150この物語の真実へ―あの日、あの時のこと(タツヤ)
只野馬場駅。
駅を降りると、たくさんの若者たちで溢れかえっている。
周囲にはたくさんの大学があり、専門学校があり、学生で溢れかえる町。只野馬場。
あぁ、見覚えがある。
ここは、自分が転生する前の大学時代の世界だ。
それに、一度アースホールに来た際に一度まったく同じ風景を見ていている。そして、霞、いや、あの時好きだった先輩と同じ姿を見かけ、声をかけようとして、ついに勇気が出なかった。
けど、今は違う。明確な理由はない。
けども、あのとき、ギルドの裏で霞と話したこと、アイギスの城で夜に霞と話したこと、満天の星空の下で飛空艦の甲板で霞と話したこと、それが今の自分ならばできると鼓舞させてくれる。
それに、ウザいヤツだが、アリエル。
あいつにも散々に言われた。『妖精を虫呼ばわりする割には、弱虫なのはあんたじゃないか』と。
その通りだ。あの時は適当に誤魔化したけども、自分は弱い人間だ。
現実を直視することすらできない、弱い虫以下の存在。
けども、今なら、克服できそうな気がする。
自分はこの風景をよく知っている。
だって、ここは自分の大学のあった町。いつも通学で通っていた場所。
自分が転生する以前の世界だ。
駅前の横断歩道が、赤から青へと変わり、信号待ちをしていた多くの人々が一斉に歩き出す。
その中を、自分も雑踏に紛れて歩く。人が多すぎて、雑踏に紛れて歩くけども、今なら堂々と、胸を張って歩くことができる。
霞を追って、この世界に辿り着いた、ということは、霞も自分と同じ場所、同じ時間を生きていたということ。
霞はあの人によく似ている、それは、果たして、単なる偶然なのか。
今までの自分には、どこかで単なる偶然を願っている自分がいたのだろう。
けども、今は違う。単なる偶然?そんなもんがあってるたまるか。これは必然に違いない。
俺は駅から大学へと足を進める。わかっている。前回、アースホールにきたときと同じ風景。であれば、大学へと急いだところで会えないことはわかってはいる。
けども、わかっていても体は急いでしまう。早く会いたい。その思いが、結局は、進める足を徐々に早め、気づけば走っていた。
ぶっちゃけ、走るぐらいならバスで行ったほうが早い。
それも前回も思っていたことだが、それすら忘れ、自分は走った。
大学のキャンパスに辿り着く。
さすが、キャンパスにつくも、大学内は無駄に広い。何号館、何号館、と建物がいくつもあり、しかも、複雑怪奇に入り組んでいる。
前回と同じであれば、ここを探しても見つからないのであろう。けども、もしかすれば、会えるのかもしれない、という希望が自分を駆り立てる。前回と同じように、適当に行き当たりばったりに、適当に探すも、周りは人、人、人。やはり見つかることはない。
次は、前回訪れたのと同じように、サークルの部室に行ってみる。
けども、状況は前回と同じ。いつもは暇人がいるはずだが、今日は誰もいない。
次に、いつもサークルの練習に使っていた公園へ行く。多くの大学生がダンスなどの練習をしているが、あの人の姿は見当たらない。
わかっている。これが前回とまったく同じであれば、こうしていても、あの人と会える場所は決まっている。
けども、前回と同じように行動しないと、会えないかもしれないという恐れから、前回と同じような行動してしまう。前回と同じであるならば、あの場所で会えるはずなのだ。
いつも昼飯を食べに行っていた店に行くも、あの人はいない。
移動する間にも、通行する人たちの顔をじっくりと見てみるが、やはり、あの人はいない。
食堂、教室、図書館、思いつくようなところにはすべて足を運ぶが、あの人はいない。
時間は夕方になる。前回と同じように、再度、サークルの部室に戻る。
そこには、懐かしい人たちがいた。
自分が大学生だったときの、先輩たち、後輩たち。
自分が姿がみえてないのだろうか、意識されることはない。
わかっている。ここにあの人はいない。
けども、改めて、先輩と後輩たちの顔を見る。孤独だった自分に、はじめて”仲間”というのを教えてもらった。
あの人でなくても、先輩から良く接してくれ、後輩たちはこんな自分のことを慕ってくれた。
そんな仲間たちの顔ぶれに、何年振り、いや、もはや何年とか数字で現わすことすら適切でないだろう、それぐらいの期間をあけて、再び出会えた。少し感傷に浸ってしまう感情がないわけではない。
けども、今はやることをやろう。
その場を去り、次は、いつも練習に使っている公園を見まわしたり、キャンパス内をくまなく歩き続けた。
前回と同じであれば、ここでも会うことはないのはわかっている。
そして、時間が迫って来た。
前回、この場所、この時間を訪れたときに、彼女の後ろ姿を見つけた時間。
大学からの帰り道を駅へと向かって歩く。
その間にも、通行する人たちの顔をよく見るも、彼女はいない。
そして、駅の近くの踏切に来た。
自分は前回、この時間、この場所で、俺はあの人の後ろ姿を見つけたのだ。
カンカンカンカンカン
けたたましく鳴り響く警報音。
ちょうど、その向こう側にある女性が歩いているのが見えた。
前回と、まったく同じ状況。
そして、踏切の向こう側を歩く女性。それは、まさしく、自分が探していたあの人の後ろ姿。
大丈夫。
前回は勇気がなかった。けども、今は違う。
霞という女性に出会い、そして、アリエルとかいう自称妖精と出会い、いろいろと過ごした中で、ちゃんと決心は着いた。
前回は、自分は弱虫だった。
現実を知ることが、突然、怖くなり、声を出すことが出来なかった。
けども、今は違う。
さぁ、今こそ、ちゃんと現実と向き合おう。
踏切は、今もなお、カンカンカンカンカンと鳴り響く。そして、黄色と黒の縞々模様の遮断桿が踏切を遮ろうとしている。
俺は、その遮断桿に向けて、一歩を踏み出した。




