第19話 Aクラス
学園3日目。
この日は、待ちに待った(?)クラス分けの結果が張り出される日となっていた。
(……な、なぜ……どうしてこうなった……!?)
掲示板の前で頭を抱える私の横で、シャルロット様とイザベラ様が「当然の結果ですわね」と満足げに頷いている。
しかし、周囲の他の生徒たちは私に対して奇異を見るような視線を向け、口々にヒソヒソと囁き合っていた。
『絶対に不正よ……』
『平民以下が最上位のAクラスだなんて、ありえないわ!』
しっかりと聞こえているのだが、当のシャルロット様は意に介さず、私に微笑みかけてくる。
「ハーマイン、筆記試験は流石でしたわ! 私が見込んだだけの方ですわね」
張り出された成績表を二度見、三度見する。
(な、なんで……手を抜いたはずなのに!?)
一般教養の筆記試験結果は、なんと堂々の「第1位」。
ちなみに第2位はフェリクス第二王子だったのだが、彼の方を見ると目血走らせて私を激しく睨みつけていた。
……いや、待ってほしい。私は100点満点を避けて「90点前後」を狙って解答したのだ。対するフェリクス殿下は「70点前後」。低すぎないか!? 平均点が50点前後って、この国の教育レベルはどうなっているのだ。
さらに、魔法の筆記試験結果も「第1位」。
こちらの第2位はエドヴァルト第一王子だったが、こちらも般教同様に私を親の敵のような目で睨んでいた(点数差も般教とほぼ同じだった)。
一方で実技試験の総合順位は「20位」。
こちらは模擬戦で負かされたギルフォードが悔しそうに睨んでくる。……だが、実技20位+筆記1位の総合評価により、私は見事に最上位である「Aクラス」へと叩き込まれてしまったのだった。
シャルロット様とイザベラ様は「流石ハーマインですわ!」とベタ褒め状態。もちろんお二人も文句なしのAクラスである。
☆☆☆
入学から一週間が過ぎた。
本日は久しぶりの休日。私は学園の寮を抜け出し、王都の「ハータン商会」へと向かっていた。
今回の訪問の目的は3つ。
1つ目は、近々「王立商会」へ卸す予定の試作化粧水と初級ポーションの経過報告。
2つ目は、洋菓子の販売計画の立ち上げ。
3つ目は、新調した冒険者服の仕上がり確認である。
この世界の「ケーキ」といえば、クレープというか、関西のお好み焼きに近い粉ものの生地の上に申し訳程度の砂糖やジャムを塗ったような粗末な代物だった。また「クッキー」も、小麦粉を水で解いて砂糖を混ぜて焼き上げただけの非常に素朴な焼き菓子に過ぎない。
そもそも砂糖自体が非常に高価なため、貴族しか口にできない高級品なのだ。
しかし! 我が領地では『てんさい』の大量栽培に成功し、安価な砂糖の精製ラインを確立させていた。
そこで私が前世のレシピを渡し、商会の料理人に本格的なケーキとクッキーを再現させようとしたのだが、「どうもうまくいかない」と報告を受けたため、直接現場へ見にきたのだ。
3つ目の冒険者服の確認は一瞬で終わったのだが、まさか洋菓子作りがこれほど難航しているとは思わなかった。
原因を突き止めたところ、ケーキは「メレンゲ」の作り方が理解できず生地を膨らませられていなかったこと、最後にかける生クリームも同様に作り方が理解してできなかったことだった。そして、クッキーは単純に「バター」を入れ忘れていたことだった。
「うおおおおおっ!!」
私は前世のおっさん魂を爆発させ、必死の形相で手動の撹拌器を高速回転させてメレンゲと生クリームを泡立てていく。10歳の幼女の体には過酷すぎる労働だ。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……っ! こ、こうやって作るのですわ……!」
「ハ、ハーマイン様……! ありがとうございます!」
こうして職人たちの手によって、前世のクオリティを誇る至高のケーキとクッキーが焼き上がった。
いざ実食!……というタイミングで、外の通りが何やら騒がしくなった。
店員が青ざめた顔で走ってくる。
「ハーマイン様! 大変です!」
嫌な予感しかしない。ライバルのバルトロ商会でも嫌がらせに来たのかと思いきや、店の前には絢爛豪華な2台の馬車が停まっていた。
「な、なんだ……?」
馬車から降りてきたのは、私服姿のシャルロット様とイザベラ様だった。
「「ハーマイン、ごきげんよう!」」
「ご……ごきげんよう、シャルロット様、イザベラ様……(なぜここがバレているの!?)」
お二人を急いで応接室へと案内したのだが、そこでハッと気づいた。
テーブルの上には、出来上がったばかりの「試作化粧水」と「焼きたてのケーキ&クッキー」が放置されていたのだ。
案の定、二人は目を輝かせてお皿と瓶を覗き込んできた。
「ハーマイン! これはなんですの!?」
「あ……これは王立商会様におろす予定の、化粧水と初級ポーションの試作品ですわ」
二人の視線が即座に「化粧水」の小瓶へ集中する。……よし、ここは試してもらうしかない。
「パッチテストをしてみましょうか」
「パッチテスト……?」
「お二人とも、手の甲を出してください」
「「はい!」」
二人が素直に差し出してきた綺麗な手の甲に、化粧水を数滴垂らし、指先で優しく馴染ませていく。
「どうでしょうか……?」
塗った瞬間から肌がしっとりと潤い、もちもちとした質感へと変わっていく。それに気づいた二人は絶句した。
「「す……凄すぎますわ……っ!!」」
「これ、絶対に王立商会で販売いたしますわね!?」
「ええ、その予定です。お風呂上がりに顔へ塗るとさらに高い効果が得られますわ。ハータン商会から専属のアドバイザースタッフを派遣させますので」
「本当ですの!?」
「もちろんです」
すると今度は、イザベラ様がテーブルの皿に盛られたケーキとクッキーをじーっと見つめていた。
「ハーマイン……あちらのお菓子はなんですの?」
「あ、こちらはハータン商会で開発中の新しいお茶菓子で、ケーキとクッキーです」
「なんてお洒落で可愛らしいのかしら……! 私、食べてみたいわ!」
「私もですわ!」
「かしこまりました。お茶の準備をさせますね」
こうして、二人の前に淹れ立ての紅茶と、極上のケーキ&クッキーが運ばれた。
「「あーむ……んんん〜〜〜っ♡♡」」
一口食べた瞬間、二人はあまりの美味しさに目を潤ませ、うっとりと至福の表情を浮かべた。
「ふふ、近々ハータン商会の店舗で売り出そうと考えているんです」
「……甘いですわ、ハーマイン」
「え?」
シャルロット様の一言により、なんと王立商会が所有する王都一等地の大店舗が即座に手配された。
こうして、王都一の立地に高級パティスリー『パティスリー・ハーマイン』が電撃オープンし、王都中の貴族や富裕層を巻き込む大ブームを巻き起こすこととなったのだった。




