第11話 王女謁見と薔薇風呂 3
そうこうしているうちに、私たちは無事に王都へ到着した。
私はイザベラ様とお別れし、王都にあるルード男爵邸へと向かった。そこではお父様とお母様が待っていてくれた。
「ハーマイン、無事で何よりだ」
「お父様、お母様、ただいま戻りました。今回は途中からシュタイン公爵家のイザベラ様とご一緒させていただきましたの」
「そ……そうか……」
お父様の顔が青ざめている。理由は痛いほど理解できる。分かるよ父上、だって末端の貧乏男爵家が超大物の公爵家にご厄介になったのだから。しかし、私はさらに追い打ちをかけるようにこう告げた。
「公爵様の馬車が盗賊に襲われていましたので、私が助けましたの」
その言葉に両親が絶句したのは言うまでもない。何せ私は『*.*F』。私のような落ちこぼれが盗賊を倒せるはずもない、と心から思っていたに違いない。
「お……お前が……?」
「はい、お父様」
「盗賊を倒したと……!?」
「はい。それに相手は指名手配犯でしたので、これだけの報酬をいただきましたの」
そう言って、手に入れた莫大な討伐報酬の半分を両親の前にドンと差し出した。
「お父様、お母様、少ないですが滞在費の足しにしてくださいませ」
「こ……これほどまでの金額を……!?」
「本当に助かるわ……!」
こうして両親への挨拶もそこそこに、私は『ハーマイン商会』の王都支店へ向かった。
教えられた住所へたどり着くと、そこには『ハーマイン商会』と書かれた立派なお店があった。自分の名前が店名になっていること自体、恥ずかしすぎて頭を抱えたくなるのだが、それを一瞬で吹き飛ばす光景が目に入った。
なんと『ハーマイン商会』のすぐ隣に、燦然と輝く『王立商会』の看板が並んでいたのだ。
「うそ……でしょ……?」
私に気づいた店員が、慌てて店内から駆け寄ってきた。
「これはこれは、ハーマイン様! 長旅でさぞお疲れでしょう。さあさあ、こちらの応接室へどうぞ!」
こうして私は今、白磁のカップに注がれた高級な紅茶を嗜んでいる。店員へ問いかけた。
「例のものは準備できたか?」
「はい! 今回のお茶会に参加される皆様全員分の品をご用意しております」
「わかった。では、私が着ていくドレスはどうだ?」
「こちらにございます」
手早く試着を済ませ、私はついにシャルロット第一王女殿下主催のお茶会へと向かったのだった。
☆☆☆
流石は王室の庭園。「何もかもが凄い」と簡単に一言で片付けてはいけないほど、壮麗で美しい光景が広がっていた。そこで催されるお茶会。今回は女性限定ということもあり、参加者のほとんどが同年代のようだ。
シャルロット第一王女を筆頭に、バルデン公爵家のロザリンド・フォン・バルデン、ヴァイス公爵家のローランド・フォン・ヴァイス、そしてシュタイン公爵家のイザベラ・フォン・シュタインという三大公爵家の令嬢たち。あとは子爵家のご令嬢方と、男爵令嬢の私。……どう考えても場違いすぎる。
しかも、イザベラ様がわざわざ私を馬車で迎えに来てくださり、車内でこうおっしゃったのだ。
「ハーマイン、今日は私をエスコートしてくださいませんか?」
「女の子同士ですが、よろしいのですか?」
「大丈夫ですわ!」
イザベラ様は思い切り言い切ったけれど、男爵令嬢の私が公爵令嬢をエスコートすること自体、悪目立ちしまくるのは確実だ。……しかし、頼まれた以上やるしかない。
「分かりましたわ」
「流石はハーマイン!」
こうして私はイザベラ様を優雅にエスコートし、庭園へ入場したのだった。……その瞬間の周囲からの刺さるような視線が痛いこと。
まだ主催者であるシャルロット第一王女が姿を現していないこともあり、ヴァイス公爵家のローランド様を中心にヒソヒソ話が聞こえてくる。
『あれが噂の、平民以下の落ちこぼれ……?』
『しーーっ!! 声が大きいですわ! アスタリスクFに失礼ですわよ』
そう言っているローランド様がこちらを一瞥していたため、私は一礼して挨拶に向かった。
「ローランド様、お初にお目にかかります。ルード男爵家のハーマインと申します。以後お見知りおきを」
「ローランド・フォン・ヴァイスですわ。挨拶だけは丁寧なのね」
挨拶もそこそこに、彼女はフンと鼻を鳴らして別の場所へ去っていった。こうして私が参加者のほとんどへの挨拶を終えた頃、シャルロット第一王女が登場したのだった。
そして——とんでもない事態が起きた。
☆☆☆
シャルロット第一王女が登場し、公爵家から順番に挨拶が始まった。当然、一番身分の低い私は最後になる。皆様がそれぞれ完璧なカーテシーを披露しながら自己紹介をしていく中、ついに最後の私の番がやってきた。
「シャルロット第一王女様、お初にお目にかかります。ルード男爵家のハーマインと申します。以後お見知りおきを」
そう頭を下げた途端、王女様がガバッと私の両手を握りしめてきた。
「あなたがハーマインなの!?」
「は……はいっ!?」
あまりの距離の近さに思わずテンパってしまう。
「噂通り手腕も凄くて……なんて可愛らしいのかしら……!」
そう言うやいなや、今度はぎゅっと抱きしめてこられて、私はどう対応していいのか分からなくなった。すると、横からイザベラ様が割り込んできて私の手を引っ張った。
「あらイザベラ、いかがなさいましたの?」
「ハーマインは私の親友ですので、あまり困らせないで差し上げてくださいませ」
「別によろしくってよ? 私、今日初めてハーマインとお会いしましたけれど、これでもうお友達になれましたものね?」
「は……はい……」
(どうしたらいいの……本当に誰か助けて……!)
公爵令嬢と王女に挟まれて白目を剥きかける私に、助け船を出してくれたのはロザリンド様だった。
「シャルロット様、イザベラ、そろそろ離してあげないとハーマインが可哀想よ」
私を見た二人は、素直に「「はーい」」と私を解放した。……その瞬間、会場のどこかから「チッ」と舌打ちをする音が聞こえた気がした。
だが次の瞬間、会場には「きゃあーっ!」というご令嬢たちの黄色い歓声が響き渡った。
「今回のお茶会のお土産として、王都で大流行中の例の『高級石鹸』を全員にお配りしますわ!」
シャルロット第一王女の一言が、ご令嬢たちの心を鷲掴みにしたのだ。冷ややかだったローランド様までもが目を輝かせている。さらに王女様は微笑みながら追撃を放った。
「そして今回のお土産は——『王立商会』と専属契約を結ぶ『ハーマイン商会』様からのご厚意ですの」
その言葉が出た瞬間、シャルロット様を除くその場の全員がピキッと凍りついた。
……当然、私も凍りついた。
(なんでここでバラすかな〜〜〜っ!?)
この後の展開を想像し、私は遠い目をするのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
次回、「第12話」は【明日の07時】に更新予定です!
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