」

礼子は言葉を失い、震える足で後退りしながらエレベーターへと逃げ込んでいった。

さて。

外では誠二が、不倫相手とシャンパンを楽しんでいる頃だろう。

私はスマホを取り出し、誠二のスマホに一通のメッセージを送った。

『誠二。お仕事(笑)頑張ってね。18時に「サプライズ」を用意しておいたから』

18時。

それは、彼がこのマンションの門を二度とくぐれなくなる時間だ。

私は優雅に立ち上がり、クローゼットから一番上質なスーツを取り出した。


今夜は、最上階に住む「真の資産家」との会食の予定がある。

掃除の時間よ。

寄生虫も、虚飾の女王も、まとめてこのタワーから掃き出す準備は整ったわ。

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