第17話 入学式
王都『エリュシオン』に位置する、王立学園。
ここは貴族の子弟はもちろんのこと、平民であっても優秀と認められ、領主や司教、ギルド支部長らの推薦を受けて厳しい入学試験を突破すれば、特待生として入学を許される場所だ。平民にとっては一攫千金の出世コースであり、登竜門でもある。
一方で貴族たちにとっては、将来の伴侶を見つける「婚活と社交」の場でもあった。ゆえに派閥争いや婚約者を巡る決闘なども行われているという。
……まあ、女の子の私には、ハッキリ言って何の関係もない話である。
学園は10歳から15歳までの5年制で、最初の3年間は全寮制のもとで一般教養を学び、残り2年間は「騎士コース」「魔導士コース」「文官(公務員)コース」という専門分野に分かれて研鑽を積むシステムになっている。
そして今年度は、学園の歴史の中でも非常に「特別な年」であった。
なぜなら、第一王女シャルロット様、第一王子エドヴァルド様、第二王子フェリクス様という、異母きょうだい3人が揃って同時に入学する年だからだ。
特にシャルロッテ様は、王立商会を通じて「石鹸」や「白磁」の事業を成功させ、若くして頭角を現している。
ちなみにシャルロッテ様の婚約者候補には、あのヴァイス公爵家のギルフォード——そう、あのイザベラ様お茶会にいた元キモデブ公爵令息が名を連ねていたが、見違えるほど凛々しくなっていた。
また、第一王子エドヴァルド様の婚約者候補にはシュタイン公爵家のイザベラ様とロザリンド様。
第二王子フェリクス様の婚約者候補には、ギルフォードの妹であるローランド・フォン・ヴァイスの名が挙がっていた。
☆☆☆
そんなドロドロとした政略と婚活の意図が渦巻く中、私自身はというと——。
学園に到着し、両親と別れて予定通り講堂へ向かうと、遠くから私を見つけてブンブンと激しく手を振っているお二方の姿があった。
「「ハーマイン!! こっちこっち!!」」
そのお二方こそ、シャルロット王女殿下とイザベラ様であった。
「これはシャルロット王女殿下、イザベラ様。ごきげんよう」
「ハーマイン、ごきげんよう!」
「ごきげんよう、ハーマイン!」
二人と和やかに挨拶を交わすが、周りのご令嬢たちは「あの子は誰?」「なぜあの二人があんな子に……?」と騒然となっている。
特に、例の王女殿下のお茶会に参加していなかった上位貴族のご令嬢たちからの視線が、痛いほど刺さる。
やがて私の名前を聞きつけた一部のご令嬢たちから、小声のヒソヒソ話が聞こえてきた。
『あの……確かハーマインって、魔法適性が「*.*F」の落ちこぼれのはずですわ。なぜあのような方が、王女殿下方と親しくなさっているの?』
『そうよ、平民以下の能力しかお持ちでないはずですわ』
即座に「平民以下」というレッテルを貼られたわけだが、当のシャルロット様とイザベラ様はそんな周囲の雑音など微塵も気にしていない様子だ。
一方、男子生徒たちからも嫉妬を孕んだ蔑みの声が漏れていた。
『けっ! 平民以下のあの貧乏男爵令嬢だろ』
『あのルード家か……まったく胸糞悪い』
(……ん? お兄様たち、一体ナニをおやらかしになったのかしら……?)
私の頭に浮かんだ疑問は、すぐに氷解した。
優秀な私のお兄様たちが、学園時代に軒並み良い縁談を勝ち取っていったため、そのあおりを食った下位貴族や他家の弟たちが、ルード家に対して逆恨みにも似た嫉妬を募らせていたのだ。
そんな周囲の殺気立った視線をよそに、いよいよ入学式が執り行われた。
新入生代表の宣誓を務めたのはシャルロット様。それも当然、彼女が王立商会で上げてきた圧倒的な実績がモノを言っているのだった。




