178ね、帰りましょうよ。(霞&アリエル)
自分で自分の昔の姿ってを見るって不思議よね。
あたしも転生者。でも、あたしには転生する前の記憶というのはないの。
アースホールっていうのは不思議な場所。時間が歪み、空間が歪んでいる。それに気がいっぱいに充満しているの。
だから、その人が望んだ時間、望んだ場所を覗くこと、転移することすら出来る。
今はこうして、タツヤの望んだ世界を見ているのだけど、でもね、こうやって、タツヤが望んだ世界を見ていると、段々、記憶が鮮明になってくるのよね。
あたしには記憶はない。
けども、確かに、むか~し、昔、こんな世界があったかなぁ~って、感じ。
記憶はないはずなのに、どこか頭の奥底のほうから徐々に込み上げてくる風景。
あたしは、確かに、この時間に、この場所にいたんだと思う。
あたしね、タツヤのその背後でアリエルちゃんと一緒に、そのすべてを見ていたの。
そのすべてを。
それでね。なんとなく思い出すのよ。いたわ。確かにこんな感じの後輩が。
今はオッサンになっているけど、昔は、若…、昔も老けてるからあんま変わんないかもね。
でも、そんな可愛いくて憎めない後輩が昔いたかもしれない、というか、確かにいたわ。
もう、完全に忘れてたわ。
改めて横顔を見つめてみる。今はただのオッサンというか、プっ、昔から老けてたから、今も昔も変わらないかもね。
タツヤ、いや、今は―――くん、って言ったほうがいいのかしら。
でも………、うん………、良かったじゃん!
タツヤはずっと、ずっとずっと探していたんでしょ。
あたしの転生する前の姿に。
こうして転生する前のあたしに出会うことができた。
そして、今もなお、あたしは記憶はなくしてしまっているけれど、同じ時間、同じ場所をこうしてあなたが望んでいた人と一緒に過ごしていた。
もう、ずっと、ずっと、あなたは、何年も何年もずっ~っと願っていたんでしょ。
「ね、帰ろうか。―――くん。」
「えっ。」
「だって、タツヤってこの世界での名前なんでしょ。」
さっき、見ていた世界で、転生する前のあたしが、タツヤのことをそう呼んでいた。
まったく記憶はなかったけど、確かに、そんな名前だったわね。
だから、その名前でちょっと呼んでみただけ。
でも、見てよ。タツヤがトマトみたいに赤くなってやんの。
「それを言ったら、霞だって、本当の名前は――――。」
タツヤも反抗して、あたしの本当の名前で呼んだようだけど、あたしには記憶がない。
確かに、そんな名前だったかも、という記憶の欠片が思い出されるけども、この世界で、あたしは霞なのよ。
でも、本当に良かったよ。
少し前に話は聞いたよ。ずっと、ずっと、記憶を持ったまま、何度も何度も転生を繰り返したって。
しかも、その転生も孤独で毎日が辛い日々だったって。
だったらさ、たまにはこんな日があってもいいじゃない。
「ね。帰りましょうよ。あたしたちのラビリンスに。」
―――
どうも、アリエルなのです。
いや~なんかいいものを見せてもらったのです。なんだか胸がキュンキュンしちゃうのです。
いい雰囲気なので、なかなか入り込む余地がなかったのです。
「あの~~。」
とあたしはいい感じになっている二人の間に割り込むのです。
言っておくのですが、ここはアースホール。
いるだけでもいろいろ気を持ってかれて、どんどん眠くなってくるのです。
いちゃつくのはいいのだけども、とっととここを去りたいのです。
「お前ら、くっつくか、早くここから去るか、いい加減するのです。」
と言ったとたん、二人は互いにそっぽ向きやがったのです。
「そんじゃ、帰るか、ラビリンスに。」
「そうね。」




