獣の目覚め
あの時に食べるべきだった、腕を切られる前に
お前、弱いね
あのとき、性別不明かつ種族不明のあの店長と呼ばれる存在、そいつが放った言葉がワタシの頭の中を埋め尽くした。
弱くない、ワタシは弱くない。
お母様が言っていたもの、ワタシは強いって、あの忌々しい混血共と戦って唯一勝ったのはワタシだけ、あのままいけば勝ててたのに。
悔しい、悔しい悔しいくやしいくやしいくやしいくやシいくやシイくヤシイクヤシイクヤシイクヤシイクヤシイクヤシイィィ゙
…そうよ、あの混血を食えばいい、そうすればみんな認めてくれる。
コクの慰めもミギとヒダリの文句もロウの説教もあの憎いジャクの嘲りも、全て黙らせられるわ。
ワタシならできる、ほかの誰でもない、ワタシなら。
そう思った頃には体は動いていた。
今、ワタシは…警報が鳴る中を、お母様のいる部屋から出してただひたすらに走り続ける、この貪欲な底しれぬ食欲に身を任せて、あの食べ損なった土くずを食べるために。
「待ってなさい…山陰リトオォォ゙!」
その日、獣は咆哮をあげた。
一方、白澤はそんな戦意上々なタンのことなど何も考えずに動き回っていた。
「ナポリタン、A2ブロックの隔壁を降ろせ、チキン南蛮はF6ブロックにあるトラップを作動しろ、これで5分は遅れさせられる、その次は転移場所をリトオが向かった山へ指定しろ、そこならまだ救えるかもしれん」
必要とされる場所に的確に指示を出し、必要とあらば己から動く、彼は常に被害を最小限に留める方法を模索する。
「いやはや、こんなに忙しいのは何時ぶりかな」
こんなことをぼやくほどには余裕が出てきたということか…とつぶやく彼は最後の連絡に人妖桜のユメのいる部屋へと訪れた。
「やぁ、ユメ…ずいぶんなご挨拶だね」
白澤の目の前には大量の包丁が突きつけられサイドから片方が右手をもう片方が左手を出して白澤の首を掴もうとしていた。
「君たち、僕は言ったよね?タンが暴走しないように気を配れって。それがなんだいこの有様はこのアジトだって簡単に手にはいるような代物じゃないんだ、それがわからないほどの世間知らずでもないだろう?それに、生みの親の顔も忘れたか?」
「俺はお前を親だと思ったことはない、何なら今殺していいのなら殺すぞ?」
コクが手を前に出すと白澤の前面にある包丁が少し押し込まれた。
「俺もだ、それに俺はあんな趣味の悪い死肉人形を操りたくはなかったんだ」
右手をさらに白澤の首に近づけながら左目を金に似た色の髪で隠した男、ミギが言う
「本来僕らはツーマンセルで死角をなくして戦うのが良いといったくせに直前になってころりと変えやがって、それで負けたんだ!」
左手をミギのように白澤の首に近づけながら銀色の髪で右目を覆った男、ヒダリはミギにつられて言った。
それらを受けて、白澤は
「あ?」
一言、たったそれだけでその場の空気が震えた、普通はありえない空気が軋むような音まで鳴り始めた。
宙に浮いていた包丁達はひび割れが広がり完全に破壊され何らかの力を抑え込もうとしていたミギとヒダリの手は逆にはじき返された。
「君たちが言いたいのはこういうことかな?『負けたのは僕たちのせいじゃないよ〜、急に作戦変えたお前のせいだよ〜』ってことかな?合ってる?ホントね、勘違いしてるようだから言うけど、敗因は君たちにある、君たちは下手すればたった2つの核を持ったナニカよりも弱いのだから、あぁ、タンは別だよ、核が2つあろうとなんだろうと店長みたいなイレギュラー以外は基本一飲みだ」
そう喋る白澤は最初の一言とは違い今度は落ち着き払った教師然とした印象を3人に与えた。
