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149幕間:人間を好きになってしまったバンパイヤの物語ー傍観する男の話(ダン)

 

 ここは「地図売りの娘」という酒場だ。そう、地上に出たあと、また、ラビリンスに戻ってきた。

 まぁ、どうやって、戻ってきたかは、企業秘密だがな。これでも長年の知恵と経験があるのさ。


 私は、ここの酒場の常連だ。

 ラビリンスは一時、壊滅的な被害にあって、この酒場も一時営業を休止していたようだが、最近、営業を再開したと聞く。

 客足も、まだ以前ほどではないが、十分にぎわっているようだった。

 私はいつもの少し暗めの酒場の隅に座る。


 私は冒険者でもあり、傍観者。

 もう、何年も何年も、冒険者たちの片隅でこの世界を見続けてきた。

 決して、自分が主人公になることはない。ただ、ひたすらに、ひたすらに、この世界のただの普通の一住人として、世界の変わっていく様を常に見続けてきた。


 それはもう、人々が地下へと移り住む前から、人々が地上で戦禍に巻き込まれる前から、人々が地上で豊かに暮らしていたことから。。。

 はて、いつからだったからか、自分でも忘れてまった。ただ、ずっとずっと、細々と冒険者をしながらも、この世界の変化を傍観している。


「マスター。ビールを一杯、頼む。」


 ここの女主人、リアと呼ばれているそうだが、魅力的な女性だ。それもあるが、不思議なことに、この店にはなぜか引き寄せられてしまうのだ。


「はい、ビールよ。。。あなた、たまに見かけるわね。」

「たまにどころか、結構、来てるんだが。影が薄いのは前からだ。気にするな。」


 この店の常連とは言っても、影が薄いのか、未だにここの女主人には覚えられてない。


「あら、そう。なんか、あなた、どこか懐かしい匂いがするのよね。」

「そうか。最近は地上での冒険ばかりで風呂など入ってなかったからな。」

「ちょっと、汚いわねぇ。店来る前に、シャワーぐらい浴びなさいよ。って、最近、グレゴリーって冒険者が大ぜいを連れて地上に達したという噂を聞いたけど、あなたもなの?」

「グレゴリーのチームとは、別だ。」

「へぇ、そうなの。で、あの惨憺な状況だった地上はどうなってたの?」

「地上でのあの酷い戦争での戦禍を知ってるのか?見た目が若い割にはずいぶんと長く生きてるな。」

「あら。あなたこそ、戦争を知っているなんて、随分と長く生きてるのね。」

「さぁな、随分と長く生きてしまったからな。」


 いつもは、ここのマスターとはあまり話はしないんだが、今日は少し話がはずんだ。

 そうだ。確かに長く生きてしまった。


「知ってるわ。人間が人間を襲う戦争だったのでしょ?卑劣ね。」

「あぁ、卑劣だ。」


 その通り。人間というのはいつも卑劣なのだ。でも、中には優しい人間もいるものだ。

 それに、そんな優しい人間に助けられたこともたくさんある。

 だから、私は店主のリアにこう言ったのだ。


『人間は卑劣で愚劣な種族。でも、全員が全員じゃない。優しい人間いる。目の前で困っている人間がいれば助けてあげて欲しい。』


 なんだろうな。ずっとずっと昔に、同じようなことを言った気がするが、気のせいだろうか。

 長く生きてしまった。同じようなことも言うこともあっただろう。


「ふふっ。」

「どうした?」

「あなた、、、昔、どこかで会ってない?」

「さあな。まぁ、長く生きてれば、どこかで会ったりしているかもしれないけどな。もう、忘れた。」

「あたしもね、長く生きていると、昔のことは忘れてしまうのよね。お互いさまね。」

「あぁ、そうだな。」

「ふふふ、でもね、昔ね、まったく同じ言葉を話した女の子と男の人がいたの。それだけは覚えてるわ。」

「へぇ、そうか。奇遇だな。」

「そうね。奇遇ね。」


 と、ここで、私は、テーブルに出されたビールで喉を冷やす。

 少し生ぬるいが、この味だ。いつものこの酒場の味だ。


「ねぇ、あなた、好きな女とかいないの?」

「突然、どうした?私なんかに惚れてしまったのか?」

「ちょっと気になっただけよ。」

「さあな。いたかもしれないが、ずっとずっと昔のことだ。」

「へぇ、どんな人なの。聞かせてよ。」

「今日は随分と攻めるな。まぁ、構わないが。ずっとずっと昔に一目惚れした女がいたんだ。私が地上で兵士をした頃の話だ。相手は敵の女だった。ちょうど、攻城中だったのだが、私がヘマして敵の城に迷い込んてしまったのだよ。そのときにその女に出会った。綺麗な女だった。美しい黒髪、澄んだ赤い目、整った顔立ち、美しい胸、会った瞬間にぞくって来てしまった。一目惚れっていうやつだろうな。でも、相手は敵だ。けどな、突然、向こうから歩いてきて、私を攻撃をするのかと思いきや、突如、私の頬にキスをしたんだ。その瞬間、俺は完全に一目で惚れてしまったよ。そして、私を捕らえるわけでもなく、城から俺を逃がしてくれた。相手は敵、禁断の恋ってやつだろうか。まぁ、ずっとずっと昔の話なんだがな。」


 そう、あれは本当にずっとずっと昔の話だ。

 長い時間、この世界を傍観してきた自分だからわかる。普通の人間ならば、生きているわけがない。それほどに昔の話だ。

 禁断の片思いだった。相手は人間ではなかったからな。

 だが、その美しさ、一目見たときに、一目惚れをした。彼女のためならば、自分の人生を振ってもいいと思ったのだ。それほどまで、そのお方は美しく、見蕩れてしまったのだ。

 それほどに、あれは衝撃的だった。でも、好きになってしまったのは仕方がない。それは今でも、変わらない。


「今も惚れてるの?」

「さぁな。ずっと昔のことだ。忘れてしまったよ。それより、今、こうしてあんたと飲んでられるほうが幸せだ。」

「あら、だいぶキザなことを言うじゃない。どこかにいるかも知れないわよ。」

「昔の話だ。もう、会えるわけない。」

「そういうのって意外と近くにいるものよ。それに長く生きてれば、どこかで会えるかもしれないじゃない?」

「長くか。そうだな、もうずいぶんと長く生きてしまったからな。あぁ、そうかもしれないな。」

「今日はサービスにしてあげるわ。また、来てよ。」

「サービスとは急にどうした?」

「たまには、気分が変わることもあるのよ。」


 いつもはここの店主とはあんまり話をしないのだ。

 今日は随分と話をしてしまった。


 綺麗な店主だ。その美しい黒髪、澄んだ赤い目、整った顔立ち、美しい胸。まるで、昔、私が一目惚れした女とよく似てるからかもしれない。

 でも、いいのだ。こうやって、私はひたすらに傍観しているだけなのだ。


 確かに私の人生は長かった。確かにいつかは、会えるかもしれないしな。


 それからというもの、この酒場に来ると、少しサービスしてくれるようになった。


 あぁ、わかってるさ。

 きっと、向こうも知っているのだろう。


「でも、真実は知ってしまったらつまらないだろ。これぐらいがちょうどいいんだ。」


 私は傍観者、この世界を長く生き、ひたすらに傍観する人間だ。

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