監視者たち
当分は自宅に帰れそうにないんで、昼飯を終えると、一旦、着替えなんかを取りに帰った。
そして、玄関のドアを開けてみると……。
おい……。
何でだよ?
スーツケースが、デンと置いてある。
こ……これ……開けない方が……いや……しかし……。
嫌な予感はするが……開ける。
着替えと狸のヌイグルミ。そして、何枚かの紙。
1枚目……。
あたしが住んでるアパートまでの地図。そして、近くの幹線道路から何本かの線が赤いマジックで道に沿って描かれている。
2枚目……。
『防犯カメラに写らずに、ここまで辿り着ける経路が、これだけ有る。不用心だから、早く住所を変えろ』
クソ。久留米に居た頃からの腐れ縁の「正義の味方」どもだ。
3枚目……。
『あいつらの動きに気を付けろ』
はぁ? あいつら、って誰だよ?
4枚目……。
『ヒントは出した』
いや、出してねえだろ……。
とりあえず、スーツケースに入ってた着替えを出して、居間まで持って行って、1枚1枚チェックする。
親切のつもりで余計な手間を取らせやがって。
何度も確認する。
時間だけが過ぎていく。
クソ、今、この時に……何か起きたら、どうしてくれんだよ?
とりあえず、何故かスーツケースに入っていた狸のヌイグルミを、お友達たちが居るのと同じベッドの上に戻し……いや、待て、何で、タヌくんだけ?
狸……狸……狸……って、まさか……。
嫌な事が気になって、職場に電話。
出ろ。
出ろ……出ろ……早く、出ろ。
「眞木だけど……」
『あれ? どうしたんですか?』
出たのは、ウチのチームの「死に損ない」組の1人である大石。
「今回の件で動きを見せてる組は有るか?」
『いや、特には……』
「何か、情報とか入ってない?」
『無いです』
「広域組対や県警の組対から情報は入ってない?」
『いや、奴らも余程手に余る事でも起きない限りは、こっちに情報回さずに自分達の手柄にするんじゃなですかね?』
畜生……言われてみりゃ、その通りだ。
でも……何か手は……有る筈だ……。
そうだ……。
「市内の防犯カメラの映像って、オンラインで入手出来たよな?」
『ええ……』
「青龍敬神会傘下の大手の組の事務所や拠点の近くに有る防犯カメラの映像をAIに食わせろ。昨日あたりの分からな。それから、人や車の出入りが、他と比べてデカい組を割り出せ」
『は……はい……わかりました』
「ついでに、ありったけの電話会社に連絡して、判ってる限りのヤー公の携帯電話の番号で通話記録やデータ通信の頻度や量がどうなってるか調べろ。ここ1日で、通話が異常に多い奴が居る国は、何かしでかすつもりの可能性が高い」
『で……でも、それ令状が……』
「事後でもらえ。デスクワークと上からのお小言は、全部、あたしと隊長が引き受ける。遠慮せずに、他に思い付いた手が有るなら、何でもやって、市内のヤー公どもの動きを突き止めろ」
『わ……わかりました』
とりあえず、あたしは着替えをボストンバッグに詰めて、原チャリで職場へ戻る。
エレベーターが来るのさえ待ち遠しい。
そして、自分らのオフイスが有る階に辿り着き。
「眞木ぃ〜ッ‼ 何枚書類書かせる気だぁ〜ッ‼」
隊長の泣きそうな声。
「大丈夫っす、あたしも手伝いますから」
「いや、大石達に、やれって指示したの、お前だろッ‼ 何が『手伝いますから』だ? お前が責任者なのッ‼」
「……がんばります……」
「でも、眞木ちゃんのアイデアで、かなり楽になりそうですから……」
第1小隊の隊長である千夏ちゃんが、そうフォロー。
「だっから、この馬鹿、そっちの小隊で引き取って、代りに、そっちの村山さんをウチに下さいよ」
「えっと……それやると、こっちに狙撃・索敵担当が居なくなって、そっちにパワー型が居なくなりますけど……」
人手不足のハンパ無さのせいで、最近は、どこの小隊でも副隊長が他の「役割」を兼ねる事が多い。
特に、最近は、ヤクザその他の悪党どもの間で、狙撃手の位置を推定する携帯電話アプリなんてのが出回ってるせいで、狙撃手や着弾観測員が一番危なくなってる状況だ。
「あ、そうだ、久留米に居た頃に御世話になった県総局のIT屋さんに訊いたら……例のスーパーAIに解析させるより、県総局の電算機室にある専用プログラムの方が解析も早く終るし、精度も高くなるそうですので、そっちにお願いしました」
そう言ったのは、ウチのチームの池田。
「ああ、そう……じゃ、そっちに任せれば……」
「任せたせいで、俺とお前が書かなきゃいけない書類の量が増えたんだよ」
続いて、地獄の底から響く怨霊の呻き声みて〜な隊長の恨み言。
「で、IT屋さんは、あと、どれ位、かかるって?」
「概ね、1時間強だそうです。まぁ、最悪でも2時間以上にならないだろうって言ってました」
「じゃあ、その間に書類仕事をやりますか……」
そう言って、あたしはPC仕事に専念し……嫌がらせのように隊長は書き直しの指摘が入り、そして……。
「おっと? 解析結果のメール届いたみたいっすけど……」
「わざわざ言わなくても、今、見て……ん? どうなってんだ、こりゃ?」
携帯電話の通話履歴と防犯カメラ映像の解析。ここ1〜2日で、通話量や組事務所への人の出入が目に見えてるのは……。
あれ? どうなってんだこれ?
「いくら何でも変だぞ……」
「信じられねえぐらい……あたしらに都合が良過ぎる」
「あそこの組で、こっちが把握してない拠点が有ったり……組員が居たりとかは……?」
「足が付かない飛しの携帯でも使ってるか……」
「いや、でも、組事務所への人や車の出入りも他の組に比べて少ないですし……」
妙だ。
嫌な予感がする。
今回の事件は……めずらしく死傷者無しか、いつも以上に盛大に死傷者が出るかの……両極端のどっちかだ。
青龍敬神会傘下の「組」の中で……一番の武闘派の「組」が一番動きが小さかった。
その「組」の名は……「もふもふアミューズ」。「魔法少女」や地下格闘技の興業がメインの会社……に見せ掛けた、青龍敬神会系最強の殴り込み部隊で……組長は刑部マミ。
韓国の合法でも違法でも金にさえなれば何でもやる「総合企業」である「熊おじさんホールディングス」の会長である、通称「熊おじさん」。
久留米の安徳ホールディングスの殴り込み部隊「安徳セキュリティ」の「副社長」だった「銀の狼」こと久米銀河。
台湾や香港で活動している「正義の味方」である通称「雪豹」。
この3人が、「獣化能力者の中で東アジア最強候補」と言われているが……だが……もし、その「最強候補」に、もう1人加えるとしたら……それが刑部マミだ……。
そして……青龍敬神会の跡目を巡る争いの中で、何故か……最強の狸女だけが目立った動きを見せていない。
一体、どうなってんだ?




