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176出会いと別れの踏切(続き)

 

 そして……、


 列車が通過し、黄色と黒のシマシマ模様の遮断桿が頭上へと上がった。


 そして、目の前には……。

 ………、

 ………、


 そこに女性は既にいなかった。


 俺はしばらくその場に立ったまま、ただ、先ほどまで、そこに女性がいた場所を何も考えずにただ見つめていた。

 周りからは、少し変な人に見られていたかもしれない。


 結局、これだ。

 結局、何をしても、何も変わることはない。

 結局、すべてがダメになる。

 結局、何をやってもダメ。

 結局、運命なんて何も変わることはない。

 霞が自分の探していたあの人かもしれないというのに、知ることすらできない。

 もし、運命の神様という神でもいるならば、呪ってやりたい。


 ………。


 しばらくの沈黙…。

 ここにいても仕方がない。帰ろう。ラビリンスに戻ろう。

 さて、これからどうするか。霞にはいろいろと助けてもらったし、アリエルにも…。


 そう思いながらも、踵を返そうとした時だった。


 ガシッ


 と、突然、首根っこを掴まれた。首根っこを掴まれたので振り返ることもできない。


「こんなところで何やってんのよ。」


 と、後ろからは、どこかで聞いたことのある声。霞の声にも似ているけども……。

 そのまま、グイ~と首を強制的に180度回転させられるが、首がちぎれそうになるので、体も180度回転させる。

 そこで、その声の主と面と向かい合わせになる。


 そこにいたのは、先ほどの踏切の向こう側にいた女性だった。

 なんで、こっちの側に?と思うこともあったが、それより先に声が出てしまう。


「え、あ、ああ、あっ、あれ?」


 その女性は霞によく似ている。よく似ている、というよりも、霞の若いころ、そのものだ。

 そうさ。その声の主は霞だったんだ。だから、思わず声をかけようとした。けども、声がどもってしまう。


「ぷっ、何でそんなにどもってるのよ。ねぇ、こんなところで何やってるのよ。『―――。』」


 あぁ、そうだった。俺の名前はタツヤ。でも、それは、転生するたびに自分の名前を忘れていたから。

 だから、この世界では適当にタツヤと名乗ることにした。けども、確かにそうだった。

 俺の本当の名前は―――だ。

 懐かしい響き、何度も転生をしているうちに忘れていた本当の名前。


 そして、今の目の前にいる人、その人は、そう、そう間違いなく霞だ。

 どうやら、何度も転生を繰り返していると、徐々に記憶が欠損していくようだ。


 でも、思い出したよ。

 どうやら、おれの探していたあの人は、本当に霞にそっくりだったようだ。


「えっ、ねぇ、ちょっと、なんでそんなに潤んでるの。」

「いや、別に。」


 自分がまだ転生する前に、好きだった大学のあの先輩………。


 今、その人は、今、俺の目の前にいた。


 会えた。


 やっと、会えた。


 あの時から、何回転生した?何年が経過した?

 おそらくは、数えきれないほどの年限が経過しているのは間違いない。


 でも、いいんだ。会えたから。

 朱音が自身の夢を叶えたように、自分も夢を叶えることができた。


 もう、思い残すことは何もない。


「で、何してたのよ。」

「い、家に帰ろうとしたところですよ。それより、なんでこっちに?」

「それは…、隣の踏切を渡ってきたからよ。―――の声が聞こえたからさ。」

「えっ。なんでわざわざ?」

「知りたいの?」

「いや別に…。」

「ふ〜ん………、知りたくせに。じゃ、帰る?駅までだけど。」


 そして、もう一つ重要なこと。


 自分がこのラビリンスで一緒に活動してきた隣人の霞……。若かりし頃の彼女もまた、今、俺の目の前にいるということ。


 霞もまた転生者。でも、記憶がないから、この頃のことなんて覚えてないだけ。


「いいですよ。駅までですけどね。」


 駅までといっても、この踏切から駅までなんてほんの数分。でも、この数分が、これまで何度も、何度も何度も繰り返してきた転生の時間を遡行し、あの日、あの場所で先輩たちと過ごして日々を思い出せてくれる。


 あの公園で一緒にジョギングしてトレーニングしたこと、山で地図を作っていたら熊と出会って一緒にリアルバトルしたこと、たこ焼きを奢らされたこと。Tixxanyのウィンドウ前で下唇に人差し指を当てながら、「ねぇ、これ欲しいな」って、せがまれたこと、サークルの新歓活動で先輩と一緒に女子大に突入したはいいけど校内で迷って不審者扱いされたこと、忘れていたあの日々たちが、だんだんと蘇ってくる。


 探していたあの人と踏切から駅へと向かって歩き出す。


「元気でした?」

「え?元気って昨日会ったでしょ?」

「そうでしたっけ?いや、もう、年でして。」

「あぁ、そうなの。いつも老けてるけど昨日よりも老けたね。」


 若いころの自分は元から老けてたせいか、今の自分とほとんど変わらないらしかった。それがいいのか、悪いのか、こうして、あの人と普通に会話が出来ている。


 本当にどうしようもない会話で間を繋ぐ。明日の講義の話や今週末のサークル活動など。

 駅までほんの数分。わずか数分の間だというのに、その時間はこれまで幾度なく繰り返してきた転生した時間に匹敵した。それほどまでに、貴重な時間だった。


 おれは転生しても記憶を持っている。

 けども、いつの間にか忘れていたあの先輩と過ごした記憶がこんなにもたくさんあったんだ。


「じゃ、また、あしたね。バイバイ。」


 あの人は微笑みながら手を振っている。改めて思う、綺麗な人だと。

 自分も呼応するように手を振って別れた。


 会えた。

 会えたよ。


 たったの数分かもしれないが、その数分が、これまで自分が転生を繰り返してきた時間に匹敵する程の貴重な時間だった。

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