第12話 俺だった
第二の魔王――まさかの俺だった。
「えっ!? はぁっ!? 『第二の魔王』って何!?」
手配書の中身を見てたまらず声を荒げる。あまりにもツッコミどころが多すぎるからだ。
「魔王って、そんなのになった覚えなんてないし、第一俺にはモンスターを操る力なんてないぞ!? 報酬も何気にめっちゃ高いし……てか、よく見れば誰だよこれ! 顔のパーツは俺のっぽいけど、雰囲気がまるで別人じゃねぇか!」
「確かに……言われてみれば少し盛られてるかもですね。でも、大体こんな感じじゃないです?」
「全然違うっ! これの何処が俺なんだよ!?」
手配書をヘルの顔に突きつけると、彼女は俺をからかってるのかからかってないのかよく分からない表情で淡々と答え始める。
「この吊り上がった不審な目つきとか、飢えた猛獣のような口とか……あ、この目元のクマとか雰囲気出ていていいじゃないですか」
「よくない! こんな舌出してヒャッハーしてそうな危ない奴に間違われるとか、今後の生活に支障が……! せめて人物像だけでも修正してもらうようギルドに掛け合って――あっ……」
広場へ一歩踏み出した瞬間、その場にいる全員の視線が自分に注がれていることに気づく。それぞれが手元の手配書と俺の顔を見比べ、あっとした表情で武器を手に取り始めた。
「こ、このままじゃまずい……! 一度逃げるぞ、ヘル!」
他人事のように傍観するヘルの腕を強引に取り、来た道を戻って路地へと駆け出した。
「――あっ! おいっ! 待て!」
一人が走り出したのを皮切りに冒険者たちが一斉に俺たちの後を追いかける。何度も擦れる金属音と荒っぽい足音に大量の汗を流し、俺は振り返る余裕もなく全力でその場を離れたのだった。
* * *
「――さっきの奴、どこにいった!?」
「確か、こっちの方に走っていったよな……? へっ、わざわざ向こうから出向いて殺されに来てくれるとは随分優しい魔王様だぜ!」
「お前ら、無駄口叩いでないで探せ! 500万セルトだぞ! これだけあれば当分依頼なんて受けなくても豪遊三昧だぜ! 他の奴らに先越される前に絶対探し出すぞ!」
――ダダダダダッ!
「……………………行ったか?」
引き返した路地の中、偶然見つけた建物の隙間に隠れた俺は恐る恐る周囲を窺う。
どうやら俺たちがここに逃げ込んだことはバレているらしい。先程から冒険者たちが何度も路地の中を駆け回っており、彼らが血眼になって側を通り過ぎる度に身の毛がよだつ。
「くそっ……、どうして俺がこんな目に……。ただダンジョンから帰ってきただけじゃないか……」
「…………あの、アトス」
「ん? どうしたヘル? もしかして、ここから脱出するいい案が浮かんだのか?」
「いえ、そうではなく…………、手が……」
「手?」
なんのことか一瞬分からなかったが、試しに自分の手を動かしてみると彼女の言いたいことが全て分かってしまった。
今俺たちは人一人が通るのでやっとの細い隙間に逃げ込み、体を寄せ合うようにして隠れている。
互いの息が触れ合う中、逃げることに精いっぱいで体の置き場所など何も考えていなかった俺の手はちょうど彼女の胸元に位置しており、指を軽く動かすだけでその柔らかい感触を捉えてしまう。
「なっ…………! 違うんだヘル、これは――!」
反射的に手を引っ込めようとするも、逃げ場のない空間ではどうにもならない。逆に体勢は崩れ、ヘルにぐっと密着してしまう。
身動きひとつ取れない中、逃げ場もなければ言い訳も出来ない俺に対して頬を紅く染め、どこか嬉しそうな目をしたヘルが見つめてくる。
「なるほど……ふふっ。アトスってば……そんなに私に触れたかったんですね」
至近距離で見せる彼女の妖しい笑みに心拍数が跳ね上がる。
「いやっ! ちょ、ちょっと待ってくれヘル!? これは完全に事故で――!」
「事故、ですか。なるほど、なら事故を起こしたアトスは私に多少なりとも責任を取ってもらう必要がありますね」
「ちょっ!? いったい何を!?」
ヘルの手は俺の身体を這い回るように動き、服の隙間を見つけて蛇の如く入り込む。
「何を……と言われても。さっきは私が触られましたから、今度はアトスの番ですよ。……まぁ、私が満足するまでこのまま大人しくしていてください」
「いや、お前が大人しくなるってどんだけ――おいやめろ! 見えてないところでさらっとズボンに触るな! せめて見えてる時にやれ!」
「見えている時ならいいんですか?」
「いや、そういう問題じゃないが……」
「じゃあ続けますね」
「だからやめろ! 誰かぁ! 誰か大人の人呼んでくれー!」
「――今の悲鳴は!? おい、こっちだ!」
咄嗟に出てしまった俺の叫び声を聞きつけ、冒険者の声と足音が一斉に近づいてくる。
「あっ、いや! 違う! ただの痴話喧嘩だから! お前らはこっち来るなぁー!!!」
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