海と少女と二輪の花
核、それはナニカを形作るために必要なものと今のところは考えられている。
核がナニカの体を構成している物体から離れる(ヤマモドキなど)と物体は動くことなくその場に残るが今のところ活動を再開させる様子はない。
核が破壊されると体を構成していた物体は物理的に崩壊しつつもその場に残る例(鉱石人間)と塵となって消え去る例(案山子)の二つが存在する。
最近の研究では核の正体が妖怪や妖精などの生命体の生命反応に近しいものが観測された。
白澤の『核』研究レポートより抜粋
久しぶりに4人がバイトに入った日から2日後、今日は吸血鬼の少女ミアの誕生日、ということで俺は今日バイトを休みしっかりとした服に着替えてミアの屋敷へと向かった、今日はナニカが出ても他の三人が倒すだろうし、安心してミアの誕生日会を満喫できる。
「こんばんは」
大きなミアの屋敷の前に立つ顔見知りの門番にお菓子を渡すと門の中に入り奥へ進む。
辺りには噴水や少し遠くにプール、そして綺麗に切りそろえられている植木、前に来たときと全く変わってないことに少し戦慄しながら屋敷の玄関に入ると
「いらっしゃい!トウカ」
「おじゃまします、ミア」
ミアが俺に抱きついてきて笑っていた。
「誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、私ね、トウカに一番におめでとうって言ってほしくて、何日も前から当日に私の誕生日をトウカより先に祝わないでって言っちゃったの」
私って悪い子?そう俺の耳元に囁く彼女の声は明らかに自分が悪い子だなんて欠片も考えてない声だった。俺は顔を熱くしながらミアを見るとミアは綺麗なドレスを見せつけるように俺の周りを回っていた。
「とても似合ってますよ、そのドレス」
「そう?ならうれしいわ」
そう言い微笑む彼女に手を引かれて屋敷の奥へ歩く。
そして奥の部屋ではミアを祝う準備がなされていた。
「ねぇ、トウカ」
「なんでしょう、ミア」
「今日から敬語辞めて」
「一昨日にさん付けやめたのに?」
「呼び捨てなのに敬語使われると何か気持ち悪いというか、あんまり好きじゃないの、ね?」
「しょうがないな、ミアは」
そして2人で話したりもはや顔なじみとなったミアの家族の人たちと話したりした後にミアの誕生日会が始まった。
全員でミアへ誕生日おめでとうという言葉をかけてからそれぞれのグラスで乾杯し食べ始める。
ミアは俺の膝の上に座ると
「ねぇ、トウカの血、ちょうだい」
「もう?早くない?」
「いいのよ、今日は私誕生日なんだもの」
するとミアは俺の首筋目掛けて小さな口を開いて噛みつこう、という時に。
俺とその場の人たち全員のスマホが鳴り響く、アラートが鳴った。
気にしなくてもいいか、と思いながらスマホに目を向けると、
【ナニカ出現、2輪開花、出現したナニカは1体のみ】
という情報が俺の目に入ると同時に屋敷の庭で轟音が鳴り響いた。
俺は部屋の窓から外を見ると、そこには小さな男の子と言うべきナニカが居た、すぐにミアを椅子に座らせると
「俺がアレを倒してくるよ、でももしミアや家族が危なかったら即座に逃げること、いいね?」
と伝え、ミアが首を縦に振るのを見ると俺はナニカに仕掛けに行った。
窓の縁を蹴り屋敷の屋根を登る。
その男のナニカは俺の方を向いた、その瞬間俺は体を震わせた。
そのナニカは顔が無かった、けれどそれに恐怖したわけではない、けれど何故か悪寒がした、嫌な予感というやつだ。
しかし恐れずにいつも通り屋根を蹴りナニカへ向けて飛んだ。
すると
「あ?」
俺の胸が裂けた、具体的に言うのならナイフや剣などの鋭利なもので切り裂かれたようにして俺の胸からは赤黒い血が溢れ出した。
肺に血が入っていく感じがする、ナニカは腕を変形させてカマキリのような手になっていた。
アレで切られた、そう認識した時には俺の首へなぞるようにナニカのカマキリのような腕は振るわれた。
俺の首をナニカが跳ねるよりも先に。
「原初の海」
俺は言い放つ、俺から溢れ出した血が地面に染みる、すると俺の首が跳ねられるように動いていたナニカの腕は止まり即座に俺から距離を取った。
俺の胸から流れ続ける血は地面を覆い尽くし空間を広げる、夜の海のように、真っ黒に地面を染め上げる。
地面を覆う海にナニカは触れた。
その瞬間に海はナニカを取り込み引きずり込む
…ことにはならず、すんでの所でナニカは射程から離れてしまった。
能力を発動した際に流した血の量の影響で貧血どころではなくあと少しで力尽きる寸前の状況にまで迫っている。
そろそろ、やばい、でも、ミアが、逃げれるだけの時間を稼がなければ
