第48話 教会の面々
ルード領のオズワルド司祭、かれこれ15年になる。
同期の中には司教に昇進している奴もいる。しかし3年前、バルトロ商会に「温泉施設がタダで手に入る」と唆され、王都の司教であるロズウェル様にお越しいただいたものの、「教会の特権である治癒施設ではない」と断定されてしまった。
この件でわざわざ来ていただいたロズウェル司教の顔に泥を塗ってしまったが、この施設から確実な収入を得たことで、私の首はなんとかつながった。
それにしても、あの屈辱的な施設——温泉神社と温泉寺。あれはどう見ても教会を侮辱している。
あの赤い柱だけの門、その横に石でできたこちらを睨んでいる犬の像。そして謎なのは、大きな鈴がぶら下がった綱をブンブンと振ってガランガランと音を立てたあと、手を合わせる参拝方法だ。聖アルテミス様を祀っていると聞くが、どうにも腑に落ちない。
さらに、おみくじとお祓いと称される巫女の舞。どう見てもあっちの方が儲けが良さそうだ。そしてもう一つの温泉寺。これも似たような施設なのだが、中に入ると聳え立つ二つの十三重塔。その奥の大本堂には、等身大のアルテミス様の像が我々の方に手をかざし、なぜか鎮座しているのだ。
しかし、そこで集められた賽銭は、この貧しかったルード領における教会収入のかなりのシェアを占めていた。
最近、蒸気機関車が開通して王都からの観光客が増え、その額はさらに増加した。うまくいけば、私にも王都に戻れる可能性が出てきている。
そこへ、ロズウェル司教様から「ルード領に『天使様のご加護』を持つ男爵令嬢がいて、大司教様がお会いしたいと言っている」との連絡が入った。
男爵令嬢ということは、あの『アスタリスクエフ』……悪い思い出しかない。領内での反乱の時は、教会に閉じこもっていたから無事だった。
騎士団が「助けてくれ」と扉を叩いたので扉を開けると、そこには騎士団の死体が転がっていたのだ。一分もない時間で、数名の騎士が殺されていた。そしてその中央に、あの『アスタリスクエフ』が立っていた。
あの光景——『天使様のご加護』を持つ少女などではなく、まさに『悪魔』だ。しかしハーマイン様は、ルードの英雄として領民には『ルードの天使様』と呼ばれている。
彼女を大司教に合わせることと、これまでの上納金を考えた場合、私が王都に戻れる可能性が出てきた。しかし、少し不安が残る。
だがとにかく、私は馬車鉄道に乗って王都に向かった。ハーマイン様にアポを取るために。
⭐︎⭐︎⭐︎
王都に着いたオズワルド司祭は、ロズウェル司教からいただいた紹介状を手に王立学園に向かい、ハーマイン様に面会を求めた。
しばらくして学園の応接室にハーマインが現れ、和やかな笑顔をオズワルド司祭に向けた。
「これはこれは、オズワルド司祭様、お久しぶりです。ところで王都まで来られて、何かございましたの?」
「そうなんです、ハーマイン様。実は先日の帝国との戦いで『天使様のご加護』があったとの話から、大司教様が面会したいと申されまして、面会の書状をお持ちしました」
するとハーマインは、書状を開けて読んだ。
(これが陛下がおっしゃっていた教会からの勧誘か。よく読むとサインは『ロズウェル司教』と書いてある。現在の大司教の名前は『カエサル』。この時点でこの話はおかしいわね。……でも、オズワルド様は私が『アスタリスクSSS』だったのを『アスタリスクエフ』といい方向に修正してくれた人物。はぁ、行かないと一地方の司祭様、ここ以上の左遷先がないとすれば降格になるわ。そうなるとかわいそうだものね)
「オズワルド様」
「はっ! はい!!」
「この文章のサインですが」
「はい?」
「ロズウェルとなっておりますわ。それに今回は、大司教様が会いたいとおっしゃっているというよりは、ロズウェル司教様が大司教様に紹介すると言っている話になっていますわよ」
「ちょっと、見せていただけますか!?」
オズワルドは焦ってその書状を読み返し、ガックリと肩を落とした。彼はこう思ったのだ。
(また利用された……そして捨てられるのか)
「オズワルド司祭様、私に考えがございますので、手伝っていただけます?」
その話を聞いたオズワルドは、後に日記にこう記していた。
