赤と天狗と黒と部屋
グループを率いていた頃の赤家コウジには2名の両腕とも言われた天狗とデータに残っていない存在がいた。
その2人の内天狗はコウジを心の底から慕っていたが、もう片方はその圧倒的な力でもってその座にまで上り詰めたと言われている。
凄まじい速度でコウジとカエデに襲い掛かるコクを前にしてコウジは即座に反応したもののカエデは反応が遅れカエデの眼前にコクの絶死の力が込められた拳が近づく。
ゆっくりと進むカエデの時間の速度が戻ったのはコウジが鎖鎌を投げてコクの拳に鎖を巻き付けて引っ張ることでコクの拳がカエデにまで到達する時間をほんの僅かにずらすことに成功した後だった。
カエデはコクの拳を頬に掠らせながら避けてコウジの方へ転がり込む。
「おいカエデ、お前はカバーだけしてろ、危ないから」
その一言ははっきりとカエデが直接戦闘では相手にすらならないと言うことを告げた。
俯いていたカエデが顔を上げるとその顔は希望に満ちた顔をしていた。
カエデからしたら自分はコウジの足手まといになるとわかっていたのだ、コウジがリーダーだった頃からカエデもその相方もコウジのサポートを主に行なっていた。
その頃から決まっていたことが1つあった、それは『コウジが助けを求めない場合は勝てる道筋が出来たことである』と。
「うっす、じゃあ、あたしはサポートっすね」
そう言うとカエデは蓑を身に纏ったかと思うと忽然と姿を消した。
団扇が振られる音と共にコクの頭上から重い風が押し付けられる。
それを意に介さずにコクはずんずんと悠然と歩を進める。
「おうおう、オレの邪魔をするならもっとかけろよ!」
とコクは拳を構える。
それを見て相対するように拳を構えるコウジの両腕は床の紅い液体に包まれてガントレットのような形を形成する。
コウジの目は過去に無いほどの集中力を見せた、だからこそ気づけた。
「何か持ってるな」
その呟きを聴き取れたものはその場に居なかった。
コクの手は握り拳というよりかは少し何かしらの柄のようなものを持つ手をしていた。
それを見てコウジは声を張り裂けんばかりに声を出す。
「カエデ!剣!」
すると部屋のどこからか剣が抜かれる音と共にコウジの元へ剣が飛んできた。
それをコウジは流れるように受け止めるとそのまま剣を振り抜きコクの手元にある何かしらの物体を斬り飛ばす。
「おっと…バレたならしょうがないな、透明化した包丁なんてバレないと思ったんだが」
「そう思うか?バレバレだったが…それよりも上に気をつけた方がいいと思うぞ」
「あ?」
その言葉を発した瞬間にコクの首は部屋の天井から降り注いだ数個のギロチンにより首や胴体等の体を何分割にも切断された。
「どうせ生き返るんだろ?」
と言いながらコウジはコクの頭を掴むと上に投げ両腕のガントレットで何十発という連撃を叩き込み最期に上から殴りつけて、地面に打ちつける。
激しい衝撃音が鳴り響きコクの顔がボコボコになっていたが。
その傷、さらに切り落とされた複数のブロックのようになった身体すらくっつき再生が終わる。
「あ゙ぁ、よくもボコボコにしてくれたな、お前のせいで核を2,30個分失ったんだぞ」
そう言いゴキゴキと首を鳴らしてコクは自分の首をしっかりとくっつける。
「…さて」
と呟くとコクは両手に対となる長剣が生み出される。
余裕綽々という先ほどまでの雰囲気を全て払拭し至って真剣な表情をして構える。
それに対してコウジは地面に刺さる剣を引き抜こうとした時に風を切る音と共にコウジの足元に1本の大太刀がふってきた。
跳んできた方向を見たコウジは口角を吊り上げる。
「流石だな!カエデ!」
そう強く叫ぶ、カエデに届くように。
大太刀を地面から引き抜くと吊り上がった口角をそのままに大太刀を構える。
大太刀を構えると昔を思い出す、大太刀はカエデと初めて会った時によく使っていた武器、慣れは確実に残っていた。
明らかにコウジの身長よりも少し小さめのサイズの大太刀を軽く振るう。
背中に大太刀の剃りを添わせるように構えた状態からの大振り、しかしその速度は十分、威力も申し分ない。
しかし大太刀の間合いを一目見ただけで把握したコクは少し足を下げようとした瞬間にコクの足の筋を剣が貫いた。
「なっ!?」
小さな笑い声が響く。
それは少ししか言葉を交わしていないコウジよりも少ない言葉を聞いただけの女の、カエデの笑い声だった。
「あの女ァ゙!」
激昂、激しく揺れ動く感情の発露、それを出したコクは足を下げることで避けることのできなくなったコウジの一撃を両手に握られる二対の剣で迎え撃つ、が
「人の女に手を出すなよ?」
という言葉と共に振り下ろされた一撃により剣を砕き身体を真っ二つに割った。
追撃をかけようとしたコウジは体を引っ張られる感覚によって中断された。
「風の部屋が崩れるっすよ!赤い部屋解除してくださいっす!」
そう叫ぶカエデの声に従いコウジは赤い部屋を維持する紅い液体を裂けた左の掌で吸収して離脱する。
風で出来た半透明の空間に亀裂が入っていた、木の根に潰されるような形で。
「はぁ!?」
「さっさと逃げるっすよ!」
そうコウジに抱えられる形で移動しているカエデは声を張り上げる。
風の空間が解除された瞬間に再生中のコクの体を飲み込んだ、木の根が水を吸うようにしてコクの体は吸収された。
「おい、カエデ」
「はいっす、なんすか?」
「俺の鉈だよ、鉈」
「コレっすか?」
とカエデは鉈を取り出してきく。
「ソレだよ、ソレ!」
と言うとカエデから鉈を受け取る。
「よく回収した!さっさと逃げな、主にこの辺りの墓場から」
そう言うコウジの顔には至って真剣な、大事なものを守る際の言葉だった。
「何言ってんすか?あたしはリーダーについていくっすよ?」
そう呆気なく応えるカエデに肩透かしをくらったように転びかけるコウジを見てカエデは意地の悪い笑みを浮かべた。
「あたしはリーダーの勇姿をここで見るっすよ」
と言いコウジの腕から抜け出して墓石の上に座りこむ。
その墓には『山嶺家の墓』と書かれていた。
「あたしの愛する男の勇姿を先祖に見せてあげるっす」
そんなことを言いながらいい笑みを浮かべるカエデを見て苦笑したコウジは
「後悔するなよ?」
そう言い真正面の大分奥に見える2人、南の大分離れた場所に見える狼と獅子を足して二で割ったような獣、北に見える山のような岩石を纏った巨人を見てから走り出す。
それを見送るカエデは上に纏っていた蓑を外すと血だらけの赤い両腕が現れた。
「バレてたっすね、ありゃ」
そう言うとカエデは墓石のお供え物を置くべき場所に蓑を置いて。
「あ、お借りしたっすよその隠れ蓑、便利っすね」
誰にも聞かれることのない言葉を小さくこぼす。
その顔は走るコウジだけを見て実に嬉しそうな顔をしていた。
故に彼女は気づかない、妖怪の本性からの警告に。
後ろから迫る影も不気味な気配にも。
彼女は気づかない。




