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渓谷の魔女による呪い事件は、民間人の目の前で行われたが幸いにも遠すぎた事と城下町全体がお祭り騒ぎとなった為、魔女が国王陛下に横恋慕した事や呪いの詳細等は聞こえていない。
すぐさま箝口令がしかれ、事実を知る物は国王陛下たちがいるバルコニーに面した部屋に居合わせた一部の高位貴族と王宮魔導士、護衛騎士のみだ。
そのため今回婚約破棄を宣言したベリンダ嬢のように当時、幼く呪い等のことを覚えていない、もしくは知らないアレクシスと同世代の令息令嬢たちの中では、アレクシスのことを不敬にも蔑む者も少なからずいる。
年々呪いによって大きくなる殿下に嫌気がさし繰り返される婚約の解消。
彼自身を愛してくれる人がいない事で余計大きくなる殿下の身体。
負の悪循環だった。
年齢を重ねるにつれ、殿下に見合う爵位、年頃の令嬢は次々と婚約を決めいなくなる。
若い者の中にはアレクシスと婚約を結ばれないようにするために、さっさと婚約者を決めてしまおうという風潮すらあった。
今回のこのシスル侯爵令嬢との婚約も、王家への忠義高いシスル侯爵の御令嬢ならば恋心は抱けなくても家族愛や敬愛を抱いてくれるのではないか、と王妃直々にシスル侯爵夫妻と話しを付けて結んだ婚約だった。
歴史の長いこの国の王家を、優秀な未来の国王を、自分の身を削り国民に寄り添う可愛い一人息子を、蔑み馬鹿にし、泥を塗ったシスル侯爵令嬢に王妃殿下は怒り心頭だった。
「私はこちらの見目麗しく、優秀でお優しい、王太子殿下の従兄のバレリ公爵家の嫡男、シリル様と婚約致しますの。この方なら国民全員が幸せに導いてくれますわ」
「こぉら♡ベリンダ。それはまだ早いぞ。」
「あら、私とした事が気が急いてしまいましたわ。
早く真に愛する美貌の貴方と一緒になりたくて」
“公爵家の嫡男が国民を導く”という陰謀を企てているともとれる発言に会場の空気が凍りつく。
現王の弟君であるバレリ公爵の息子シリルに確かに王位継承権は存在するが最下位位だ。
しかしながら、元々兄である国王陛下を家臣として支えると決意していたバレリ公爵は、国内に要らぬ争いを生まぬよう、王位継承権を放棄している。
シリルの王位継承権を残しているのは、あくまで兄弟のいないアレクシスに何かあった時のスペアでしかないのだ。




