第47話 壁に耳あり
「壁に耳あり、障子にメアリー」と言う諺がある。私がこの諺を痛感した日だった。
この世界の娯楽は、現代に比べると悲惨なものだった。なので、下手な賭け事が横行している。エンタメといっても、貴族では、オペラ?もしくは、演劇、音楽といっても、クラッシックほどではなく、ピアノにギターと琵琶を合わせたような楽器と太鼓、フルートのような横笛くらいの簡素な楽器による管弦楽団での演奏が主流、町では、吟遊詩人くらいしかないのが現状、特に貧困だったルード領では、娯楽が遅れていた。
そんなある日のこと、私が温泉施設を見回っていると王侯貴族向けの宿泊施設のロビーにピアノがあるではないか。
実は、わたし、今世では、結婚できるようにとピアノを習わされていたので、多少の心得がある。
久しぶりにネコ踏んじゃったをやってみたら、いい音色。今は、午前中、客のほとんどが観光施設にいるはず。わたしは、当たりを見回して、誰もいないのを確認。
「周囲警戒よし」
そして、この世界の曲を一曲弾いたあと、現代の『小さな恋の歌』を弾き語りしてしまった。
「ふーっ」
久しぶりに日本の歌謡曲を歌ってしまった。でも、気分がいい。そんな自分に酔いしれていると
パチパチパチパチ
と手を叩く音が
「はっ!」
振り向くとそこには、この国の一の作曲家で指揮者のメアリー・ロッドマンが立っていて、その後ろには貴族の方々が数名おられた。
「素晴らしい。実に素晴らしい!!お嬢さん。私の楽団に入ってみませんか?」
「えっ?」
すると他の方々が、それに呼応するかのように拍手をしはじめた。私は、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして、立ち上がろうとすると
「おお!!」
この視線、そうだ。小さくカーテシーをして逃げようとしたら、拍手がさらに大きくなった。
しかし、メアリーは、
「お嬢さん。もう一曲、あなたの歌を、聴きたいと皆がもうしております。お願いできませんか」
(こいつ!!正気か?。しかし、この状況、やらないとダメなやつだよね。ああ、だれか助けて?)
仕方なしに『君に会えてボクはボクになる』を披露すると。湧き上がるスタンディング、もう一度、挨拶後、私にどなたかのシルクハットにこれでもかと金貨が入っていた。
後日、わたしが国王陛下達にたっぷりと嫌味を言われたあと、王立劇場で歌を披露させられたのは言うまでもない。




