第31話 インフラ整備と借金
夏休みの疲れも取れぬまま、私は、国王陛下に謁見している。普通なら玉座の前で謁見するのだが、今回は、応接室に国王陛下と直接話をすることになった。
「ルード男爵令嬢」
「はっ!」
「貴殿の領地を見て感動した。まずは、舗装された道路、王都でも一部、石畳をしているかあれほど平坦な道をつくるとは、それと、馬車鉄道は、あれは、素晴らしい。駅馬車制度を利用しており、しかも、速い。これを王都の全ての道に施工してほしい」
「陛下、お言葉を返す様ですが、全ての道路に舗装をすることはやめておいた方がよろしいかと」
「なぜじゃ」
「全ての道路を舗装するには莫大な費用がかかります。それであれば、主要な幹線道路を重点的に舗装する方が、よろしいかと愚行致します。駅馬車も同様です。まずは、王国で重要な都市間から繋げた方がよろしいかと存じます」
「それはなぜじゃ」
「それは、主要な物質を早く運べる様になるからです」
「うーむ。貴殿のいう通りじゃな」
「それに駅をつくり、そこに兵の駐屯地として活用すれば、盗賊もその道路を警戒するでしょう」
「そうだな。それと例のスーパー銭湯はどうか」
「あれは、こんな感じになります。残念ながら、王都には温泉がありませんので、お湯を沸かす方法になります。浴槽は、内湯と露天風呂として、薬効風呂とします。あと、サウナをつけ、入浴後、お食事処と休憩スペースを設けます。そして、王族専用スペースはこちらに」
「おお!!そうか」
「運営は王立商会にお任せします」
「いいのか?それで」
「はい」
しかし、このスーパー銭湯、庶民に大人気な上、貴族からも大人気になった。特に貴族は、王都に来たらここでまず旅の疲れを取るのが当然になってしまった。
国王陛下も王立商会の利益が上がることと、実は温泉ほど効能がないことから、王族専用スペースを貴族用として、運用している。
当初の目論見である国王陛下が入らなくなったのは、残念な結果となったが、かなり収益を上げているそうだ。
だからなのだろう。この後、国王陛下が温泉に入りたいと言い出したので、片道2日でいける。私の馬車を貸し出したのだった。
そして、領地に向かって合掌した。お父様とお母様が胃潰瘍になりません様にと
こうして、大規模事業が始まる。もちろん、王立商会が王国から受注し、それを我がハータン商会が下請けする構造だ。王都では、スラムや働きたい人を集めて、工事準備に当たらせた。
しかし、このことをバルトロ商会とその背後にいるヴァイス公爵がお気に召さないようだった。
そして、事件が起きた。
バルトロ商会がルード男爵家に対して、借金の即時返還要求を出してきたのだった。
その額 金貨3000枚
この借金、お父様がバルトロ商会に騙されて作ったものだった。
その額、金貨5000枚
しかし、私が10才になってから、毎年1000枚づつ返済していた。なので、たぶん、返済できないと踏んで、商業ギルドと手を組んで、やってきたのだろう。
そこで私は、国王陛下に監視人を依頼した。すると、国王陛下は、あの火を吹きそうなお酒をくれたら、という条件で監視人を送り込んできた。
国王陛下からの監視人なので、商業ギルドも文句は言えなかった。こうして、私は、金貨三千枚を商業ギルドの一室で支払うことにした。
商業ギルドとバルトロ商会は、監視人が自分たちが提示した請求額に不正がないかをチェックするためにやってきたと思っていたので、目の前に金貨三千枚をドンと置かれた時、目を白黒していた。
金貨三千枚これは王都における株式会社ハータン商会の三カ月の実質の最終損益にすぎない。そして、株主である私にそのお金は入る。
「これで、バルトロ商会とは縁を切ります」
「はぁ?、ちょっと待ってください。我々をルード領から追い出すということですか?」
「ルード男爵令嬢!!それはいくらなんでも横暴としか、言えませんね。そうでしょう監視人」
商業ギルド側もこれには文句をいった。
「......」
監視人は、無言を貫いた。
「何故、無言なのですか」
「商業ギルドは、王国に抗議します!!」
すると監視人は重い口を開いた。
「ルード男爵令嬢は、バルトロ商会をルード領から追い出すとは一言も言ってない」
その言葉にバルトロ商会と商業ギルドの各担当は気付いた。
「その通りですわ。なので、他の商会にもルード領内での出店を認めますわ」
「ふん。好きにするがいい」
「商業ギルドもお認めになりますか」
彼らはそんなことができないと踏んでいた。わざわざ、辺境の領地に新しく店を出す輩など、そして、これまでの風習があるので大丈夫だと。
「認める」
「では、認めたことの証拠として、この書面に商業ギルド長のサインをお願い致しますわね」
