第28話 夏休み 2
ルード領に帰還した私は、両親への挨拶もそこそこに『ボタ山要塞』へと向かった。
本来なら温泉施設の突貫工事現場の進捗を直接見に行くべきなのだが、私が現場へ顔を出すと職人たちの手が止まってしまう。そのため、作戦本部が置かれている要塞へと足を運んだのだった。
そこでは、理化学研究所の技師たちが私を待ち構えており、ある実験への立ち会いを求めてきた。
「これは……?」
テーブルの上に置かれていたのは、幾重にも紙が巻き付けられた丸い球体。……まさか。
「ハーマイン様がおっしゃっていた……『ハナビ』です!」
「……! で、出来栄えはどうなの?」
「今晩、実験を行います。ぜひ立ち会っていただけますか?」
「分かったわ」
⭐︎⭐︎⭐︎
その日の夜。私たちは鉱山から十分に離れた、陸軍演習場へとやってきていた。
——ひゅ〜〜〜〜〜う。
……バァン!! パァン!!!
夜空に咲き誇る色とりどりの大輪の光。
そのあまりに完璧な光景に、前世の記憶が蘇った私は思わず「たーまやー!」と叫びそうになってしまった。
「……よくやったわ! 素晴らしい出来よ!」
技師たちの努力を絶賛した私は、この花火をシャルロット様たちが滞在する「最終日の夜」に打ち上げるサプライズ演出として組み込むことに決定した。
……だが、感動に浸っていられたのはそこまでだった。
そこからの私は、領内のハータン商会の業績報告、開発された新商品の最終チェック、さらには『領民生活共同組合』の業績確認から、果ては父上の領地経営計算書の監査まで……一切休む時間のない、怒涛のデスクワーク地獄に叩き落とされたのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
そして迎えた、シャルロット様とイザベラ様がご到着される当日。
私は領地の境界線にある検問所まで迎えに来ていた。
ちなみにこの検問所には庶民用の休憩所や給水所が併設されており、今回はお二人をお迎えするため、特別室に最高級のお茶会セットを用意して待機していたのだ。
やがて、お二人の乗る豪華馬車が到着した。
彼女たちの馬車には、ハータン商会と陸軍工廠が提供した『ボールベアリング』『サスペンション』『ゴムタイヤ構造』が組み込まれている。とはいえ、隣領からここまでの道路は未舗装であり、馬車鉄道の路線もまだ半分までしか開通していない。ガタガタ道を長旅してきたのだから、さぞやお疲れのことだろう。
私は最高の社交スマイルを浮かべ、恭しく頭を下げた。
「シャルロット様、イザベラ様、ご機嫌よう。我がルーデ領へようこそお越しくださいました。まずは長旅の疲れを癒やすべく、あちらでお茶でもいかがでしょうか?」
普段なら、即座に明るい返答が返ってくるはずだった。
しかし——おふたりは馬車の扉の前で固まったまま、なぜか気まずそうに黙り込んでいる。
「……? いかがなさいました?」
「あのね……ハーマイン、ちょっといいかしら……?」
「実は……お母様が……」
「え? すみません、よく聞き取れなかったのですが……」
「『お母様がついて来られてしまった』と言っているのですの……!」
「……はい?」
今、なんとおっしゃいました……?
私が呆然と固まったその瞬間、シャルロット様の乗る豪華馬車の奥から、しとやかで気品あふれる声が響いた。
「シャルロット、そろそろ降りてもよろしくて?」
「あっ……お、お母様!」
馬車から優雅に降り立たれたのは——なんと、王妃殿下その人であった。
「あなたがハーマイン? 娘が大変お世話になっておりますわ」
「っっっ!???(王妃様ぁぁぁぁぁっ!?)」
さらに、後ろの馬車からはイザベラ様のお母様である公爵夫人まで優雅に姿を現したのだった。
(ちょっと待ってぇぇぇっ!? 王女様と公爵令嬢だけでもキャパオーバーなのに、なんで王妃様と公爵夫人までついてきてるのよぉぉぉっ!!? 突貫工事のプレハブと速乾コンクリートで、王妃様をおもてなししろって言うのーーーーーっ!!?)
あまりの事態に、私の頭の中で何かが音を立てて吹き飛んだ。
——どうして、こうなった!?
「ハーマイン頑張れ!」「この勘違い(オチ)はひどい(褒め言葉)」など、少しでもクスッとしていただけましたら、リアクション、ページ下部の【ポイント評価(★★★★★)】や【ブックマーク】で応援していただけると大変励みになります!




