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第13話 怒りのままに

「はぁっ……はぁっ……あぁっ、もうめちゃくちゃだよ…………」

 

 結局あの後探しに来た冒険者に見つかってしまい、今は現在進行形で街中を追いかけまわされている。


「……アトス、そろそろ走るのも疲れてきましたよ……。いつまで逃げるつもりですか?」


「そうだな……このまま逃げてもいいことなさそうだし、一度止まるぞ」


 街の外れまでやって来たタイミングで俺たちは逃げるのを止め、追いかけてくる冒険者たちと正面から対峙する。革鎧に身を包んだいかつい体格の男たちがその野蛮さを隠すことなく漂わせ、徐々にこちらを追い詰めていく。


「ようやく観念したか……。ったく、手間取らせやがって」


「まぁまぁ、これで500万セルトは俺たちの物なんだ。とっとと済ませて報酬をもらうとしようぜ」


 中央にいるリーダー格の男が鼻で笑いながら手配書をひらつかせる。


 なんか向こう、もう既に勝った気でいるんだが……これは相当舐められてるな。冒険者って自信家というか、自分が一番強いって思ってる連中多いから仕方ないけど。


 けどちょうどいい。このまま調子に乗らせて隙を作れば簡単に逃げられそうだし、今はこちらからは手を出さずに様子見するとして……。


「なぁ。俺はその手配書に載ってる魔王とか、そんな大層な者じゃないからさ。ここは一つ見逃してくれないか?」


 腹を割って話せばもしかしたら誤解だと分かってもらえるかも、なんてちょっとばかり期待していた俺を冒険者たちが一斉に笑い飛ばす。


「あっははははは! 相書きとは随分似つかねぇと思ってたが、まさか性根までなよなよした野郎だとはな! 笑わせてくれるぜ!」


「情けねぇ面して、命乞いかよ! それでも男か? いや、元から連れの女にでも泣きつくつもりだったのかもな!」


「おいおい、それでも魔王かよ! ご立派な肩書きが聞いて呆れるぜ! そもそもこいつ、なんで手配されたんだ? 女の下着でも盗んだか? 末代までの恥になる前に殺してやった方がいいんじゃねぇのか?」


 クッソ……こいつら好き放題言いやがって……。だから魔王じゃないって言ってるだろ……!


 安い挑発だと分かっているが、それでもこうも理不尽に煽られていると腹の底から怒りが煮え滾ってくる。


 だが、ここで騒ぎを起こせばこちらの立場が悪くなるのは明白だ。だからどうにか心を落ち着かせようとしたその時――彼らの嘲笑を一筋の風が切り裂いた。


「……あ?」


 声を漏らしたときにはもう遅い。黒い影が瞬きする暇すら与えず冒険者の一人へと迫り、そのまま吸い付くように手を喉元へと差し向けた。


「…………何が、そんなに面白いんですか?」


 無機質な瞳と冷酷な表情で男を睨み、ヘルは言葉の刃物を突き付ける。


「なんだ……ッ! この女、バカみてぇに力が強ぇ……!」


 首を絞められ、足を地面から外した冒険者の顔が徐々に青ざめていく。必死に抵抗しようとするが、それは彼女の神経を逆撫でするだけで何の解決にもならない。他の仲間たちに助けを求めても、傍観者である彼らですら何が起きたのか理解出来ず、その場から一歩も動けずにいた。


「――!? おい! こいつの右顔……ッ!」


 やっと状況を理解し始めた仲間の冒険者が血相を変えてヘルを指差す。


 怒りで髪の毛が逆立ち、フードの外れたことで垣間見えた彼女の右顔――それは彼女が人ではなくモンスターであることを最も明確に、そして顕著に表していた。


 静かな美しさを湛える左顔とは対照的に、ヘルの右顔には自らの力の一端を示すような腐蝕が色濃く刻まれている。冒険者たちからすればその爛れた皮膚は彼女の言動と合わさり、さぞ不気味に見えたことだろう。


「くそっ! こいつも化け物(モンスター)だったのかよ……! 一丁前に人様の真似事なんかしやがって気持ち悪ぃ! 何だよその汚ねぇ面は!」


「…………」


 苦し紛れに放つ男の言葉を、ヘルは目を逸らすことなく静かに飲み込む。唇が小さく動くが、言葉は何も発されない。


 瞳には怒りも悲しみも宿っておらず、ただ微かな痛みだけが滲んでいた。


「このッ――! 手を放せ化け物ッ!」

 

 近くの仲間がヘルに向かって両手を構え、形成した魔法陣から火球を放つ。


 それが彼女の頬を焼く直前――俺は地面を思い切り蹴り、手に持った大剣で炎を切り払った。


 呆気に取られる冒険者を無視し、そのまま空の手でヘルに掴まれている冒険者の顔面を捉える。


「――汚ねぇのはてめぇの口だろうがぁ!!!」


「へぶぁぁぁぁぁっ!?」


 俺は歯止めの効かない、止める気もない怒りをそのままに男の顔面を地面へと叩きつけた。




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