A Hard Day
あたしらの小隊は、一般車両に偽装したトラックに乗って原田組の組長の自宅 兼 組事務所の近くの駐車場に居た。
「どんな感じっすか?」
あたしは、小倉支局から派遣された「魔法使い」系の特務要員に聞いた。
「組事務所の周囲に結界が張られてるんで、中を探れません」
まぁ、そ〜ゆ〜オチだろ〜なぁ〜……。
「じゃあ、ドローンで組事務所の中を探らせるか……おい、コンテナの扉の電子錠解除してくれ」
『了解』
このトラックの運転席に居る池田が無線でそう答えた。
『ん? ちょっと待って下さい、バックミラーに変なモノが……』
ところが、今度は、助手席に居る大石が変な事を言い出した。
「変なモノ? おいおい、いくら魔法系の暴力団が相手だからって、バックミラーに心霊でも写ってるなんて出来過ぎ……」
『やっぱりマズいです。下手に開けたら……』
「何が写ってんだよ、一体?」
「何か妙だな……ちょっと周囲を魔法で探ってもらえます?」
隊長が魔法使いさんに、そう頼んだ。
「わかりま……ん?」
「どうしました?」
「人の気配が複数……ん〜、でも、魔法使い系じゃないみたいですけど……」
「一般人ですか?」
「いや、それにしては……ええっと……」
「何か変なんですか?」
「1人1人の『気』は、結構強いんですが、一般人でも有り得ないレベルじゃなくて……でも……ん〜何か変だな……」
「いや、ですから、何が変なんですか?」
「私ら『魔法使い』系は、『気配を探る』系の術を使えば、相手も『魔法使い』系かも、大体判るんですよ。ええっと、単純な『気』の量じゃなくて、理系用語で言う『パターン認識』みたいなモノで……で、外に複数人の人間が居て、でも、『気』のパターンは魔法使い特有のモノじゃなくて……」
「でも、『気』の量はデカいんですか?」
「ええっと……ただ、それが、『一般人の中ではデカい方、でも、有り得ない程じゃない』レベルで……」
「他にも何か、気になる事が有るんですか?」
「『気』のパターンの方も、『一般人の平均からは外れてる。けど、魔法使いでもない』みたいな感じで……」
「えっと……具体的に何人ぐらい居て、何人が……」
「10人以上居て、全員がです……」
はぁ?
「おい、池田、大石、バックミラーに写ってるモノを、落ち着いて、具体的に説明しろ」
あたしが、そう言った、次の瞬間……。
どがしゃ〜んッ‼
外から、とんでもない音。
「おい、外の状況、どうなってる?」
『トラック2台がすぐ近くで衝突してます』
「外に居た何者かは?」
『全員、急に逃げ出しました』
「外に居た連中の気配が遠ざかってます。多分、スピードからして、車かバイクを使ってます」
運転席の池田と、魔法使いさんが同時に報告。
「コンテナの扉の電子錠を解除しろ」
「了解」
そして、扉が開くと……。
目の前にトラック。
でも、そのトラックとの距離は……何とか、あたしらが、コンテナの中から出られる程度には離れている……。
すぐに出て、そのトラックを確認。
良く見ると……。
どうなってる、おい?
トラック2台が衝突していた。
状況からすると……あたしらのトラックにトラック1台が突っ込んで来て、別のトラックが、盾になってくれてるように見える状況だ。
更に、どっちのトラックにも、運転席・助手席ともに誰も居ねえ。
「両方とも、自動操縦か無線操縦か?」
続いて……微かな異音。
「ドローン?」
空中を飛んでたドローンが、あたしに近付いてきた。
『トラックが爆発する可能性が有る。すぐに逃げろ』
ドローンから、そんな声がする。しかも、良く知ってる聞き覚えが有る声。
「どうします?」
「とりあえず、全員、持てる武器を持って、この場を離れろ」
そう言いながら、隊長が、あたし用の大型機関銃を渡す。
あたしは強化装甲服の背面の大型金属腕を展開し、それを受け取る。
コンテナの中に居た隊長と新人2人、そして、小倉支局の魔法使いさん。
運転席と助手席に居た池田と大石。
全員が外に出て……。
「えっ?」
さっき、あたしに変な助言をしたのとは別のドローンも出現。
2台のドローンは……空中戦を始め……って、どっちも飛び道具は付いてねえみたいで、すんげ〜泥臭い絵にならない空中戦だ……。
何て言うか……相手を何とか落としたいらしいけど……その手段が相打ち覚悟の体当りしかないんで……どっちも決定打が無くて、とりあえず、喧嘩の真似事をやってるような……威嚇合戦にしか見えね〜よ〜な……。
とりあえず、周囲の状況を確認……って……。
その時、車かバイクのヘッドライトらしい光が複数。
ほぼ無音って事は、おそらくは電動車。
「おい、池田、大石、お前らが見たのは、アレかッ?」
「はいっ」
「そうです」
停車した複数の車からは……ああ、なるほど、こ〜ゆ〜事ね。
たしかに、魔法使いさんの言う通り「『気』の量は大めで、『気』のパターンは一般人の平均からズレてるけど、『魔法使い』系でもない」……うん、魔法の素人のあたしにも、そんな結果になるのは納得だわ。
車からは……次々と……鬼・河童・獣人……色んな種類の変身能力者達が……出て来た。人数は、ざっと、10人以上、15人以下。
いや、何度も見た事が有る光景だけど……やっぱ、変な感じがするわ。
その変身能力者の手には……バールに金属バットに日本刀に鉈に……チンピラ同士の喧嘩で使われてもおかしくね〜よ〜な得物が握られていた。
「おい、いいか、この辺り、一応、住宅街なんで……デカい威力の銃は使うなよ」
やれやれ……。
あたしは、重機関銃を地面に置いて、大型金属腕を折り畳む。
そして、予備武器の軽機関銃を手にする。
「警察だ。敵対するようなら……」
轟……。
突風のような音がする。
あたしは大型金属腕を再展開。
間に合わなかった。
衝撃を感じるが、まずは、わざと体の力を抜いてダメージを軽減……そして、吹き飛ばされた所で、大型金属腕を左右とも、地面に打ち付ける。
それで何とか、地面に押し倒されるのを免れた。
「高速移動能力者か……めずらしくもねえ……」
あたしは、組み付いてきやがった人間4割にケダモノ6割って感じの外見の獣人にそう吐き捨てると……。
「ぎゃああああッ‼」
金属腕を操作して、逆に、そいつにのしかかり、押し潰す。
「警察だ。敵対しやがった以上……」
あたしは、金属腕と自分の腕の同調を一旦OFFにすると、そいつの口に軽機関銃の銃口を捩じ込み……。
「これでも正当防衛は成立する」
そう吐き捨てて、あたしは引き金を引く……。
若干の心配事は……こいつを殺した事で、どんだけの書類を書かなきゃいけないかだが……まぁ、毎度の事だ。




