第49話 学園生活とコンサート
やはり、国王陛下からの呼び出しがあった。いつもの応接室に私が呼ばれた。しかし、今日は国王陛下のみで、シャルロット様は用事があるのだという。
その用事を、私は知っている。ギルフォード・ヴァイスとのお茶会だそうだ。なぜ私が知っているかって? シャルロット様とギルフォードの両方から「なんとか縁談を失敗させたい」と相談を受けたからだ。
この相談に私は頭を抱えた。現代なら「はっきりと相手が付き合いたくないと思わせる行動」をすれば済む。しかし、王女殿下と公爵令息の二人。どう考えても変な行動をさせるわけにはいかない。かと言って「会うこと自体が極秘事項なので、お二人で直接話せば?」というわけにもいかない。苦し紛れに出したアドバイスは、
「相手の前で、別の人を思い切り褒めてみればいかがです?」
というものだった。
そんなことより、目の前にいる陛下だ。
「ハーマイン!! お前、教会に何をした?」
「へ?」
「教会からは『天使ハーマイン様には、今のままでお過ごしになれるよう王室と協力します。必要とあらばホーリーナイトも出動させます』と連絡が来たぞ」
「えーと……」
私が教会で起きた出来事をありのまま説明すると、陛下は大きなため息をついた。
「本当に……お前というやつは……」
「ハハハハハ……」
「まあ、これなら良しとするか」
陛下がお茶に口をつけたので、私もそれにあわせて一口含んだ。
「ハーマイン。お前、歌がうまいんだってな」
「ゔっほーー!!」
私は口に含んだお茶を盛大に吹き出した。
「なっなっなっ……!?」
「メアリーから『お前のコンサートを開催したい』と連絡があった」
「びゃ!!」
「ちなみに、王立劇場を押さえておいたぞ」
「なぜ!? そこまで!?」
お茶で喉を盛大にむせ返しながら叫ぶ私に、国王陛下はニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべた。
「なぜも何も、あのメアリー・ロッドマンが『我が国の音楽史を百年進める至高の歌姫を見つけた!』と興奮冷めやらぬ様子で余の元へ駆け込んできたのだぞ?」
「陛下、お言葉ですが、私の歌などメアリー様の過大評価に過ぎません! あの温泉と観光による一時的な錯覚かと存じます!」
「うむ。ロビーで歌ったという歌は歌詞も良く、メアリーも感動のあまり泣いたと聞いているぞ。他にその場にいた貴族からも同様の報告を受けておる」
「うぐっ! しかし私、声も小さいので、あのような大劇場で観客席まで声が届かないかと……」
「帝国との戦争時、戦場全体にお前の声が響き渡っていたのを聞いたが?」
「ですが陛下、私はピアノしか弾けませんよ!?」
「ピアノソロのリサイタルで良いではないか」
「けど、あの大劇場にピアノと私だけなんて……」
「見苦しいぞ!! ハーマイン!」
「ひっ!!」
「シャルロットなど『ハーマインの歌を大劇場で聴きたい!』と目を輝かせておったぞ。……断れるかな、ルード男爵?」
「ぐぬぬぬっ……!!」
ガリア帝国や教会を恐怖のどん底に叩き落としてきた私だが、この狸親父——失礼、国王陛下の逃げ道のない外堀の埋め方には勝てない。
「あっ、そうだ。チケットは王都の高級貴族たちに即日完売だ。期待しておるぞ、我が国の誇る『奇跡の歌姫』よ」
「ううっ……」
こうして私は、国家の威厳(と王室の道楽)のために、王立劇場のステージへ引っ張り出される羽目になったのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
週末、王立大劇場。
観客席には、国王陛下をはじめ、お茶会を無事に(?)破談にして駆けつけたシャルロット様とギルフォードの姿があった。なぜか妙に仲が良い。一体何があったのだろうか?
その横では、シュタイン公爵令嬢のイザベラ様が「ハーマイン頑張って!!」とぶんぶん手を振っている。
さらには大満足で前列陣取るメアリー・ロッドマン率いる、この世界のフルオーケストラがズラリと並んでいた。
スポットライトが照射され、ステージ中央に立たされた私は、可憐なドレス姿で静かに深呼吸をした。
(……ええい! もうどうにでもなれッ! 根性で叩き込んでやる……!!)
開き直った私は、前世のカラオケで鍛え上げたソウル(魂)を込め、朗々と歌い始めた。
選んだのは——昭和・平成の名曲たち。
『ボルテスVの歌』
『残酷な天使のテーゼ』
『ヘビーローテーション』
『ダンシング・ヒーロー』
『木枯らしに抱かれて』
『君に会えてボクはボクになる』
『小さな恋のうた』
13歳の可憐で小さな少女の口から発せられたとは思えない、重厚で切なく、そして圧倒的な声量と感情表現。
異世界の管弦楽団が奏でる繊細な伴奏に乗せて、歌声が大劇場の天井を揺らす。
観客席の貴族たちは息を呑み、涙を流し、うっとりとその旋律に聞き惚れていた。
シャルロット様は胸の前で手を組み、「ハーマイン様……なんて素晴らしいの……」と感涙し、メアリーにいたっては涙をボロボロ流しながら狂気的な笑みで指揮棒を振っている。
イザベラ様にいたってはあまりの感動に失神しかけていた。
そしてアンコール——最後に私が繰り出したのは『ヤングマン(Y.M.C.A.)』だった!
「さあみなさん、ご一緒に!」
私が腕で「Y・M・C・A」のポーズを決めると、観客席の貴族たち、さらには国王陛下やメアリー指揮者、オーケストラまでもがノリノリで「Y・M・C・A!」と腕を掲げて踊り出し、大劇場は興奮の坩堝と化した。
最後のロングトーンが綺麗に響き渡り、熱気冷めやらぬ中で私が静かにカーテシー(お辞儀)を捧げた瞬間——
ワァァァァァァァァァッッ!!!!
雷鳴のようなスタンディングオベーションと、割れんばかりの拍手が劇場全体を包み込んだ。
投げ込まれる花束の山。失神する貴族。
こうして、軍事・政治・技術革新に続き、私は不本意ながら「王国史上最高の伝説の歌姫」としての凄まじい肩書を背負わされることになったのだった。
「ハーマイン頑張れ!」「この勘違い(オチ)はひどい(褒め言葉)」など、少しでもクスッとしていただけましたら、
リアクションをしてくると嬉しいです。
ページ下部の【ポイント評価(★★★★★)】
【ブックマーク】
で応援していただけると大変励みになります!




