若者と老人と女性と混血
決して人に心を許してはいけない、そう教え込んだ。純粋な願いを何であろうと叶えるという性質を人の恐怖を吸い取り具現化するという方向性に変えさせた。
必要だと知ったから…コレでいいはずだ、あと何十、何百、何千年だろうと私はこの木の開花を待とう。
『ボロボロの日誌より抜粋』
ロク、先々代ろくろ首とジャク、和風の幼い女の子が戦い始めてわずか数分、その間に交わされた攻防は数え切れないほど。
ロクが扇子を振るいジャク、和風の幼い女の子が漆黒の光を煌めかせる。
ジャクの片腕はもう既に再生し終えロクへ両手を銃のようにして漆黒の光を放ち続ける。
「ばんばんばーん!」
その可愛い声を伴って放たれる漆黒の光線一筋一筋に全ての物を若返させる能力が付与されている。
それをロクは足元の砂利を蹴り上げ光を砂利一粒のどれかに当てることで相殺し畳んだ扇子を突き出す。
すると直線上にある物に穴を空ける。
そのほぼ不可視の一撃をジャクは片手で弾く
「なっ!」
「バカな女、いい加減見慣れるわよ」
その言葉とともにロクの横面に蹴りが入る。
唇を強く噛んだロクはジャクの足を掴み上へ放り投げる。
「はぁ!?」
空高く舞い上がったジャクに向けて畳んだ扇子を何度も突き出し続ける。
それはジャクの体を着実に削っていた。
しかし、ロクもジャクも忘れていた。
もう一人を
「儂も忘れてもらっては困るな」
その声がロクの耳に届くと同時にロクの横っ腹に老紳士、ロウの拳がめり込み吹き飛ばされる。
そして落ちてきたジャクを優しく包むようにロウは受け止める。
「感謝はしないわよ」
「構わんさ、礼が言われたくてやったわけでもない」
うずくまり血反吐を吐くロクの様子を見て
「あーあ、残念ね、あんたも終わりか」
ジャクは左手の人差し指に漆黒の光を集中させる。
その左腕がどこからともなく落ちた雷に打たれて炭化し消し炭となる。
「あ?」
そしてジャクが振り向いた先には
「―――!」
獣がいた。
「なによ…アレ」
「儂は知らぬ、もしアレがあの小童だとしてもありえぬ、儂はアヤツの時を五千年進めた、とても人であろうと妖怪であろうと混血であろうと死ぬ年月じゃ」
「そうよね、アンタは殺しには遠慮はないもの」
そう語る二人の前に立つのは獅子と犬を足して2で割ったような姿をして鬣からは出来を発しているようにバチバチと音を立てている獣、いや神獣だった。
「じゃあ、アレはなに?」
「知らぬが…今のうちに処理するのが吉とみた!」
そう叫ぶとロウは純白の光を溜め、放つ
「骨すら残さず消えるがいい!無為に生きた日々の証!」
その叫びと共に放たれた光に抵抗もせずに神獣は包まれた。
「手応えはあった!一万年の時を老いるがいい!」
そう喜びを浮かべるロウを裏切るように神獣は姿をそのままに立っていた。
「はぁ!?手応えあったんじゃないの?」
「あったわ!というか…アレがアヤツの一万年後の姿じゃ…」
「そんなわけないでしょ!?どんな生物でも…ワタリビト以外は骨も何もなくなるほどの年数よ?」
「なら決まりじゃ、アヤツはワタリビトよ」
そう言うロウの頬には一筋の汗が流れていた。
「あぁっ!最初から私が…いや変わらないわね」
「すまんな、ワタリビトは人間しか居ないと勝手に思っていた儂が悪い」
「いや、私も初耳よ…混血のワタリビトなんて!」
するとそれまで動きを見せなかった神獣が光を放った、それは純白でも漆黒でもなく、温かい緑色の光。
見るもの全てを包み込む優しい光。
その光に包まれたロクの怪我は全て元通りに、代わりに、広がる緑色の光に包まれたロウとジャクの体にはロクが受けていた怪我、痛み全てが2つに分けられて平等に与えられた。
「なに…コレ…」
「おい、ジャクよ…傷が癒えておらぬではないか」
「え…そんな…」
「核を使い切ったか…バカめが、母上のもとへ先に行っておれ」
と言い傷が一向に治らず体の崩壊が始まったジャクを突き飛ばしジャクの体は桜の木の根に吸収されて消えた。
「儂も後を追えるかは分からぬが」
そう呟き拳を構えたロウは神獣に向き直り、駆け出した。
「―――!」
そう走り出すロウを見て神獣は叫んだ。
すると神獣の額から太く長い一角獣のような角が生えた。
その角に雷光を纏わせる様子を見て。
「はっ」
そう軽く吐き捨てたロウは拳を神獣の顔面に打ち込む、何十発と数え切れないほどの数を、叩き込む、己の腕がボロボロになっていくのを理解しておきながら。
殴り続ける、何発も、己の拳に通じないと知っていてもあらゆるものを年老いさせる純白の光で包みながら。
神獣の角から強い火花が弾けるようにして雷電が飛んだのを理解した時には、ロウの体は黒焦げになっていた。
「ゲホッ…」
口から黒煙をあげるロウはゆっくりと体を倒していくそこへ神獣は体当たりにてとどめを刺そうとする。
体中を雷で覆い一歩、進めると。
「残念だったな…獣よ…」
その言葉を最後にロウの姿は根に吸い込まれるようにして消えていった。
「――――――!」
叫び、それは雷となり桜へとまっすぐに地を走り迫る、その瞬間どこからともなく現れた黒ずくめの男が雷を散らし消した。
「―――…」
そして神獣は姿を縮めていき…幼さの残る顔立ちのソータの姿に戻った。
それらを眺めていたロクは黒ずくめの男がいた場所を見たが…そこにはもはや誰もいなかった、元から誰もいなかったように。
そして視線を寝転がり寝息を立てるソータに戻し
「ソータ…お前さんは…一体なんなんだい?」
少し恐怖をはらんだその言葉はロクの偽らざる本音であった。




