ベテラン
第2小隊と第1小隊の隊長達は、ビデオチャットで、他のチームの隊長達は打ち合わせをやっている。
「とりあえず、小倉と八幡と戸畑・若松の支局の小隊長達と話し合って、分担決めといたから……」
ウチの小隊長が、そう言った。
で、肝心の分担は……。
門司第1小隊と小倉第2小隊は、遊撃隊として門司区内で待機。
戸畑・若松第3小隊と八幡第2小隊は、遠賀建設への対応。
小倉と八幡と戸畑・若松の残りの小隊は、自分達の担当区域の「組」への対応。
そして、あたしら門司第2小隊は……魔法・呪術系の「組」である原田組への対応になった。
「あの……俺達、魔法使い系専門じゃないっすけど……」
第2小隊の汎用型の池田が、そうボヤく。
「ごめん、それは判ってるけど……魔法系の相手と戦った経験が一番豊富なのは、第2小隊だから……」
第1小隊の隊長の千夏ちゃんが、そう言った。
「うん……仕方ねえな……」
あたしも同意する。
「眞木さんッ‼ あんた、ウチの副隊長なのに、何で、野見山さんの言う事に、いつもいつも……」
今度は、同じく汎用型の大石が、そう言い出しやがった。
「変な事言うんじゃねえッ‼」
「変な事って、ど〜ゆ〜意味に受け取ったんすかッ⁉」
「そ……それは、その何だ……えっと……」
「ともかく、第2小隊が、魔法系の相手と戦った経験が一番豊富って、単に、そんだけ修羅場を潜ってきたってだけで……」
ああ、そうか……ウチの小隊で殉職者が多い理由が何となく判った。
下手に修羅場を潜り抜けちまえば……臨時ボーナスは、更なる修羅場。
理不尽企業あるあるの「半端に有能な奴から潰れる」パターンだ。
「すいません、じゃあ、次の機会には、ウチに楽な仕事を割り当てて下さい……えっと、大石、これでいいよな?」
「わかりました」
「はい」
ギスギスした職場だが、困った事に、何故か、レンジャー隊では「下が上の言う事を素直に良く聞いてくれる」小隊ほど、後になってエラい問題が発覚とか、そんなパターンばっかりなので、これ位でいいのかも知れない。他の警察機構でも「不祥事が表沙汰になるのが少ない県警ほど、たまに表沙汰になる不祥事が爆弾級」なのと同じ事だ。
「小倉支局の魔法使い系の特務要員に、こっちに向かってもらってる。あ、重松さん、強化装甲服と武器類のロッカーの開錠記録お願いします」
「はい」
本当は隊長と副隊長が持ってるカードキーのどっちか1つさえ有れば開錠は出来るし、電子錠なんで、いつ、どのカードキーで開錠したかの記録は残る筈なんだけど、お役所仕事って奴で、誰が開錠の決定や承認をやったか記録を残さないといけない。
実状は違うんだけど、開錠申請は、あたしがやって、ウチの隊長が承認したって記録される。
毎度の事だ。
「ところで、隊長……前から思ってたんですけど……」
「何?」
「装備ロッカーの開錠記録と、申請書類が合って無かったら、何が起きるんすか?」
……。
…………。
……………………。
何だ、この沈黙?
「か……考えた事も無かった……」
おい、隊長、何言ってる?
「一応、私は、チェックしてるけど……上の方が、チェックしてるって話、聞いた事も……」
おい、千夏ちゃん‼
「そう言や、どうなるんだ?」
今度は、第1小隊の狙撃・索敵担当兼副隊長である村山まで、そう言い出した。
「あ……あの……」
庶務担の重松さんが、おずおずと手を上げる。
「前に居たチームで有ったんですけど……そのパターン……」
「え? で、どうなりました?」
「私が異動するまで、何事も……」
「何事も……無し?」
「ええ」
「全く?」
「はい」
「冗談ぬきで何もなし?」
「本当に本当に何も……」
「監察も何も言って来なかった?」
「ええ……」
ウチの隊長が天井を凝視めて……溜息を付く。
「よし、深く考えずに書類作れ。あと、絶対に変な事考えるんじゃね〜ぞ」
「は〜い……」
たのむ……監察、仕事しろ。
「さて、魔法使い相手だとして……何か、相手の情報は……?」
一応、正式名称が「対異能力犯罪広域警察機構」なのに、物理系の変身能力者に特化し過ぎてて、魔法系の相手へのノウハウが無い。
「ちょっと、待って……良い手思い付いた」
そう言って、千夏ちゃんは、PCのキーボードを叩き始め……。
しかも、仕事用の携帯電話のデータをPCに読み込ませてるっぽい……。
「何やってんの?」
「前に、県警の組対と共同捜査した時に、あっちのエラいさんにセクハラされた事が有ってさ……」
シ〜ン……。
レンジャー隊あるあるの鉄板ネタだ。
異能力者が、どこに居るか知れたモノじゃない御時世に、わざわざ、対異能力者用の装備を使用している連中が居る……つまり、どういう事か?
あたしらは確実に異能力者じゃないか、仮に異能力持ちでもショボい能力しか持ってない、って事だ。
同じく|対異能力犯罪広域警察機構に就職するにしても、レンジャー隊より異能力持ちの特務要員の方が給料が良いんで、「使える」異能力持ちなら、そっちになってる筈だ。
そんな状況で、他の警察機構と共同捜査なんかやった日にゃあ……あたしらが「パワハラ・セクハラしても、呪い殺されたりする心配0」扱いされるのは……当然だが……。
「で、その時の証拠を、ちゃんと保存してる」
……。
…………。
……………………。
……おい……。
「その証拠を使って向こうを脅迫して、必要な情報を、全部、自白わせようと思ってね……」
「あ……あのさあ……」
「安心して、早速、返信が来たよ」
「……安心出来ねえよ……」
「……へえ、なるほど……」
「な……何……?」
「今回の件、案外、楽に終るかもよ」




