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156泉のほとり(ダン)

 

 ここはラビリンス。地下深くにある大迷宮の都市。

 こんな地下深くにこんな大都市が出来るなんて、昔はまったく思いつくことすら出来なかっただろう。

 ラビリンスを囲う大岩壁には提灯虫や人工太陽の光で照らされているが、それ以上に、大都市の光が大岩壁に影を作り出している。

 ラビリンスは、一度、破壊されかけた。その時は、この地下を照らす光がなくなり、提灯虫だけとなり、洞窟本来の暗さを取り戻したんだが、今は、もう、以前と同じような風景に戻りつつある。


 私は、行きつけのリアの酒場にでも行こうかと思っていたところだったんだ。

 以前から行きつけの酒場なんだがな、少しそこの女主人とちょっとあって、最近はいろいろとサービスしてくれたり、互いに他愛のない話をするようになって、毎日のように行きつけるようになっていたんだ。


 いつもは人通りの多いこの通り。復興したようでだいぶ人も増えたようだ。

 ただ、遠回りだが、迂回するとルートもあってな、何もないし、少し大迷宮の中に入る場所だから人なんて誰もいない。ただ小さな泉があるだけ。いつもであれば、素通りする場所なんだが、そのときだけは、なんか様子がいつもと違う気がしたんだ。

 別に大したことではないのだが、たまには、寄り道もいいだろうとそのときは思ったのだ。なので、少し寄り道ついでに普段、人通りのいない道で来たというわけだ。


 道を進むと脇に泉が見えてくる。こんな小さな泉はラビリンスのそこら中にある。ほとんどは冷たい泉だったりもするが、ここは地下深くというのもあり、中には温泉が湧いていたりして、そんなところは、観光名所になっていたりする。


 ところがな、道の脇の泉のどこからか、笑い声が聞こえたんだよ。


「はっはっはっはっはっはっ。」


 っていう感じだ。

 気が狂ってしまったか、よほど泥酔している人でもいるのだろう。


 この泉には夜光虫がいるんで、泉の中で何かが動くと光るんだ。だから、すぐにわかった。

 誰かが、泉の中に飛び込んで、湖水に浮かびながら笑い声を上げている。


 少し暗いからわからなかったけども、泉のほとりまで近づいて見ると、誰がいるのか、よくわかった。

 まさか、知らない人であろうと思っていたが、よく見れば、そこにいるのはアイツだったんだ。


 このラビリンスでアイギスが現れ、破壊の限りを尽くしたとき、一緒の班になった冒険者、そして、グローリーホールに飛び込んだ冒険者。名は、タツヤ、とか言ったか。


 だから、知らない人であったら放っておくところだったのだが、さすがに同じ班になったよしみだ。

 声をかけてやったんだ。


「おい、あんた、大丈夫か?」

「あんた、誰だ?」


 タツヤという男は、泉に湖水に浮かびながら、答えたよ。

 水面の波紋が、彼の体形に沿って、夜光虫が波のように光っている。

 同じ班だったはずなんだが、顔を覚えられてはないとは残念だ。まぁ、長く生きてればこんなこともある。


「忘れたか。非常事態宣言のときに同じ班だっただがな。」

「そうか、すまん、人の顔は覚えるが苦手なんだ。」

「まぁ、いいさ。そんなところで何やっているんだ。風邪ひくぞ。」

「少し頭を冷やしたかっただけだ。」


 といって、やっと泉から出てきては、岸でびしょ濡れで湖岸で服を絞り始めた。


「そうか、なんか嫌なことでもあったのか?」

「まぁ、そんなもんだ。たまにはそんなときもある。」

「あんたにもそんな時はあるんだな。まぁ、長く生きれば、そんなこともある。」

「長く生きてれば…、か…。」

「そういう時はよ、パーって酒場で飲んじまうといい。ちょうどな、リアっていうキレイな女店主がやっている酒場に行くところだ。どうだ、一緒にいくか。同じ班だったよしみだ。奢ってやる。」


 私は知っている。こいつは、あのグローリーホールに飛び込んだ男。

 そして、あのアイギスをも倒した男。

 胸にはDランクのプレートが飾られているが、この男はそんなレベルの男じゃない。

 下手をすれば、Sランクレベルのすごい技量を持ったとんでもない冒険者だろう。

 けども、そんな男でも、嫌なことがあるとは、相当嫌なことでもあったんだろう。


「リアか……。そうだな。リアの店には久しく行ってないな。久しぶりに行くか。」

「おう。というか、リアの店を知ってるのか?」

「まぁな、ちょっと前まで地図を作って卸していたからな。」

「ほう、そうか。」

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