表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/208

150この物語の真実へ―あの日、あの時のこと(タツヤ)

 

 只野馬場駅。

 駅を降りると、たくさんの若者たちで溢れかえっている。

 周囲にはたくさんの大学があり、専門学校があり、学生で溢れかえる町。只野馬場。


 あぁ、見覚えがある。

 ここは、自分が転生する前の大学時代の世界だ。

 それに、一度アースホールに来た際に一度まったく同じ風景を見ていている。そして、霞、いや、あの時好きだった先輩と同じ姿を見かけ、声をかけようとして、ついに勇気が出なかった。


 けど、今は違う。明確な理由はない。

 けども、あのとき、ギルドの裏で霞と話したこと、アイギスの城で夜に霞と話したこと、満天の星空の下で飛空艦の甲板で霞と話したこと、それが今の自分ならばできると鼓舞させてくれる。


 それに、ウザいヤツだが、アリエル。

 あいつにも散々に言われた。『妖精を虫呼ばわりする割には、弱虫なのはあんたじゃないか』と。


 その通りだ。あの時は適当に誤魔化したけども、自分は弱い人間だ。

 現実を直視することすらできない、弱い虫以下の存在。

 けども、今なら、克服できそうな気がする。


 自分はこの風景をよく知っている。

 だって、ここは自分の大学のあった町。いつも通学で通っていた場所。

 自分が転生する以前の世界だ。


 駅前の横断歩道が、赤から青へと変わり、信号待ちをしていた多くの人々が一斉に歩き出す。

 その中を、自分も雑踏に紛れて歩く。人が多すぎて、雑踏に紛れて歩くけども、今なら堂々と、胸を張って歩くことができる。


 霞を追って、この世界に辿り着いた、ということは、霞も自分と同じ場所、同じ時間を生きていたということ。

 霞はあの人によく似ている、それは、果たして、単なる偶然なのか。

 今までの自分には、どこかで単なる偶然を願っている自分がいたのだろう。

 けども、今は違う。単なる偶然?そんなもんがあってるたまるか。これは必然に違いない。


 俺は駅から大学へと足を進める。わかっている。前回、アースホールにきたときと同じ風景。であれば、大学へと急いだところで会えないことはわかってはいる。

 けども、わかっていても体は急いでしまう。早く会いたい。その思いが、結局は、進める足を徐々に早め、気づけば走っていた。


 ぶっちゃけ、走るぐらいならバスで行ったほうが早い。

 それも前回も思っていたことだが、それすら忘れ、自分は走った。


 大学のキャンパスに辿り着く。

 さすが、キャンパスにつくも、大学内は無駄に広い。何号館、何号館、と建物がいくつもあり、しかも、複雑怪奇に入り組んでいる。

 前回と同じであれば、ここを探しても見つからないのであろう。けども、もしかすれば、会えるのかもしれない、という希望が自分を駆り立てる。前回と同じように、適当に行き当たりばったりに、適当に探すも、周りは人、人、人。やはり見つかることはない。


 次は、前回訪れたのと同じように、サークルの部室に行ってみる。

 けども、状況は前回と同じ。いつもは暇人がいるはずだが、今日は誰もいない。


 次に、いつもサークルの練習に使っていた公園へ行く。多くの大学生がダンスなどの練習をしているが、あの人の姿は見当たらない。


 わかっている。これが前回とまったく同じであれば、こうしていても、あの人と会える場所は決まっている。

 けども、前回と同じように行動しないと、会えないかもしれないという恐れから、前回と同じような行動してしまう。前回と同じであるならば、あの場所で会えるはずなのだ。


 いつも昼飯を食べに行っていた店に行くも、あの人はいない。

 移動する間にも、通行する人たちの顔をじっくりと見てみるが、やはり、あの人はいない。

 食堂、教室、図書館、思いつくようなところにはすべて足を運ぶが、あの人はいない。


 時間は夕方になる。前回と同じように、再度、サークルの部室に戻る。

 そこには、懐かしい人たちがいた。

 自分が大学生だったときの、先輩たち、後輩たち。

 自分が姿がみえてないのだろうか、意識されることはない。

 わかっている。ここにあの人はいない。


 けども、改めて、先輩と後輩たちの顔を見る。孤独だった自分に、はじめて”仲間”というのを教えてもらった。

 あの人でなくても、先輩から良く接してくれ、後輩たちはこんな自分のことを慕ってくれた。

 そんな仲間たちの顔ぶれに、何年振り、いや、もはや何年とか数字で現わすことすら適切でないだろう、それぐらいの期間をあけて、再び出会えた。少し感傷に浸ってしまう感情がないわけではない。


 けども、今はやることをやろう。

 その場を去り、次は、いつも練習に使っている公園を見まわしたり、キャンパス内をくまなく歩き続けた。

 前回と同じであれば、ここでも会うことはないのはわかっている。


 そして、時間が迫って来た。

 前回、この場所、この時間を訪れたときに、彼女の後ろ姿を見つけた時間。


 大学からの帰り道を駅へと向かって歩く。

 その間にも、通行する人たちの顔をよく見るも、彼女はいない。


 そして、駅の近くの踏切に来た。

 自分は前回、この時間、この場所で、俺はあの人の後ろ姿を見つけたのだ。


 カンカンカンカンカン


 けたたましく鳴り響く警報音。

 ちょうど、その向こう側にある女性が歩いているのが見えた。


 前回と、まったく同じ状況。

 そして、踏切の向こう側を歩く女性。それは、まさしく、自分が探していたあの人の後ろ姿。


 大丈夫。

 前回は勇気がなかった。けども、今は違う。

 霞という女性に出会い、そして、アリエルとかいう自称妖精と出会い、いろいろと過ごした中で、ちゃんと決心は着いた。

 前回は、自分は弱虫だった。

 現実を知ることが、突然、怖くなり、声を出すことが出来なかった。


 けども、今は違う。

 さぁ、今こそ、ちゃんと現実と向き合おう。


 踏切は、今もなお、カンカンカンカンカンと鳴り響く。そして、黄色と黒の縞々模様の遮断桿が踏切を遮ろうとしている。

 俺は、その遮断桿に向けて、一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