私が和かに渡した書類を見て、顔色がかわった。それは、この書類は王国の紋章が入った正式な契約書であるからだ。つまり、これに署名しないと彼らの首が物理的に飛ぶことになる。
何故、ここまでするかというと、この国には、この地域は、この商会という風習が存在しているからだ。なので、この書面を見た瞬間、二人は顔面蒼白になった。なぜなら、王国の監視人がいたからだった。
「クソ!」
そう言って睨みつけてきたのは、バルトロ商会の担当者は、伝書鳩を飛ばし、商業ギルドの担当者は、慌てて部屋を出て、ギルド長を呼びに行った。
しばらくして、バルトロ商会、商会長バルトロと商業ギルド長のハンスがやってきた。
そして、書類を見て、真っ赤な顔をして、担当者を怒っていた。
しかし、彼らはかんがえたここで王国に喧嘩を売るより、王国の指示にしたがったほうが良い。
「わかりました。ルード男爵令嬢のおっしゃる通りにいたします」
こうして、契約書にサインをしたのだった。
当然、監視人と冒険者ギルド、ハータン商会とバルトロ商会が立会う中、きっちりと支払いを無事に終えた。
するとバルトロは
「ルード男爵令嬢は、我がバルトロ商会との取引を停止されるとおっしゃっておりましたが、何がございましたら、ご用命してくださいね」
(あんな辺鄙な領地に誰が店を出すものか。それに、こちらで、店を出そうとすれば、全て止めてやる)
「まぁ。なんと懐がお深いのでしょう。しかし、安心してください。すでに新しい商会と取引契約を結んでおりますのよ。ですから、今日はこれにて、ごきげんよう」
私が和かにそう告げた後、監視人と一緒に商業ギルドから出て行ったのだった。
数日後、バルトロは、ある話を聞いて、紅茶の入った素焼きのカップを思わず落とした。
「は?それは事実か?」
「はい。バルトロ様、『王国商会』がルード男爵家と正式に契約したことは、間違いありません」
⭐︎⭐︎⭐︎
金貨三千枚の即日一括返済という大力技で、バルトロ商会と商業ギルドの鼻を明かした数日後のこと。
王宮の特別大広間にて、国王陛下主宰による公爵家を集めた盛大な酒宴が催された。
当然、そこには私を陰で潰そうと裏で糸を引いていたヴァイス公爵の姿もあった。不意の即金返済で計画を狂わされた公爵は、どこか苦々しい表情を隠しきれずにいたのだが——そんな彼に、上機嫌の国王陛下が親しく杯を勧めたのだ。
「ヴァイス公爵、そう険しい顔をするな。今宵は特別に、最近、ルード男爵領から献上された『伝説の銘酒』を用意させたのだ。実に甘く、喉越しも爽やかで実に飲みやすい極上の酒だぞ。さあ、遠慮せずに飲むが良い!」
「は……ははっ、陛下直々の賜り物、謹んで戴きます」
陛下から差し出されたグラスには、美しく透き通る果実色のカクテルが満たされていた。
……そう。これこそが、国王陛下からの密かなご依頼によって、私が調合した「悪魔のカクテル」である。
ベースになっているのは、あの国王陛下すら「火を吹きそうだ」と唸らせた超高濃度のスピリッツ。そこに甘い果汁とシロップ、微炭酸を絶妙な黄金比で配合し、アルコールの強烈な刺激と臭みを完全に覆い隠したのだ。
口当たりはまるで上質なフルーツジュース。しかし、中身は超・高濃度アルコールそのものという恐ろしい罠である。
「おお……これは! なんと甘く、フルーティーで素晴らしい味わいでしょうか! 幾らでも飲めてしまいそうですな!」
すっかり味を気に入ったヴァイス公爵は、それがハーマイン特製の「度数激高カクテル」だとは夢にも思わず、満面の笑みで何杯も何杯も杯を重ねていった。
そして——わずか三十分後。
「ぐ……ぐぬぬ……な、なんだか……急に頭が……世界が回って……っ!?」
後から一気に襲いかかってきた猛烈な酔いに、顔を真っ赤にしたヴァイス公爵は、激しい目まいに襲われてその場に崩れ落ちた。
「ガハハハハ! どうしたヴァイス公爵、もう潰れてしまったのか! 愉快愉快!」
豪快に笑い飛ばす国王陛下と、身動き一つ取れずにそのまま運ばれていくヴァイス公爵。
裏で汚い手を回して男爵家を追い詰めようとした大貴族が、子供の作った「甘いカクテル」で無様に泥酔・撃沈させられるという最高のお返しに、酒宴に参加していた他の公爵たちも大爆笑だったという。
……なお、後日この話を聞いた私は、またしても静かに天を仰いだのだった。
(私、ただ陛下にお酒の新しい飲み方を提案しただけなんですけど……また公爵家に目をつけられませんように……!)
「ハーマイン頑張れ!」「この勘違い(オチ)はひどい(褒め言葉)」など、少しでもクスッとしていただけましたら、リアクション、ページ下部の【ポイント評価(★★★★★)】や【ブックマーク】で応援していただけると大変励みになります!




