海と公爵と2体の怪物
万屋【閻魔】立ち上げの際の支援者は20人。
様々な力で言えば怪物級の妖怪が集っていた。
初代白澤、八代目ろくろ首、吸血鬼現当主レオン・サングィス、そして他17人。
圧倒的強者と呼ばれる立場であるレオンであってもまともにやり合いたくないと言わしめるだけの化物である。
一目見た時、俺はどう思ったのか…目の前を歩くナニカは凄まじい圧を放つものの先程反対側から感じた圧よりも少なく感じた。
「こりゃ、何かあるな」
そう呟くと腕の再生に更に力を入れていく。
何があっても対応できるように、あのナニカは拳にだけ気をつけていればいい。
そう判断して不意に何があっても対応できるだけの力を再生させていく腕に注ぎ込む…そのとき
俺にかかる圧が増した、まるで一瞬で深海に転送されたかのような圧の差。
顔を上げる
「は…はは、そりゃ…ないだろ…」
俺の目の前には
「ろくろ首よぉ!」
八代目ろくろ首が立っていた。
俺が叫ぶとろくろ首の体は掻き消えるような速度で動き俺の胴体を蹴り飛ばした。
「ぐっ!」
地に血反吐を吐く、ビチャビチャと俺の血が広がる
「死んだとは聞いていたがよ…ここかよ、ここに眠ってたのかよ」
俺が見るろくろ首の胸元には煌々と輝く黄金色の核が埋め込まれていた。
俺は吐いた血を操り1本の剣を生み出す。
それは店長が持つ剣とまったく同じ形をした剣であった、違いと言えば店長のソレは白銀であるのに対してレオンの握る剣は黒に限りなく近い赤であった。
吹き飛んだ左腕の再生は後回しだ、そう結論付けると右腕に握られた剣【妖魔:偽】を振り下ろす。
ソレを紙一重でろくろ首は避けると正拳突きの構えをとった。
そしてろくろ首が放った拳は全力で後退することで避けたレオンに直撃はしなかったもののその衝撃波だけでレオンは5,6m吹き飛ばされた。
「…ふぅ…卑怯とかいうなよな…お前は20人の中で最も膂力が強いんだからな」
そんな軽口を言いながらレオンは今までのろくろ首の行動、先程の一撃、最初に食らった一撃の感触、それらの情報を脳内でぐるぐると回していた。
どうしてもろくろ首の肉体がナニカのようなものとは違うのではないかと思ったのだった。
そして更に情報の量を増やした、最近連絡の取れなくなった20人は他に居たか、と。
その結果、レオンはあることに気づいた。
「あのネコめがぁ゙!」
思い至るはとある妖怪、ネコ(ゾクシン)
その能力は、【死体をまたぐことで生き返らせる能力】
それだけなら歓迎されよう、けれどもその能力は忌み嫌われていた。
不完全なのだ、死者蘇生は。
生き返った死者は意識のない人形のようになってしまう。
けれども蘇生者はゾンビのように動き出す、だから死者の周りは遺族がゾクシンに近寄られないように刃物を散りばめるのだ。
「アイツは裏切ったか!」
そう叫ぶ、気づいたのだ、なぜろくろ首の死体を蘇生させたあとに回収しなかったのか。
意識のない人形などはいらないのだ、だから今、自我のかわりになる核を埋め込まれる今、あの死体は生き返させられたのだ。
「ろくろ首、お前をあの子の元へ向かわせるわけには行けないんだ、だから…」
ここで、死ね。
憎悪の籠もらぬ純粋な言葉、自分を除く他のものにろくろ首を殺させなければ、その使命だけでレオンは血の剣を再生中止していた左腕にかざす。
左腕は完全に再生した、今までにないほどの力を秘めて。
気づけば両者は同時に走り出していた。
ろくろ首が放つ上段蹴りにレオンは身を反らして避け、ブリッジのように地面に手をつくとそのままブレイクダンスのように回転し、ろくろ首の土手っ腹に回し蹴りを一撃。
まるで横からある程度の速さの車がぶつかってきたかのような音がして、ろくろ首の重心がブレる。
レオンは体勢を崩したろくろ首の胸元に光る黄金色の核を左手で奪い取る。
核とろくろ首の体をつなげる数百本の血管のような、筋繊維のような糸を引きちぎりにかかる。
ろくろ首はそんな中でもしっかりと拳を構えレオンのみぞおちに拳を打ち込む、棍棒で校舎を殴りつけたような音が鳴りレオンは血を口元から流す。
それでもレオンは手を離さない、何発と拳や蹴りをみぞおちに、胸に、膝に、腕に、打ち込まれようとも左手の力を緩めない。
血管が切れるような音を立てながらどんどん核とろくろ首をつなげる管が切れていく。
「…いい加減…眠れ」
そう一言、まさに今命の取り合いをしているろくろ首にも聞こえたか聞こえないかそれほど小さな一言をこぼすと、レオンは思い切り左腕を引く。
最後の1本が、切れた。
それを最後にろくろ首は動きを止めた。
レオンの軍服を思わす衣服はボロボロになっており、体中に打撲痕と紫に変色した青あざが破れた服から見える。
レオンの右足は青く腫れ上がっていて、左足に関してはあらぬ方向を向いていた。
レオンは顔面から前のめりに倒れる、最後に力を込めて左手に残る核を破壊する。
それを終えると静かに目を閉じて自己回復に入った。
まだ戦うこともあるだろうと…本能的な部分で理解して。
レオンが左腕を吹き飛ばされてから数十秒、トウカは疲労困憊といった感じだった。
ナニカの拳が放つ一撃はトウカを死に至らしめることが可能な攻撃ゆえナニカの拳を受け流すようにして避け続ける。
一度、ほんの少しでもタイミングがズレればトウカの命はなかったであろう、それほどの力。
どうやらその威力の一撃は拳にしかないということをなんとか理解した頃にはもうほとんど攻勢に出ることも出来ないほどの疲労が溜まっていた、分かっていたであろうこと、圧倒的な実力差は。
とうの昔に理解していた。
そもそも混血とはいえ海坊主であるトウカは陸での戦闘を得意とはしていなかった。
ナニカの放つ拳はどんどん正確さを保ち始めていた。
それを理解しているトウカは全力で事にあたる。
避け、逃げ、自分自身が得意な場所で勝負させようと。
幸いなことに近場には池があった。
少しづつ下がるようにして池へと向かう。
ナニカの拳を体を反らして避けるとナニカの腕の手首側には右手を肘から肩の間には左手を使い、両手で掴むと腕を反転させナニカを宙に浮かばせる。
宙で回転しているナニカの顔面に全力の一撃を、壊れかけの血色のガントレットに覆われた拳で打ち込む。
ナニカの体は大分鋭角気味に斜めに落ちていき、地面に体を強く打ち付けた。
そしてナニカが起き上がる寸前にトウカは湖に落ちる。
追いかけようとするナニカの体を肋骨のように広がる水の槍が襲う、何本かの槍を壊したナニカだったが水を破壊することは叶わず何十本もの水の槍に貫かれ、そのうちの1つが不運にもナニカの核を貫いた。
どうしょうもないなと言いたげの顔をするとナニカの体はゆっくりと崩壊していった。




