157リアの店(リア)
「あら、タツヤじゃない。今までどこ行ってたのよ。それに、ダン、あんたも一緒なの?珍しい組み合わせね。」
「よう、こいつにきついのを一杯出してやってくれないか?」
ダンは最近は毎日のように会ってるのよ。懐かしい話でもしながらね。互いに長く生きていたからでしょうからね、話したいことがたくさんあるのよ。
けど、今日はタツヤと一緒。タツヤと一緒なんて珍しいけど、そもそもタツヤと会うのが久しぶり。
最近は、全然地図を卸してくれないから、地図の売上げもパーなのよ。タツヤには仕事してもらわないと困るのよね。
あたしはキツメのカクテルをテーブルに出しながら、タツヤに話しかけてみるの。けど、何かタツヤは目が死んでいるようなのね。
「最近見ないじゃないの。どうしたのよ。最近はね、地下へ行くよりも地上を目指す冒険者が増えてきてね。地上へ行く地図を作ってくれたらな高く買い取るわよ。」
「そうだな。しばらくはここにいるだろうから、考えておくよ。」
とは言ってくれたけども、やはり目が死んでいるようなのね。
「で、何があったのよ。女にでもフラれたの?」
あたしはね、これでもそれなりに長く生きてるのよ。半分、冗談で言ったつもりだったのだけど、タツヤの目が一瞬だけ、動いた。これは、当りね。確か、霞さんだったかしら?お連れの人がいたけど、フラれたのかしらね。
「あんたはなんでも見てるんだな。」
「女の勘よ。霞さんだったっけ?残念ね。」
「違う!」
突如、タツヤの語彙が強まったので少しびっくりしてしまったわ。
「霞は違う。霞は、霞は、こんな俺を助けてくれた。」
タツヤは下を向いたまま話をつづけたわ。
「なぁ、何年も何年も、会いたいと思っていた。だけど、時間が立ち過ぎて、会いたいという想いすら忘れていた。ただ、ただ、時間だけが過ぎる日々、ただのルーチンになっているだけの退屈な毎日。けど、偶然、その人の手がかりを見つけた。その日を境にそれまで退屈だった毎日が急に変わった。その手がかりを追って、必死にしがみついて、しがみついて、ただ退屈だった毎日が、あの人を追いかけるための毎日に変わった。そしてな、ついに見つけたと思ったんだ。やっと会えたと思った。本当に、本当に嬉しかった。どれだけ胸が高まったことか。けどな、いざ会ってみたらさ……、ただの探している人に似ている人だった……。なぁ、バカだと思わないか。とんだ笑い話じゃないか。とんだ勘違い野郎だと思わないか。」
こんなタツヤははじめだったわ。いつも無愛想に、地図を作ってくれてきて売ってくる金づるさん、それがあたしの印象だったの。アイギス、奴がきたときは、彼の活躍があって、それもびっくりではあるのだけど、あたしの印象は無愛想なオッサン。
けど、こんなに自分の想いをぶちまけるタツヤは初めて見たわ。よほどの想いがあったのでしょうね。タツヤは下を向いている。今、どんな表情しているのかわからないけど、きっと悔しかったのでしょうね。
あたしもね、長年、長年、気になっていた人はいたのよ。
同じように、長年、長年、経過するうち、気づけば、その人の存在すら忘れていた。
長年、とは言ったけど、そうね、あたしはバンパイヤ、人間でいう長年とは、感覚が違うのかもしれないわね。
けど、遥かに長い長い時間を経て、あたしもきっかけを掴んだの。
そして、その人かもしれない人とあたしも出会ったのよ。
長年、長年、本当に長い時間が経過したのだけど、本当の遥か昔の記憶の片隅にあった彼、その彼と思う人とあたしは出会えたの。
でも、本当に彼かどうかはわからない。
彼は言ったわ。「真実を知ってしまったらつまらない。このぐらいがちょうどいい」って。そうよね。これぐらいがちょうどいいしれない。
タツヤは、その真実を知ってしまったのでしょう。そして、真実を知ってしまったことで、真実に裏切られたのでしょう。
あたしは、タツヤがどれだけ、長い時間を過ごしたのわからないわ。タツヤの思っていた人にタツヤどれだけの想いをがあるのかも、あたしにはわからない。
けど、下を向いているタツヤにそっと声をかける。
「つらかったんでしょ。」
あたしは、そっと手をタツヤの背中に置いた。
タツヤの体が、小刻みに震えている様子がそれでわかったの。
これが、いつもあたしの店に地図を卸してくれていたタツヤ。
ふだん、全く見せない一面。
内面を一切出さない、まるでロボットのような人だとは思っていたいけれど、意外とちゃんと人間的なところがあるじゃないの。
けどね、あたしは思うのよ。
「ね、タツヤ、辛かったのね。大変だったんでしょうね。けどね、いつまでもクヨクヨしてたところで、何か変わるとでも思ってるの?いいえ、何も変わらないわ。だったら、今できること、これからやることでも考えなさいよ。」
バシン!
とあたしはタツヤの背中を叩くのよ。
タツヤはあたしのほうを恨めしそうに睨んできたわね。
「痛ってぇ……。リア、てめぇ……。」
「何か言いたそうね。言いたいことがあるなら聞くわよ。今日はあたしが奢ってあげるから、吐くだけ吐きなさいよ。」
ドン!
あたしは、追加できつめのカクテルを作ってタツヤの前のテーブルに少し乱暴に出すの。
「それにね、あなたがどれだけ長い間苦しんできたのかわからないわ。けど時間ならまだあるじゃないの。」
「時間がある??ふっ、ふふふっ。時間がか…、そうだな。あるかもしれないな。けどな、また、こんなに長い間待たないといけないのか。俺は気の遠くなるほど待った。死ぬほど気の遠くなるほど待った。まるで永遠に続くと思えるぐらいに、長い長い時間を待った…。待った結果が…これさ。」
「じゃ、諦めればいいじゃない?」
「諦められれば、こんなに困ることなんかないんだよ。俺は諦められない。」
「なら、諦めずに探し続けるのね。ずっと、ずっと、ずっと、待ってれば、たまにはいいこともあるわ。」
「あるわけがない!ずっと、ずっと、ずっと、待った、ずっと生きてれば、たまにはいいこともあると思ったさ。けど、けどな…、裏切られたんだ。こんな運命、くそくらえ。」
「でもね……、」
「ふざけるなよ……。」
・・・。
・・・。
そんな感じの押し問答がずっと続いたわ。
タツヤとまさか、こんな話題で話をするなんてね。
でも、タツヤ、だんだん酔いが回ってきたのか、だんだんとべろんべろんになってきたわね。
「おらわ、おらわ…、あいふのきょとがうっと、うっとふきだったんふぁ…。」
バタン!
あら、タツヤ、お店のテーブルに伏して寝てしまったわね。今日はこれぐらいかしらね。
タツヤとこんなに話したのは初めてかもしれないわね。
ただ…、このやり取りを隣でずっと見ていた人がいるのよ。
「ダン?、あなた、ずっと横で見てるだけじゃないの。」
「俺は、そういう話は苦手でな。俺は見てるだけがいいんだ。」
「そう。タツヤ、酔いつぶれちゃったみたいね。あんたが連れてきたんだから、ちゃんと送り届けるのよ。」
「それぐらいは、サービスするよ。」




