第32話 領地での反乱 1
それは、12才の夏休み明け、国王陛下一行のルード温泉での夏休みも終わり、警護にあたっていた騎士たちも無事に王都へ帰還し終えた。
夏休み明け特有の最も体が怠い日。昼休みにシャルロット様、イザベラ様と他愛もない話をしながら寛いでいると、教室の扉が勢いよく開き、息を切らした教官が飛び込んできた。
「ルード男爵令嬢!! お前の商会の者が至急面会を求めているぞ!」
「……! わかりました」
⭐︎⭐︎⭐︎
「……なにいっ!?」
面会室に駆け込んだ私を迎えたのは、ハータン商会員の一言だった。
『領内で反乱が発生』
その衝撃的な報告に、思わず声を張り上げてしまった。現状、領地からの連絡は電信による緊急報告のみだという。
「わかった。すぐ向かう!」
私は即座に学園を飛び出し、ハータン商会の王都本部へと急行した。
電信の情報を精査した結果——領都内に突如300名ほどの謎の武装集団が現れ、領都を占拠。お父様は即座に領地騎士団を率いて出陣したことまで判明した。だが、肝心の領民たちの安否や詳しい状況は依然として不明のままだ。
「なるほど……ボタ山と温泉施設、そして領民協同組合本部は無事ね。よし、『避難計画B』を実行に移して! 私は今夜、空を飛んで現地へ向かう。至急『マジックブースター』を用意しなさい!」
「はっ!」
「本部へ電信! 『ハーマインが直ちに向かう』と打ち込んで!」
「はっ!!」
この『マジックブースター』という魔導具は、私が風魔法の応用で空中を滑空できたことから、エルダー爺が極秘に開発してくれた特注品だ。背中に背負うリュック型の風魔法増幅炉と、そこから肉厚なチューブで繋がった足元の鉄製ブーツで構成されており、足裏から高圧の風を噴射して圧倒的な推力を叩き出す。
……ただし、この強烈な反動と風圧に耐えられるのは、身体強化を極めた私一人しかいない。
日が落ちて暗くなってから飛ぶつもりだ。さすがに王都の真っ昼間から幼女が空を爆走していたら、目立ちすぎて大騒ぎになってしまう。
私がハータン商会の庭で出撃準備を整えていると、私の異変を察知したシャルロット様とイザベラ様が駆けつけてきた。
「聞きましたわ、ハーマイン……!」
「ハーマイン、あなた……まさか一人で現地へ行く気なの!?」
「私の大切な領地で起きていることですもの」
「ですが、どれほど急いでも王都からルード領までは二日はかかりますわ!」
「それでしたら、私からお父様に掛け合って正規軍の救援を——」
「シャルロット様、お気持ちは大変ありがたいのですが、これは我が領内の問題です。国王陛下のお手を煩わせるわけにはまいりません」
「……わかりましたわ。もし救援が必要になったら、躊躇わずに連絡をくださいね」
「シャルロット様、イザベラ様、本当にありがとうございます。……そろそろ時間です、参りますわ」
私は二人に礼を言い、商会の広大な庭園へと向かった。しかし、そこには馬車も護衛の姿もない。
「ハーマイン様、先発部隊(陸路組)はすでにフルスロットルで出発いたしました。『二日後、現地で会いましょう』とのことです」
「わかったわ」
商会員の報告と、私の背中と足元に装着された見慣れぬ無骨な鉄の装備を見て、シャルロット様とイザベラ様は状況が飲み込めず目を丸くさせている。
「ハーマイン、一体……どうやって行くつもりなの……?」
「空を飛びます。……シャルロット様、イザベラ様、このことだけは絶対に御内密にお願いしますね」
私が不敵に微笑むと、二人は一瞬だけ息を呑み——示し合わせたかのように同時に歩み寄ると、私の両頬にそっと唇を重ねた。
チュッ
「「……ご武運を、ハーマイン♡」」
「では、ハーマイン様。発射体制、完了です!」
「ハーマイン・ルード、出発します!!」
ハーマインは、フワリと上空に浮かぶと二人に向けて敬礼、そして、ルード領に向くと
キャルルルル
足元のブーツから激しい圧縮空気が唸りを上げ、夜の闇を切り裂く。
ドーーーン!!!
背中と足元からの圧倒的な風圧を背に受け、私は夜空に向かって一気に弾丸のごとく飛び出した。目指すは、愛する家族と領民が待つ、我がルード領——!!
「ハーマイン頑張れ!」「この勘違い(オチ)はひどい(褒め言葉)」など、少しでもクスッとしていただけましたら、リアクション、ページ下部の【ポイント評価(★★★★★)】や【ブックマーク】で応援していただけると大変励みになります!




