山嶺カエデの記録
目を覚ますとそこには
「どこ…ここ」
見知らぬ天井があった。
「おぉ、起きたのね。天狗の血を引く女の子」
「なんすか…ここ、ほんとに」
あたしは辺り一面黒で覆われている部屋の中心にあるベッドに粘着質の縄のようなものによって縛られて置かれていた。
真っ黒な部屋の中で部屋と同化するような黒い服を纏った美女は本を閉じてロッキングチェアから立ち上がるとこちらへ歩み寄ってきた。
「ここは何処か、だったわね」
女性は少し悩むように手を顎に当てると、まぁ言っていいわよね、そう呟くと。
「ここは私の部屋、まぁ他の男どもは作業場とかアトリエなんて呼び方をしてるわね。しかし貴女の聞きたいことはこんなことじゃないでしょう?」
「そうっすね、というかこの縄?ほどいてくれます?」
「だめよ、だって貴女、その糸ほどいたら私の首へし折る気でしょ」
「バレたっすか?」
「えぇ、バレバレよ。それにしても久しぶりねこんなに強烈な殺意を浴びるのは」
そう言うと女性は暗闇から何かを手繰り寄せるとあたしの体は宙に浮き車椅子のようなものに座らされた。
「まぁ、何はともあれ貴女をあいつの所に連れて行くわ」
押されている車椅子に身を任せて、部屋から外に出ると真っ白な廊下に出た。
「いやぁ何とも言えない感覚っすね、両手両足固定されて車椅子に乗るって」
「冗談言えるくらい元気なら特に気にしなくていいみたいね」
「なんか変な感じなんすよね、たぶん敵陣なのに」
「落ち着いてる?」
「そうっすね、不思議と落ち着いてるっす」
「だから嫌なのよ」
「どうしました?」
「隠れて操ろうとするんじゃないわよ、ぬらりひょん」
女性が後ろを向いて呼びかけた先には黒服かつサングラスをかけた少し長身の男が立っていた。
「だめかい?」
「だめに決まってんだろ、貴重な女枠を抜け殻のような操り人形にされちゃたまらん」
「まぁ、警戒心を減らすくらいならいいだろ?」
「なんすか?誰が?なに?」
何も聞こえない、聞こえているはずなのに意味が脳に伝わっていない、そんなふうに感じた。
「あとオレに関する話は聞こえないようにだけはしておいた、じゃあ定例会議がもう少しだからその撒き餌は丁重に…そうさなぁ新しい部屋が出来てたからそこに入れておきな、その後に会議室に来い」
「はいはい、あんたは本当にそういう報連相苦手ね」
去っていく男を見ながら女性はそう呟いた。
「そういえばあなたの名前ってなんすか?」
「?あぁ、私の名前?そういえば言ってなかったわね」
そう言うと女性はあたしの頭を優しく撫でると
「女郎蜘蛛」
その直後あたしを襲った衝撃により静かに意識を手放した。
次に目覚めるときは多分私は私ではなくなっている、そう思いながら。




