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180ラビリンスが一望できる場所にて(タツヤ)

 

 ここは、このラビリンスの大都市を一望出来る場所。頭上には提灯虫と人工太陽の光、そして、下からはラビリンスの街並みが、この大迷宮を照らし、美しく、幻想的で、ロマンティックでもある。

 こんな絶景が見れる場所だというのに、誰も人には知られていない。自分だけの特別な場所だ。地図を調査していると、こんな秘密の場所なんかを見つけたりする。


 俺は、そんなところへ霞を連れ出した。


「あら、綺麗な場所じゃないの。」


 今日の霞はロングのスカートに、デニムの上着、普段着だろうけども、ロングヘアの頭のお団子が少しかわいいじゃないか。


 前にも、ギルドの建物の裏に連れ出したことはあったが、会って秒でフラれたこともあったな。

 たぶん、きっと今回も同じ。でも、せめて話はさせてほしい。だから、先にお願いさせてもらった。


「なぁ、霞、結果はわかってるんだ。わかってる。だけど、お願いがあって、最後まで話を聞いてもらえないか。霞はあの人だった。だから、俺の勝手なわがままなんだけど、あの人に最後まで話を聞いてほしいんだ。」

「あら、何よ。珍しいこともあるじゃないの。それに、意外と最後まで結論はわからないかもよ。でも、それよりも………。」


 と霞は目線をふと横にずらす。その見つめる先には…。


「ぐへ、ぐへへへ。」


 とまったく品の欠片もないようなニヤつき顔の自称妖精が宙を飛んでいた。


「……まぁ、いいさ。あまりの品のなさにドン引きだけどな。」


 今さら別にいいさ。どうせ覗いているんだろうし、アリエルがいようと、いなかろうと、今の目の前にあの人がいる。

 俺はその人に話しておきたいんだ。


 この絶景が見える場所を、霞としばらく並んで歩く。奴もその後ろからついてきているが気にはしない。


「霞。」

「うん、何?」


 もう一度、霞の顔をよく見る。

 髪型こそ違うかもしれないけども、やはり、似ている。当り前だ。彼女はあの恋焦がれていた大学の先輩だった。


 あぁ、ここまで何年経った?

 何回転生した?、そんなの覚えてない。


 昔、アイギスと初めて対峙したときのこと。アイツは言っていた。


「ほう、想い人かい。じゃが、人間のオス、言っておくぞ。そいつがあんたの想い人である保証などどこにもない。顔のよく似た人間なんて五万といる。まして、そいつは記憶をもっちゃいない。それに、あんたの顔を見ても、何一つ感情を変えなかったのだろ。」


 そうだよ。アイギス、あんたの言った通りさ。あの人と同一である保証なんてどこにもない。よく似た人の確率のほうが遥かに高い。

 けど、けどさ、アイギスよ。言っておくぞ。霞は、霞は、おれの探し求めていたあの人だったんだ。


 ここに来るまで何回転生した?、一回や、十回という次元ではない。万とか、億とか、それはもう気の遠くなるほどの転生を繰り返し、無限とも思える時間を過ごしてきた。

 けど、その時間は決して無駄ではなかった。


 こんなチャンスは二度とない。

 だから、俺はいう。


「霞。いや、―――さん。」


 俺は、この絶景の見える場所で、霞と真正面に向かい合う。


「あなたに、もう一度、会いたいと思っていたんです。でも、連絡も取れなくなっていた。噂に聞いた話では、トイレに携帯を落して、音信不通になったとか。それからずっと会えずじまいです。でも、こうしてもう一度会うことができた。もう、何年も、何年も何年も時間がかかった、というか、何年どころじゃない程の時間がかかった。でも、今、こうしてあなたに会えた。ずっとずっと好きだった先輩に、やっと会えました。」


 ラビリンスの街の光を背景に、霞も、ずっと俺を真っすぐに見てくれている。

 若干、その背後の宙に浮かんでいる羽の生えたやつがいたはずだが、いつのまにかいなくなっていた。気にはしない。


「会えて嬉しい。すごい嬉しい。もう、こんなオッサンになってしまったけども、もう一度会えて嬉しいです。それと一言だけ昔、言いたかったけど、言えなかったことがあります。聞いてくれませんか。」


 柔らかな風が霞の髪を少しだけ靡かせる。

 髪を抑えながら霞は答えてくれた。


「うん。いいよ。」


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「ずっと、ずっとずっと先輩のことが好きでした。ずっと、あなたと一緒にいさせてください。」


 何も音もしない静穏の瞬間、わずか数秒だとしても、それが長い時間のように感じられる。

 その間も、ラビリンスの街の輝きは美しくこの場を照らしている。


「オッサンじゃん。」


 それが霞からの第一声だった。


「プっ。そうだ、オッサンだよ。わかってるさ。どうせダメだとはわかってたさ。」

「だってさ、どうせ付き合うなら、お金持ちで、若くてイケメンな男がいいじゃない?」

「ふふ、まぁ、そうだよな。」


 あぁ、わかってるさ。わかっちゃいるさ。でも、いいんだ。言えた。ずっと言おうとして言えなかったことを、あの憧れだった先輩に言えた。それだけでも十分満足さ。

 なんだか、気が晴れ晴れして心地いい。


「でも……、あたし、Noとは言ってないわよ。」

「えっ。」

「ねっ、目をつぶって?」


 一瞬、霞が何を言ってるのかよくわからなかった。

 何を言ってるのか理解できず、頭がフリーズした状態のままだ。たぶん、目をつぶってとは言われたが、そのまま、目は開いていたかもしれない。


「こういうのってさ、男からするもんだと思うんだけどな…。」


 と声と共に、俺の頬にほのかに柔らかく、温かい感触が伝わった。


 ……


 そして……。

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