第16話 王国学園
10歳になった。
私は、いよいよ王都にある「王国学園」へと進学することになった。
私が10歳を迎える頃、領地内の農業収穫量は5年前のなんと3倍にまで膨れ上がっていた。さらに馬車鉄道の開通により、領地内の物流はかつてないほど活発化している。なお、馬車鉄道の運営は信頼できる「領民生活協同組合」に全面的に任せていた。
これまでお隣の貴族領まで丸一日かかっていた道のりが、馬車鉄道の「特急」を使えばわずか6時間で到着するようになったのだ。
この圧倒的な利便性を目の当たりにした隣領の領主(貴族)は、うちのお父様を通じてハータン商会へ敷設工事を打診してきた。しかし敷設には時間がかかり、完成までにはあと1年ほどかかる見込みである。ちなみに隣の貴族領は我が領地から食料を輸入に依存している状態のため、こちらに強く出られないという裏の事情もあった。
一方で、「理化学研究所」と「陸軍工廠」で行われている鉄砲と大砲の改良も着々と進んでいた。
現在の試作品はすでに有効射程1,000mを超えており、さらには「光学式測距儀」の開発にも成功。領内に出没する盗賊や魔物との実戦演習(掃討作戦)で絶大な成果を上げていた。ただし、この悪魔的兵器の運用は現在も自衛隊内部のみに限定している。
剣と魔法が中心のこの世界では、交戦距離はおよそ100m前後が当たり前だ。1,000m超という性能は、完全に「敵の射程外」から一方的にせん滅できることを意味していた。
しかし、最近は治安の悪化に伴い盗賊が増加傾向にあるという報告も受けており、まだまだ予断を許さない状況だ。自衛隊は引き続き掃討作戦を継続し、兵の練度向上を図っている。
また、かつて開発した保養地は今やすっかり賑やかな温泉街へと変貌を遂げていた。お父様やお母様のために貴族専用の高級保養施設も建設し、併せてここにも自衛隊の駐屯地を配備した。
そしてもう一つ、画期的な技術革新が「電波式モールス通信装置」の発明だった。
出力が小さいため長距離通信にはまだ向かないが、それでも王都の「ハーマイン商会」とは別口で設置した「ハータン商会王都事務所」との間に送受信機を設置し、領地と王都間での電信通信が可能となった。現在はさらに「ラジオ放送(音声通信)」の基礎実験まで始めているというから驚きだ。
☆☆☆
そして本日、私は王都へ向けて旅立つこととなった。
途中でシュタイン公爵領に立ち寄り、イザベラ様と合流して共に王都を目指す手筈になっている。
今回私が乗り込む馬車は、通常の馬車とは訳が違う。特製のサスペンションを組み込み、さらに車輪の周りには天然ゴム製の緩衝材を取り付けた「最新鋭ダンパー仕様馬車」なのだ。
やがてシュタイン公爵領へと到着し、イザベラ様と合流を果たした。するとイザベラ様は、なぜかご自身の馬車ではなく私の馬車へと当然のような顔で乗り込んできたのだった。
「イザベラ様、ごきげんよう。お久しぶりですわ」
「ハーマイン、お久しぶりです! 会いたかったわ!」
開口一番、イザベラ様は私にギュッと抱きついてきた。そしてそのまま私の馬車に居座り、会話をしているうちに「ある異変」に気づいたようだ。
「……ねえハーマイン、この馬車、全然揺れませんわね?」
「え、そ、そうでしょうか……?」
「絶対におかしいですわ! 何か仕組んでいますわね!?」
即座に見破られ、結局イザベラ様の分も同じ乗り心地の馬車を作る約束をさせられてしまった。
ともあれ、道中は特に問題もなく、無事に王都へと到着したのだった。
☆☆☆
しかし、王都の王国学園で私を待ち受けていたのは、到底穏やかとは言えない学園生活だった。
「平民以下」「*.*F」という属性に対する蔑視と差別の視線。
シャルロット王女殿下や公爵令嬢のイザベラ様に可愛がられていることに対する、周りの女子生徒・男子生徒からの凄まじい嫉妬の視線。
そして、第一王子のエドヴァルトや第二王子のフェリクスをはじめ、高位貴族たちの「思惑と婚活」が渦巻くドロドロとした社交場としての学園——。
私にとって波乱に満ちた学園生活が幕を開けたのだった。




