第47話 黒龍天昇
龍の爪、翼、牙を持つ少女は慣れない様子で新しい身体を動かし、その感触を自らに馴染ませる。
「あーあーあー……うん、声は問題なし。身体のサイズも注文通り。これなら文句ないでしょ! うん!」
艶やかで柔らかな肉体に至って満足気な様子でいる中、片や冒険者二人は目の前の現実に驚愕するばかりだった。
「…………龍の中から、女の子?」
「喰われていたのか? いや、あの姿からして龍の本体……? 脱皮に近い変化なのか……?」
「……何よ? あなたたち、さっきからじろじろ見て……見世物じゃないんだけど?」
不躾な視線に少女が苛立つ中、一連の騒ぎを聞きつけたヒメが合流する。
「お~い! 二人とも大丈夫~? おじさん治し終わったから様子見に来てあげたけど~?」
「いや、それがですね…………」
言葉に詰まったドローランは代わりに視線を件の少女へと向ける。何も知らないヒメは示されるがまま彼の視線を辿り、ひび割れて沈黙する龍の抜け殻とその上に立つあられもない少女の姿を見て――。
「――へ…………変態だぁぁぁぁぁ!!!」
「は――はぁっ!?」
龍という鎧を脱ぎ捨てた結果、人なら生まれた瞬間に一度は経験するそのままの姿になってしまった少女。大事なところは垂らした髪の毛やら残骸やらで上手く隠れてはいるが、傍から見れば森の中で全開になって人前に立っているただの不審者である。
「…………ヒメ。あえて触れないようにしていたのに、何故言ってしまうんですか……」
「だって! こんなところで全裸になって仁王立ちしてるなんて絶対変た……ってかメガネ君、さっきからじろじろ見過ぎじゃない? ……もしかして、興奮してるの~? な~んだ、こっちも変態じゃ~ん♡」
「見てません。変な誤解を生もうとするのはやめてください」
きっぱりと言い切るドローランとニヤニヤと笑って揶揄おうとするヒメ。そして少し引きながらも静観を続けるサツキ。
三人の姿を見て、少女は今の自分に足りないものを理解した。
「…………そっか、人間には服がいるのね。危なかった……危うくこのまま飛んでいくところだったわ……」
芽生えて間もない人間ならでは感情に従い、体を手で隠しながら少女は自身の抜け殻に触れる。
すると鉄壁を誇っていた龍の身体は容易く崩れ、魔力となって少女の身体に吸い寄せられ、やがて堅牢な鎧として新たに構築される。
「――さ、これで今後こそ大丈夫でしょ。……一応、あなたたちにも感謝しておくわ。ありがとう」
「ど、どういたしまして……?」
一体何に対しての感謝なのか分からず、生返事をするドローラン。一方少女はすぐに意識を切り替え、漆黒の翼を広げて天に昇る。
あっという間に手の届かなくなる高さまで飛んでいく龍の少女を前に、三人はただ見送ることしか出来ない。
「今行くわよアトス。それと、待ってなさいよあの女……私をこき使ったこと――後悔させてやるんだから!」
「アトス……?」
去り際に残した少女が残した魔王の名を聞き、ドローランはすぐに空を仰いで少女の飛んでいった方角を確認する。そんな中、一人機嫌を悪くしたウーフェが遅れてやってくる。
「くそっ、まだ体が重い……。お前ら! 鋼鱗蛇はちゃんと討伐し終えたのか!? 何処にも姿が見えないが……まさか逃がしたりしてねぇよな?」
「…………倒しはした、ただ――」
「……魔王の配下と思われる黒い龍に吸収されました。つい先程北西の方角へ飛んでいったので、追跡するなら今のうちかと思います」
「何!? 急いでそいつを追うぞ! この機を逃す訳にはいかねぇ……絶対に見つけ出して、魔王を始末するんだ!」
そうしてウーフェたち一行は(元)龍の後を追い、着実に魔王との邂逅へと近づくのであった。
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