もしも、俺が生きてる内にソータが間に合えば俺は生きるだろうか…わからない…こんな死でも…誰かを、ミアを生き残らせることができるのなら…何かを残せるのなら…こんな終わりでも…それでも…いいんだとそう思うと足は動いた。
もう立てないと思った足は立ち上がるだけの力を見せた、最後まであがけるだけの力を俺は誰かにもらえた気がした。
ここで命を散らしてもいい、そう思うと、切り裂かれた胸を撫でる。
その手には血がベッタリとついたが、まだ生きてる。
走る、不格好でもいい、ただ走る。
俺の足元の血の海はナニカを切り裂くように鋭利な刃へと姿を転じナニカに斬りかかる、達人の振るう刃のように、飢えた肉食獣の噛みつきのように。
ナニカは、前に小説で出てきたキメラのように姿を変え続けて俺の血を払う、それよりも多く俺は血の刃を飛ばす。
俺はキメラの核を壊せば勝ち、キメラは時間を稼ぎきれば勝手に俺が自滅する。
明らかに俺のほうが不利、わかってる。
頭が常に警報を鳴らす、逃げろとソータの元へ行けと。
それを無視して走る、俺みたいなやつの命よりも純粋でまっすぐなミアの命の方が断然重い。
そう思うと足に力が…入らなかった、切り落とされたのだ、右足がズレていく、右足の膝から下がズレて落ちていく。
即座に足から流れる血を使い落ちかけの足をつなげる。
もう、足は動かない。
立っていることしか出来ないほどに、足は弱っていた。
「…それで、充分」
死の淵に立って初めて気づいた。
「改めて考えたら、なにも肉弾戦が全てじゃねぇ」
思いだすのは赤髪の男
「遠距離戦だって出来るんだ」
思いだすのはとあるレポート
「せめて…死んでけ」
俺の手には固まりかけの血の塊
「俺も一緒に…死んでやる」
血の塊の表面をを固める水が氷になるように、硬く凝縮して
それを思いっきり…投げる、ソータのようにうまくいかなくてもいい
「中は、水だ」
俺は血の塊の中の液体状の血を操りキメラの元へと。
「俺の血だ」
勢いは変わらずいやさらに速度を上げてキメラの胸を貫いた。
パキンッと音が鳴りキメラの身体は崩れ始めた。
「あぁ、疲れた」
俺は地面に倒れ伏して
静かに目を閉じようとした時
ザクッ
「ガッ!」
何者かに背中を刺された。
誰に?
キメラは崩れていっただろう?
そして何かが背中から引き抜かれると同時に顔を上げると
顔の無い包丁を持った男の子が居た。
「…あぁ、そういうことね」
あのキメラの中にはキメラの核とあの男の子の核があったのだろう。
少し、体を起こして戦えばすぐに終わる程に男の子の方は弱い。
包丁以外では俺にまともな攻撃は出来ないようだったから。
立っても立てなくても、能力を使えば
「…!……、…」
声が出ない、包丁が俺の首に振り下ろされようとしているのが見えた。
あぁ、詰みだ。
なんて呆気ない。
そう思いながら、やってくる最期をただ待つ、あと数秒もせずに俺の命は終わる。
その瞬間は…やってこなかった。
バシュッ
という音が鳴ると男の子の腕が消し飛んだ、すると何かが飛んできたのか、当たったのか男の子の体はどんどん削れていき、最後に男の子は核だけを残して全ての肉体を失った。
遠くに見えるのは
「あぁ、逃げなかったんだな、ミア」
俺に駆け寄るミアとソータそして店長だった。
ほっとしたのか俺は意識を手放した。
目が覚めると知らない景色が広がっていた。
客室のような部屋のベッドに俺は体を預けていた、窓の外を見ると時刻は早朝といったところだろうか。
静かに綺麗な夜明けの光が俺の目に焼き付く。
ふと足あたりから重みを感じて目を向けると
「すぅ…すぅ…」
と可愛い寝息を立てながら眠るミアが居た。
できる限りやさしくミアの頭を撫でる、柔らかくさらさらとした髪に手が通る。
少しの間ミアの頭を撫でていると静かに扉が開きソータと店長がやってきた。
「やぁ、おはよう。トウカ君、体は大丈夫かな?」
「おはようございます、店長」
「ごめんね、楽しみにしてたミアちゃんの誕生日会が台無しになっちゃって、私が出ればよかったよ」
「いや、しょうがないでしょ、只のナニカならトウカ1人で対処できるとみんな思ってたんだから」
「そう、ですよね、アレは起こり得るんですか」
「さぁ、私にはわからないことだからね、なんなら私がトウカ君に聞きたいくらいだよ」
「君が戦ったナニカは一体何だったんだい?」
そこからは淡々と店長とソータに2つの核を持ったナニカが現れたことから全てを伝えた。
「そっか…これからは君たち4人は2人組で過ごしてもらうことにしようか」
2日前の祝日に投稿できなくてすみませんでした
ゴールデンウィークには毎日投稿します