白澤は片手を口のような形に変えて噛み、飲み込むような動きをさせながら話を続ける。
「それに対して君たちはなんだ、事前に情報は流したはずだろう?ヒダリに関しては何故海坊主の得意な貯水池へ入っていった?バカなのか?入られる前に握り潰せばよかった、いや最初に吸血鬼の頭を潰すことはできずとも足や胴体などをやればよかっただろう?相手の機動力を削いだり回復の難しい臓器を狙えばよかった、ミギはあの体を全く扱えていない、あの体の筋力は凄まじいがあの体の本質はそこから扱われる技の数々にある、肉体から技術や知識を奪うのが一番得意だというからあの体をやったんだ、なぜあんなバカげた戦い方をした?しっかり扱えれば勝てた勝負だ。次、ロウにジャク」
「は!?」
急に何もしていなかった自分たちにまで矛先が向いたことにジャクは驚きロウは静かに頷いた、その顔は半ばこうなるだろうなと予見していたものの顔だった。
「お前たちに相手の年齢の情報を送らなかった僕の不手際だが、お前たちが狙ったのが逆だったのなら、楽々と勝てただろう、それだけだ、最後はコクだな、お前は純粋に最初で一気に畳み掛ければ勝てたぞ」
「そんなことはないだろう、勝ち目なんてどこにあった」
「あらゆる場面で、だ。なんせあいつはゲームで言うデバフ状態だったからな」
「ふざけるなよ!俺が、死ぬ気でやり合って負けだんだぞ!」
「これを見ても言えるかな?」
そう言うと白澤は胸元から白い小さな箱を取り出して見せた。
「なんだ?それは」
白澤が箱を壊すとそこからはびちゃびちゃと赤い液体が流れ落ちてきた、それはコウジが空間を赤く染め上げる際に流す液体のようだった。
「コレは赤家コウジの肉体の一部、足辺りかな」
白澤は液体を回収しながら
「コレはコウジ君がチームを率いていた頃に上位層に渡した箱だ、この中にはコウジ君の体の一部、コクは知ってるな、あの液体が入っている、コレ一つだけでコウジ君は10割中1分の力を失う。これは山嶺カエデから聞き出した情報だが、全部で十個あるらしい、つまりコウジ君はあの時には1割の力を失っているわけだ」
たかが一割、されど一割
そんな力を失った状態で走り回り正確無比な投擲でナニカの核を破壊して行ったバケモノ、それが今、コクが認識した赤家コウジの姿だった。
「それ以上、我が子らを虐めるのはやめてくださいな、白澤様」
暗がりから声が聞こえた。
「そうだね、ここらへんにしておくことにするよ、聞き分けのない子供に文句を言っておきたくてね」
白澤がそう言うと辺りに張り巡らされた緊張は少し緩んだ。
「まぁ、ひどいお人」
と言いながら暗がりから出てきたのは純白の中に桜が散りばめられた着物を着た絶世の美女、ユメだった。
「今回は急いでるんだ、君はタンを連れ戻せるか?」
「あら、逃げ出したペットの居場所がわかる飼い主がいるとでも?」
「だよな、しょうがない。他の者たちは別の作戦があるから動けない、私がタンを捕獲しに行くしかないな」
そう言うと白澤は扉を開けて部屋を出た、廊下を歩くユメのお気をつけて、という言葉を背に受けて。
インカムを繋ぎ連絡を出す。
「オムライス、俺が出る、5分後に底へ着くようにする。俺の装備を用意しておけ」
その最中にも獣は出口へ向かい走っていた。
獣を止めるものはもうどこにも無い
すごく期間があいてすいません
一ヶ月以上空いてしまいました
これからはまだ不定期気味かもしれません
地道にしっかりやっていきます
ここまで期間が開くことはないようにしていきます
最後に、こんなやつが書いたのでも読んでくれる方がいらっしゃるのなら本当に嬉しい限りです、これからの励みにしていきます




