第35 戦後処理
反乱の煙が収まった。
領館は、燃え落ちていた為、領民共同組合の会議室でこれからのことを、打ち合わせていた。
怪我から回復したお父様は、重い沈黙を破り、領主として極めて重い決断を下した。
本来、この世界における反逆および裏切りは最悪の重罪である。
主を裏切り、領民を恐怖に陥れた騎士団員の家族であれば、当然のごとく連座制が適用され、老若男女問わず全員が「即刻処刑」となるのがこの時代の揺るぎない常識であった。
しかし、お父様は苦渋の表情を浮かべながら、集められた遺族たちに宣言したのだった。
「我が領民を裏切り、傷つけた罪は万死に値する。本来ならば連座にて全員処刑とするところだ。……だが、我がルード男爵家は、罪なき者にただ死を与えることを望まぬ。故に——『生きる』か『死ぬ』か、お前たち自身に選択を委ねる」
お父様が提示した条件は二つ。
【生きる】……家財を没収の上、全員「鉱山労働」へと送られ、一生を罪人として贖罪に捧げる。
【死ぬ】……武士の情けとして、苦しまずに死刑に処する。
ただし、10歳以下の幼い子供に関しては、命を奪うことを良しとせず、母親と共に鉱山送りとし、労働の傍らで生き延びる機会を与えることとなった。
「生きるか、死ぬか……各自、選ぶが良い」
お父様の毅然とした、しかしどこか苦しげな宣告に、処刑を覚悟していた遺族たちの間に激震が走った。
「そんな……! 夫の犯した罪のせいで、なぜ私たちが酷い鉱山で泥に塗れて生きねばならないのですか!」
「死んだ方がマシだ! 誇りを捨てて泥の混じった飯を食うくらいなら、いっそ今すぐ殺してくれ!!」
逆ギレにも似た悲鳴と暴言を上げ、プライドから「死刑」を選ぼうとする大人の遺族たち。
重苦しい雰囲気が場を支配しかけたその時——会議室の隅で腕を組んでいた私が、静かに歩み出た。
「……ハァ、ちょっと待ってください」
私は呆れ顔で溜め息をつくと、お父様と遺族たちの間に割り込んだ。
「お父様。『死ぬ』なんて選択肢を与える必要はありませんわ。完全に人手不足の無駄遣いです」
「む……ハーマイン? 一体どういう意味だ?」
「今、我が領地は今回の戦の復興と王命による道路整備と駅馬車建設で、どこもかしこも圧倒的に人手が足りていないのです! そんな貴重な労働力を、ただ首を撥ねて土に還すなんて、経営的にも経済的にも愚の骨頂ですわ!」
私は「死刑」を叫んでいた大人たちを冷ややかな目で見下ろした。
「『死んだ方がマシ』? 『誇り』? ふざけないでください。身内のしでかした大罪で死んで逃げようなんて甘えです。死んで逃げるくらいなら、死ぬ気で鉱山で働いて、死ぬまで我が領地に利益を還元しなさい! 誇りを捨てて泥を啜ってでも、生きて我が領の発展のために骨の髄まで働き尽くすことこそが、本当の贖罪というものですわ!」
「「「……っ!?」」」
私の身も蓋もない超・合理的(かつ冷徹に見える)主張に、場にいた全員が息を呑んだ。
「というわけでお父様! 『死刑』の選択肢は廃止です! 全員強制的に鉱山送りとし、過酷な労働で領地の復興に従事させましょう! もちろん、10歳以下の子供たちには過重労働をさせず、鉱山併設の作業所で軽作業をさせつつ、教育を受けさせて将来のまともな労働力として育成します!」
ふぅと一息を吸ったハーマインは、鬼の形相でお父様を睨んだ。
「お父様!!いいですか?」
「……ひっ!、ハ…ハーマインの言う通りだ。し…死んで罪が消えると思うなよ。……これより、全員を鉱山送りとする!」
お父様は私の真意を察し、力強く頷いた。
……そう。
表向きは「死刑すら許さず、骨の髄まで働かせる冷酷な処遇」に見えるが、その実、私は「誰一人として死なせず、生きる道(と子供の未来)を残した」のだ。
こうして、裏切り者たちの家族は一人も命を落とすことなく、全員が鉱山へと送られた。
過酷ではあるが食事と最低限の生活、そして子供の教育環境が保障された鉱山で、彼らは自らの罪と向き合いながら、新たな一歩を踏み出すこととなったのだった。
しかし、この時の光景を見ていたユーグリットは、こう思った。
『アスタリスクエフ』と思っているのは、領民の中には、ほとんどいない。ハーマイン様を『ルードの天様』と呼ばれていることが多くなった。しかし、あれは、『天使の仮面を被った悪魔』だ。
「ハーマイン頑張れ!」「この勘違い(オチ)はひどい(褒め言葉)」など、少しでもクスッとしていただけましたら、リアクション、ページ下部の【ポイント評価(★★★★★)】や【ブックマーク】で応援していただけると大変励みになります!




