5
国王になるのは兄であり、弟である自分はあくまでスペアなのだと。
立派な国王になるであろう兄を支えるのだと。バレリ公爵を担ぎ上げお世継ぎ問題を発生させようとした不逞な輩を追い払い、兄を支える為懸命に努力したバレリ公爵。
その努力を浅はかな思考で水の泡にしようとしている甥の姿に、国王陛下、王妃殿下の堪忍袋の緒が切れた。可愛い息子が止めたので静観していたがもう我慢の限界、動き出そうとしたその時だった。
このパーティーの主役であり、渦中の人なはずなのにまるでモブのように脇役に徹していたアレクシスが深い溜息を吐く。
「――(“真の愛”ね。)」
この先、自分はずっとこのままなのだろうか。いや、このままだろう。
どんなに身を粉にして国民に寄り添って働き続けてもこの先、両親にしか愛されず独りで生きていくのだろうか。それでも自分は両親の愛を知っているだけいいのだろう。世の中にはそれすら知らない子がいるのだ。
まあ、とにかく。こんな醜く太った否、太ったなんて太った人に失礼か。こんな肉の塊みたいな私より見目麗しくシュッとしている従兄の方がいいよな。
ベリンダ侯爵令嬢の独壇場で行われている婚約破棄の茶番の間、アレクシスはずっと悶々と考えていた。
「(―――私は愛されない)」
そう思った瞬間、突如彼の身体に黒霧が纏わりつき、ムクムクとまた一回り大きくなったアレクシス。
また一段と大きくなり着ていた衣装がギシギシ、ミシミシと音を立てる。
脂肪に服が食い込み苦しそうな様子に王妃殿下は悲鳴を上げた。
「ヴッ!!!」
アレクシスは蛙を潰したような呻き声を漏らした
ッパパッパパパーーーーーーーーーーーン
遂には上着やシャツのボタンが四方八方へ弾け飛ぶ。
一つは積み上げられた最上段のシャンパングラスに見事にカップイン。
一つは意匠を凝らし複雑に結い上げられたある御婦人の髪に刺さる。
一つはバースデーケーキに穴をあけ、一つはアレクシス王太子殿下の側近の一人である侯爵家の令息がナイスキャッチ。 ――これには小さな歓声が上がる。
様々なところに飛んでいったボタンのうち最後の一つはよほど勢いついてしまったらしく、あっちこっちに跳ね返って最後にはシスル公爵令息の頭に直撃した。マヌケな声を漏らしていた。
「「「「・・・・」」」
暫し、会場に訪れる沈黙。
―――“王太子は呪われてる”
今までアレクシスを“醜い”と蔑んだ若者たちは、呆然と理解する。
ボタンが全部弾け飛んだシャツを羽織り、上半身をさらけ出したアレクシス王太子殿下が、ばつが悪そうに頬を掻きながら小さく
「失礼・・・」
と呟いた。