——『ルードの天使様』は、時として『悪魔的な天罰』をお与えになるお方である、と。
⭐︎⭐︎⭐︎
ハーマインSIDE
ここは、王都の大聖堂。
私はオズワルド司祭様と共に大聖堂の中を歩いている。そして大聖堂の一角にある応接室に通された。しばらくして、ロズウェル司教が入ってきた。聖職者としては、いささか恰幅が良すぎる気もする。私が挨拶しようとすると、彼は真っ先にオズワルド司祭様に声をかけた。
「オズワルド司祭、『天使様のご加護』を受けた男爵令嬢はどこにおるのじゃ」
「ロズウェル司教様、こちらが『天使様のご加護』を受けたルード男爵令嬢のハーマイン様です」
「ハーマイン・ルードです。ごきげんよう」
私のカーテシーを見たロズウェル司教は、あからさまに「こいつが?」という顔をした。
「オズワルド!! どういうことだ? 冗談はよせ! こいつのどこが聖女様だ。俺に恥をかかせる気か!?」
「ロズウェル司教様、私は貴方様の指示通り、『天使様のご加護』を受けたルード男爵家のご令嬢をお連れしたまでです」
「男爵令嬢!? この『チンチクリン』のクソガキのどこが13歳のご令嬢だ!! 貴様の目は節穴か!! どうすんだよ!」
「あの……?」
私が話しかけようとすると、
「話しかけるな!! クソガキがオズワルドに金を渡されて演技しているだけだろ!!」
オズワルド司祭様は顔を青ざめさせている。
「そうだ、妹ということにしよう。いいかお嬢ちゃん、謁見は中庭で行われるから『妹です』と言え。そうすれば生きて返してやる」
(オズワルド司祭様が胃を押さえているわ……)
「分かったな!?」
こうして私たちは、中庭で大司教様と会うことになった。
⭐︎⭐︎⭐︎
中庭では数名の貴族たちが立ち並ぶ中、私はオズワルド司祭様と一緒に並んでいた。やがてカエサル大司教が現れ、一人ずつその領地の司祭や、それに連なる司教と一緒に大司教様へ挨拶をしている。合わせてお布施も納めているようだ。
やがて私の番が来て、目の前に大司教様が立ち止まった。本来ならロズウェル司教が間を取り持つ予定だったが、そこに姿がない。そのため、オズワルド司祭様が私の紹介をした。
「大司教様、こちらが『天使様のご加護』を受けたルード男爵令嬢です」
挨拶としてカーテシーをすると、
「ほう? こちらが……」
意外にも、大司教様は私に興味を示した。
「少ないですが、これをお納めください」
それは金貨500枚が入った袋。それをオズワルド司祭様から大司教の秘書に渡すと、秘書はその重さに目を見張っている。
「この方がそうか。ロズウェル司教、君が私に会わせたいと言っていた聖女様かな?」
そこへ、ロズウェル司教が慌ててやって来て私を睨みつけた。
「大司教様!! こやつは嘘をついております! オズワルド司祭に金を渡されて我々を騙しに来ているに過ぎません! ホーリーナイト!! こやつらを捕らえろ!」
すると、ホーリーナイトと呼ばれる騎士たちが中庭に現れた。
「早く!! こいつらを逮捕しろ!」
「私を逮捕ですか? そのようなことをすれば、天罰が下りますわよ」
するとロズウェル司教は私の手を掴み、
「貴様!! 何を言うか!」
「やめい!!」
大司教様の一言で、ホーリーナイトは動きを止めた。
「大司教様、何を! こいつは我々を侮辱したのですぞ!」
「ならばロズウェル、お主が対処せよ」
次の瞬間、私はロズウェル司教の手を振り切って跳び退いた。それに呼応して、オズワルド司祭もその場から素早く離れた。
「どこだ!? どこに逃げた!」
雲一つない晴天。私は彼の少し上空に浮遊していた。体を眩い金色に輝かせ、背中にデコイの光の羽を広げている。その神々しさに、大司教様までもが膝をついて祈りを捧げ始めていた。
その中で——
ピカッ!! ドドーンッ!!
と、ロズウェル司教の頭上にピンポイントで激しい雷が落ちた。
黒焦げになったロズウェルを見下ろし、大司教様は震える声で呟いた。
「アルテミス様……私は、このお方の自由をお約束いたします……!」
「ハーマイン頑張れ!」「この勘違い(オチ)はひどい(褒め言葉)」など、少しでもクスッとしていただけましたら、
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