166栄光と失ったもの(タツヤ)
幸せだった。
これまでの幾度となく転生をしてきた世界に比べれば幸せ過ぎた。
確かに、霞はよく似ていた。俺の思っていたあの人に非常によく似ていた。だから、おれは勝手に霞に夢を重ね合わせていたのだろう。
夢なんて叶うわけがないんだ。高望みをしてはいけない。だから、現実を直視しよう。
そうでなくても、この世界は十分に幸せなんだ。
あれからというもの、霞とはレッドダイヤで大儲けした。今でこそ、RGF社が参入し、レッドダイヤを独占してしまっているが、それでも十分に遊んで暮らすだけのお金を稼ぐには十分過ぎた。
気づけば、あの安マンションを離れて、タワーマンションの最上階ワンフロアを霞と共同で購入した。
霞とは冒険者というよりも、レッドダイヤの採掘の共同作業者としてタワーマンションの広い最上階をシェアハウスしていた。
あるときは、リビングルームに札束のプールを作って霞と一緒に「やほー」とか言いながら、ダイブなんかしていた。こんな遊び一生できないだろうな、なんて言ってな。
今、このラビリンスにはCランクとDランクという冒険者の境界以外に、富豪か、貧民か、という貧富の格差も生じている。RGF社がグローリーホールの底でのレッドダイヤを乱獲して、経済が大混乱したせいだ。
勝ち組……。
それが頭の中に響いた言葉。
これまでの幾度なく転生を繰り返した。いつも下っ端の雑兵であったり、どこかの奴隷であったり、いつも辛い役回りだった。転生する前の現実世界でもそうだ。会社という名前の刑務所で、ひたすらに仕事させられ、うまくいかなければ、罵倒される毎日だった。
札束のプールから少し歩き窓へと向かう。
この風景を見ろよ。
タワーマンションの最上階から見えるのは、ラビリンスに広がった貧民街。
いつもの自分の転生であったならば、階下に見える貧民街でじり貧の生活を送っていただろう。
大都市、ラビリンスは戦争で暗くなってしまった。
スラム街ができ、人々が食物のあるところへと群がっている。
自分は、この光景を高い所から眺めている。まるで、この世界の支配者にでもなった気分だ。
階下では人々がまるでダニのごとく湧いたかのように蠢いている。
わかっている。いずれは転生する。それまでの間、幸せでいたいと、そう願っていた。
だからこそ、自分は重大なことが起きていることに気づけなかったんだ。
「何か足りない…。何か忘れてるような…。」
確かに、どこかに何かが足りないという気はしていたんだ。
霞やリアとは毎日話すし、グレゴリーやダンともよく話をするようになった。そのたびに、誰かがいないような気はしていたんだ。
きっかけは、ある日、スラム街の脇のゴミ捨て場の近くを通ったときだった。
たまたま、偶然に、ゴミの山の中に、虫かごを見つけたんだ。
今はタワーマンションの最上階に引っ越しているが、以前は安マンションで暮らしていた。その安マンションの部屋の机にいつも置いていた虫かご……。それによく似ている。
あれ?何で机の上に虫かごなんて置いていたんだ?
もちろん、虫かごなんて、使わないから今のタワーマンションの部屋にはない。
けど、なぜ虫かごなんかを机の上に置いていたのか、よくわからない。虫かごにはなぜか、布団が敷いてあった気がする。
思い出せない……。
けど、本当にたまたま偶然だった。
そんなこと考えながら歩いていたら、足元を見ていなかったせいで、スラム街の建物の角に、足の小指をぶつけた。
「痛って~~~!」
まったく、誰のせいだ。昔から、こういうのはよく、妖精の仕業なんて言われていたんだ。
あっ…。
どうやら天狗になっていた。
グローリーホールのレッドダイヤで大儲けして、有頂天になっていた。
毎日霞と札束を眺めて喜び合い、札束のプールにダイブする。
そんな毎日が当たり前になっていた。
俺たちは浮かれ過ぎていた。
だから、重要なことが起きていたことに一切気づけなかった。
いないんだ。
アリエルが………。




