第18話 クラス分け試験
【学園生活 2日目】
この日はクラス分け試験の日となっていた。
試験内容は「筆記試験(教養・魔法知識)」と「実技試験(魔法・剣術)」である。
「女子に剣術なんて必要なの?」と思っていたのだが、
「貴族として最低限の自衛・嗜みとしての剣技は必須とされていますわ」
と、イザベラ様が教えてくれた。
……とはいえ、私の公式判定は『*.*F』だ。お師匠様たちからも「絶対に実力を隠せ」と厳しく言われているため、周りの平均的な実力に合わせて適当にごまかしておけば良いだろう。きっと。
こうして、まずは午前中の筆記試験(教養・魔法知識)が始まった。
一応こちらの世界の勉強もしていたのだが、前世で大卒の40代サラリーマンだったおっさんからすれば、10歳児向けの試験など楽勝中の楽勝である。ただ、満点を取ってしまうと悪目立ちするので適度に手を抜くことにした。
(まあ……こんなものか)
100点満点を避けて、目立たない90点前後を狙って解答を終えた。
☆☆☆
午後からは実技試験。まずは魔力測定から行われた。
測定器の表示パネルを見ると、目盛りが「3桁」までしか用意されていない。
(そういえば、私の真の魔力ってどれくらいなのかしら……?)
などと考えていると、シャルロット様が「60」という数値を叩き出し、周囲からどよめきが上がった。
エドヴァルト様が「56」、フェリクス様が「55」、ギルフォードが「40」、イザベラ様も「40」——公爵家以上の血筋は全員40を超えており、それ以下はバラバラといった結果だった。
そして、私の順番がやってきた。
測定器に手をかざすと、表示パネルに浮かび上がったのは——
『ーBARーーBARーーBARー』
(スロットマシーンかよ……)
と心の中でツッコんでいると、記録係の担当者が大声で宣告した。
「ハーマイン嬢、魔力『0』!」
その瞬間、周りの女子生徒たちから「クスクス」とあざ笑う声が聞こえてきた。
するとそこへ、シャルロット様とイザベラ様が慌てて駆け寄ってきたのだ。
「「ハーマイン、大丈夫!?」」
「だ、大丈夫ですから……」
二人が露骨に私を心配して庇うものだから、周りの女子たちの嫉妬の炎はさらに激しく燃え上がっていったのだった。
☆☆☆
続いて、魔法の実技試験。
これは測定された魔力順で行われるらしく、魔力「0」と判定された私は当然のように最後となった。
試験内容は、得意な属性魔法で前方の「的」を攻撃するという単純なものだ。
上位貴族たちは見事に的を破壊してみせたが、中位以下の生徒たちはかすらせるか当てるのが精一杯といった様子だった。
いよいよ私の番となったが、長時間の立ち会いで試験官もすっかり退屈しているらしい。さっきの生徒の時も大きなあくびをしていたが、私の名前を呼ぶと、
「ハーマイン。……始め」
と気のない声を出し、鼻をほじくりながら鼻毛を抜こうとしていた。
(やる気ゼロだな……)
私は目立たないよう、長々と無駄な詠唱を騙ることにした。魔力を絞って、的に当たって消える程度に
「熱き炎を称えよ……イフリートの加護を——」
(詠唱なんて普段していないから、む…難しい。しかも、魔力を絞ってなんて…)
「へっ……ブイックショイッ!!」
「うわっ!!」
(び、びっくりしたぁ!? あっ……!)
試験官のくしゃみに驚き、拍子で詠唱を完全に端折って魔法を発射してしまった。
さらに悪いことに——
チュドーーーーンッ!!
「えっ?……あれ?」
私が威力を絞りきれずに放ったファイヤーボールは、頑丈なはずの的を木っ端微塵に粉砕していた。
「え……?」
「な、なに……!?」
「今、一体何が起きたの……!?」
同級生たちが口々に驚愕の声を上げる中、シャルロット様とイザベラ様だけは「やっぱりね」と言わんばかりに、くすりと笑みを浮かべていたのだった。
☆☆☆
最後は剣術の試験。
まずは測定器を叩いて攻撃力をチェックするテストだったが、私の結果はまたしても——
『ーBARーーBARーーBARー』
試験官「ハーマイン、攻撃力『0』」
測定不能のエラーが出ただけで、またしてもゼロ判定を下されてしまった。
そして、次は試合形式の試験に移るという。
……だが、ここの試験官は何を考えているのだろうか。なぜ「魔力0・攻撃力0」と判定したはずの私を、公爵令息のギルフォードと対戦させるのか。
こうして始まった試合なのだが、ギルフォードの繰り出す剣筋があまりにも遅すぎた。私から見れば止まって見えるレベルだ。ひょいひょいと余裕で避けていると、焦ったギルフォードがなんと実戦さながらの魔法攻撃を放ってきた。
「あぶないっ!!」
観客席からシャルロット様の悲鳴にも似た声が飛ぶ。
だが、この魔法を私が避けてしまえば、後ろで見学している他の生徒たちに直撃してしまう。
(致し方ない……)
「きゃあああああっ!?」(棒読み)
私は女の子らしく悲鳴を上げながら、無茶苦茶に剣を振り回した。
あたかも「偶発的にでたらめに振った剣が、奇跡的に魔法攻撃を切り捨てた」かのように見せかけたのだ。
「なに……!? バカなっ!?」
わたしはパニックになったように剣を振り回す。
「きゃあああ!!」(棒読み)
ブンブンの剣を出鱈目に振り回しながら、ギルフォードに近づく。
「お母様!!たすてけ!!」(棒読み)
そして、驚愕で隙だらけになったギルフォードの懐へ一気に肉薄する。
「うっ!」
流石、一気に詰め寄られたことに驚くギルフォード、目の前でブンブンと剣を振り回すと、思わず避ける。
「もう!!降参しますわ!!」(棒読み)
パチーン!!
私は彼の手首を剣の腹でパシッと叩いた。手に痺れを起こしたギルフォードは、そのまま剣を地面に落とした。
その様子見た全員は、固まった。ただ、剣が落ちた音が響いたのだった。
私は、その場にうずくまり叫んだ。
「もう負けでいいですわ。降参いたしますわ」(棒読み)
その様子で試験官は、我に帰り、判定をくだした。
「あ……ギルフォードの負けとする!」
「えっ?」
私は、何が起きたかわからないみごとな演技(超大根役者)をしたはず。しかし、辺りを見回すと白けた雰囲気の中。悔しそうな顔をしたギルフォードの姿が目に入ってきた。
「くそっ……!」
落ち込んでいる彼をみんなは、「ついてなかったな」と慰めている。これこそ、能力を隠した偶然、こうして私は「奇跡的にラッキーが重なった」風を装いつつ、予定通りギルフォードに勝利した。
後からシャルロット様とイザベラ様に
「ハーマイン、もう少し演技の勉強をしたほうがよろしくてよ」
「そうよ。セリフが完全に棒読みでしたわよ」
「えっと」
「まあ、今回は、うまくいったようですけどね」
「はい」
「そう言えば、私、いい先生を知っていますわ」
「あと礼儀作法も合わせて教育しないといけませんわ」
私の学園生活、放課後に特別授業、しかも、超スパルタの二人の講師によって、ほぼ毎日おこなわれた。




