息もできない
青龍敬神会は、一次団体……いわば直属子会社……だけで20個前後というデカい組織だ。
街頭防犯カメラの映像や、携帯電話の通信頻度を見張るだけでも、あたしらの手に余る。
ウチと第1小隊の隊長から、北九州市内の他の支局に連絡を入れてもらい、手分けして見張る事になった。
『石橋組に動きあり。組内での電話連絡頻度が増加』
県総局のIT屋さんに動かしてもらってる解析プログラムから通知が有った。
「石橋組って、キャバクラやホストクラブの運営やってる所だろ? 何で?」
「実は、案外、武闘派とか?」
「キャバ嬢やホストの裏の顔がヤクザのヒットマン? 行きたくねえよ、そんなキャバクラ……」
大石と池田が、そんな馬鹿話をやっている。
『白石組と松永組と中野組と後藤組でも電話連絡頻度が増加』
白石組の主なシノギは特殊詐欺、松永組は……表の顔はトラブル解決をメインにしたコンサルだが、裏の顔はいわゆる「復讐代行業」で、中野組は違法売春、後藤組は違法カジノの運営だ。
「あの〜……」
その時、第1小隊の渡辺が手を上げる。
「気になって調べたら、石橋組のやってるキャバクラとホストクラブのホームページに、全店、本日、臨時休業するって告知が……」
「ガチで、キャバ嬢やホストが、ヤー公の荒事部隊でもやって……ん?」
他の支局から連絡。
今度は、中野組の事務所に動きが有ったようだ。
PCの画面に中野組の事務所付近の防犯カメラの映像を表示する。
続々と、組事務所が入ってるマンションに、若い奴らが次々と入っていく。
「こいつら、顔識別出来そう?」
「ちょっと待って……駄目だ、解像度が足りない」
服装は、どいつも、こいつも、動き易そうな普段着。ただ、全員、スタイルは良い。
そして、何故か、全員が背中に荷物を背負っている。
『原田組の事務所に動き有り。組員らしき者達が集結中』
「遠賀建設にも動き有り。こちらも組事務所に組員らしき者達が集結中』
原田組は心霊関係のコンサルだが、裏の本業は呪殺。
遠賀建設は、名前通り土建屋だが……いわば「経済ヤクザ」で、荒事は他の組に依頼してた筈だが……いや、待て……。
隊長から送られてた、武器の使用申請書を再確認。
「あの……隊長……」
「どうした?」
「パワー型用の重機関銃と、狙撃・索敵型用の大型狙撃銃、事後承認でもいいんで使えませんかね?」
「はぁ? 待て、町中で、んなモノ、ブッ放す気か? 正気か、おい?」
「だって……工事用の重機を破壊出来る装備は、それ位しか……」
「工事用の重機?」
「遠賀建設も、この『ゲーム』に加わる気なら、武器に使うのは……」
「原田組も動くとなると厄介ね……」
あたしら|対異能力犯罪広域警察機構の現場要員には、レンジャー隊とは別に特務要員と呼ばれる「異能力犯罪者を狩る異能力者」が居るには居る。
しかし、元から数が少ない上に、魔法・呪術系の異能力に対応出来る奴は更に少ない。
「この前、小倉支局に魔法使い系の特務要員が赴任しなかったっけ?」
「現場向きの『魔法』は使えないみたい。主に、強化装甲服に防御魔法をかけるのが仕事だって」
「原田組が動いたら……その人に、防護魔法かけてもらうか……で、近隣の支局で、魔法・呪術系の異能力者に強いチームって居ましたっけ?」
「居ません、強いてあげれば……」
第2小隊の隊長の疑問に、第1小隊の隊長の千夏ちゃんが無情な答を返す。
千夏ちゃんの視線の先は、あたしら第2小隊。
「え……えっと……その……ウチは、魔法・呪術系の連中が専門って訳じゃな……」
「でも、魔法・呪術系の相手とも戦った事は何度も有りますよね?」
「あの……私達は……その……」
第2小隊の新入りの東郷が、おずおずと手を上げ……。
「大丈夫だ。お前らは遠くから敵を狙撃しろ。接近戦は……あたしら4人でやる」
「わ……わかりました」
でも……ちゃんと言っといた方がいいのかな?
ウチの小隊が「呪われた小隊」って呼ばれてる理由は……あたしら4人を除いて、何故か、毎度のように殉職者が出るせいだけど……その殉職者の大半が、狙撃手と着弾観測手だって事を……。
『中野組の事務所に県警の所轄の警察官が突入した模様』
その時、小倉支局から連絡が有った。
「先を越されたか……県警の警官が付けてる小型カメラの映像って……」
「ちょっと待って下さい……一応……えっ?」
第1小隊の副隊長 兼 狙撃・索敵担当の村山が急に絶句する。
何事かとばかりに……全員が村山の机に集まると、PCの画面に表示されていたのは……。
マンションの一室らしき場所で……。
河童……と言っても、「亀人間」っぽい姿だが……。
鬼。
獣化能力者。
そして……死体、死体、死体、あと死体。死体は全部、少なくとも普通の人間には見える。大半が中年男。
「おい……」
現場に駆け付けた県警の警察官が発砲したらしいが……。
「あちゃ〜……」
「あいつら、9㎜パラぐらいじゃ通じねえからなぁ……」
河童と言うか……亀人間と言うか……ともかく、そいつの硬化した皮膚に、あっさりと銃弾が弾かれる。
「まさか、突入したの……特殊部隊とかじゃなくて、普通の警官? 交番の巡査さんとか?」
「IDからすると、そうみたいですね……」
「どこの『組』の奴だ、一体?」
「判りません……人間態だったら……何とか……」
突入した警察官は、あっと言う間に、あっさり殺されちまったみたいで……カメラが写してるのは……天井。
その天井にも血が飛び散ってる。
「おい、今、顔が写ったぞ‼」
「変身を解いたのか?」
カメラに一瞬だけ写ったのは……死んだ警察官の死体を見下ろしていた……血塗れの……少なくとも上半身は裸の女……。
「この顔……ついさっき見ましたよ……」
その時、村山が変な事を言い出した。
「ついさっき? ど〜ゆ〜事?」
「こ〜ゆ〜事です」
村山のPCの画面の前面に、WEBブラウザが表示される。
石橋組が運営してるキャバクラのホームページ……で「本日、臨時休業」のお報せ……。
そして……そのキャバクラの№1のキャバ嬢の顔は……。
「え……えっと……似……似てるけど……まさか……」
「どんなキャバクラだよ? キャバ嬢の正体が……肉弾戦向きの変身能力者って……?」
「それも、河童に獣人に鬼に、満遍なく取り揃えていますって事?」
「行きたくねえよ、そんなキャバクラ……」
「いや、この御時世、そっちの方が萌える客も居るんじゃないっすか?」
ともかく……跡目争いの「ゲーム」から……まず1組脱落か……。




