第46話 地獄の帰省生活
帰省とは実家に帰ってのんびり過ごすことを意味するはずが…どうしてこうなった?
ルード1号がシューシューと白い蒸気を吐き出しながら終点の「温泉口駅」に滑り込むと、ホームには胃を押さえて青い顔をしたお父様が突っ立っていた。
昨日までの二日間、私という主役不在の中で国王陛下御一行のアテンドを一人で押し付けられていたのだ。その疲弊ぶりたるや、いまにも倒れそうなほどである。
(……お父様、本当にお疲れ様です……)
心の中で合掌しつつ、私は乗客である陛下たちへ機関車の説明を始めた。
「陛下、この機関車は蓄積魔導石と発熱魔導石、そして補助として石炭を燃やして動かしております。魔導石の熱でボイラーの水を蒸気に変え、その圧力で車輪を……」
本当は説明もそこそこに機関室へ飛び込み、機関士と一緒にメーター類や圧力弁の挙動をじっくり観察したかった。
しかし、現実は甘くない。
温泉口駅に着くやいなや、旅の移動で疲れ切っているはずの私を、シャルロット様とイザベラ様が両脇からぐいぐいと引っ張っていく。
「さあハーマイン! 温泉に入りますわよ!」
「一緒にお背中を流し合いましょうね、ハーマイン様!」
「あ、あの! 私はまず機関室のチェックを——」
「ハーマイン! それよりこの蒸気機関車、いつ王都まで引けるのだ!? 来月か!? 再来月か!?」
さらに後ろからは国王陛下からの質問攻め。
こうして、私の待ちに待ったはずの冬休みは、休む間もない「地獄の帰省」として幕を開けたのだった。
☆☆☆
二日後。
温泉とごちそうをたっぷり堪能した国王陛下たちが、ようやく王都へお戻りになる日がやってきた。
私は「臨時列車」として、完成したばかりのルード1号で陛下たちを王都まで直接お送りすることにした。
客車の窓から広がる景色を眺めながら、国王陛下がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「なんと!! 既に王都までの路線が開通済みとは……お主も悪よのう、ハーマイン」
「……どういう意味でしょうか、陛下?」
私は素で首を傾げた。単に技術試験と資材搬入のために突貫工事で敷設しておいただけなのだが、国王の目には何か巨大な陰謀のように映ったらしい。
しかし、理由はどうあれ——王都とルード領の間を、既存の馬車とは比べものにならない速度で「ノンストップ爆走」するルード1号の走破性は、文字通り世界を変えた。
王都へ到着した国王陛下と両姫様が「ルード領の蒸気機関車と温泉は素晴らしい」と周囲に大絶賛した結果、この直後、ルード領へ押し寄せてくる「お留守番だった高級貴族様たちの巨大団体ツアー」の波を、このときハーマインはまだ知る由もなかったのだった。
(※なお、お父様の胃薬の消費量は過去最高を記録した)。
「ハーマイン頑張れ!」「この勘違い(オチ)はひどい(褒め言葉)」など、少しでもクスッとしていただけましたら、
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