148幕間:人間を好きになってしまったバンパイヤの物語ーある眷属の話(リア)
ここラビリンスもほとんど以前と変わらないぐらいに復興したわ。
あたしのお店、「小さな地図屋さん」も再開したの。でも、やっぱり金づるのタツヤがいないと厳しいわね。彼の作る地図は精巧で、冒険に必要な情報が書き込まれていて、冒険者には非常に人気があったのよ。
彼、最近は見ないけれど、彼どうしているかしらね。
昔はね、ラビリンスの大迷宮の地下へ行く地図が売れていたのだけど、最近は地上へ行く地図が売れ始めているの。
なんでも、グレゴリーっていう冒険者が、地上に到達したって噂らしいのだけど、なんでも、地上にはあの戦禍を生き延びた人間がいたのだとか。
そして、独自の発展を遂げていて、空を飛ぶ船だとかがあるらしいって噂なのよ。
冒険者っていうのはそういう夢があるものが好きだから、最近はみんな地上を目指す人も増えてるのよ。
地上への地図はほとんどないから、タツヤに地上への地図を作ってほしかったのだけどね。
夜は飲み屋「地図売りの娘」という飲み屋をやっているのだけど、こちらも営業を再開したわ。
こっちは、来てくれるのは、もっぱらいつもの常連さんね。
酔っぱらい相手に、売れ残った地図をぼったくりの値段で売りつけてるわ。
でもね、最近、なんか、少し足りないのよね。
何が足りないかって、何か面白い話が最近はあんまりないのよね。
タツヤもいないし、タツヤと一緒にいた妖精さんもいないし、グレゴリーも地上に行ってしまったらしいし、グローリーホールの近くでは社畜で有名な赤髪のRGF社の兵士もいなくなって噂だし、みんなどこかに行ってしまったわね。
つまならないわね。そうね。
少しだけ、昔話でもしましょうか。
昔話といっても、バンパイヤと人間では昔という感覚はだいぶ違うかもしれないわね。
人間で言えば大昔の話。まだ、バンパイヤたちが栄華を極めていたときの話よ。
あたしがバンパイヤ、ブラッドレイン家であることは前に言ったでしょ。
昔はね、豪華な城があって、美しい庭園があって晴れた日には毎日、茶会が行われて、夜になると、宮殿の間では晩餐会が行われて、美しいドレスに、タキシードを身に纏った血族たちが毎晩のように豪華に踊っていたわ。
そのうち、人間たちも、あたし達をまねて、似たようなことを始めたのだけどね。
その頃かしらね。人間達があたし達、バンパイヤに対立し始めたのよ。
今でこそ、あたしは人間という種族が好きになって、こうして人間社会で生活をしているのだけど、あの頃は、まだ、あたしも若かったわ。バンパイヤの城から出ることもなく、まだ、何も知らない小娘だったわね。
だから、あのときは、あたしも人間なんて、そこらの虫と同じようなものとして思ってなかったのでしょう。
それに、そのころの時代は、バンパイヤという存在も十分知れ渡っていて、人間種族の社会でも、バンパイヤというのは誉れ高い象徴、決して、手を出してはいけない雲の上の存在として思われていたようなのね。
魔女狩りが行われていた時代に比べるとだいぶ違うわね。
でもね、ある日ね、人間たちがあたし達バンパイヤに対し、あろうことか反旗を翻したのよ。
「我々はバンパイヤなどに飼い殺されている。我々、人間はペットなんかではない。今こそ反旗を翻すときだ。」
などと言っていたわ。
まぁ、全盛期のバンパイヤを相手に人間風情が勝てるわけがないのよ。アイギス程ではないにしていも、それぐらいの力を持ったバンパイヤがたくさんいたのだから。
多数の兵士があたしたちの城を取り囲んでいるようだけど、まったく脅威ではないわね。でもね、けどね、少し変わった兵士がいたのよ。
どうやら、彼は道に迷って、あたしたちバンパイヤの城に侵入し、こともあろうか、あたしの部屋に迷い込んだ様子。
震えながら剣をあたしに向け、怯えていたわ。
あたしにとっては何ら脅威ではないの。だから、そのまま、あたしの部屋に迷い込んだ彼に、あたしは真っすぐに歩みを進めたの。
「ひえっ!く、来るな!」
と言いながらも、怯え、剣が震えている。
あたしは歩みを進めるけども、攻撃をする様子もない。
見れば、まだ若い兵士さんね。かわいいこと。
そのまま、殺してもよかったのだけど、あたしの部屋が汚れるのは勘弁ね。
それに、まだ、穢れを知らないまだウブな若い男。
だから、あたしはつい出来心だった。
「あら、かわいい男の子。」
「えっ。」
あたしはその兵士さんの頬に接吻をした。挨拶みたいなものよ。
そしたら、彼はそれまでの震えも収まったようね。少し、顔が赤くなっているようにも見えるけど。
あたしは部屋のドアを開いて言ったのよ。
「ほら、お行き。そこの階段を降りて曲がれば、外にいるあなた達の仲間にところに合流できるわ。」
あたしとしては、あたしの部屋が血で汚れるのが嫌なだけだったのだけどね。
でもね、その後、どうなったと思う?
彼はそのままおとなしく軍に帰還したわ。
でもね、多数の兵士があたし達の城を取り囲む中、何があったのか知らないけれど、彼だけは軍上層部に、この攻城に反対したらしいのよ。
わかる?何人いるかわからない多数の兵士たちが私の城を取り囲む中で、彼一人だけで反抗しているのよ。
当然、軍は彼を敵軍の仲間と見なし、心臓を剣で突き刺して処刑したわ。
そのあと、軍勢が一気にあたし達の城を攻めたけれど、結果は火を見るよりも明らかね。人間風情があたし達バンパイヤに勝てるわけがないの。一瞬だったわ。まるで蹂躙されるかのように、あたし達の城を囲んだ兵士たちは倒されていったわ。
ただね、あたしもまだ若いせいか、ちょっとかすり傷をしてしまったのよ。情けないないわね。
そして、たまたま偶然でしょうか。多数の兵士の死骸が転がる中に、さっきのあたしの部屋に迷い込んだ彼がいたのよ。心臓を剣で突き刺したようだけども、運がいいのか、悪いのか、まだ息はあった様子。
知ってる?
もし、バンパイヤ以外の生命に、バンパイヤの血を与えたらどうなるか?
それは眷属と呼ばれる主人に従順な兵士が出来上がるのよ。
アイギスも眷属を作ったようだけど、あれは違うわ。あれはアイギスが自身の血の一滴から直接繰り出した眷属たち。血を与えて作った眷属とは、ちょっと違うのよね。
眷属になるとね、血を与えた主人が生きる限り、永遠の命を生きる、それと同時に、主人の命令に従順な下僕になるのよ。
でも、あたしは、別のそんな下僕まがいの眷属には興味なかったわ。
たまたま、その時かすり傷をして血が流れていたという偶然と、たまたま、彼にもう一度出くわした偶然。
だから、意図するつもりはなかったのだけど、そのときの気分だったのでしょうね。あたしは、彼に一滴の血を与えてしまったの。
「うぅぅううぅぅぅう!」
突然、苦しみ始めたわ。あたしの血が体内に吸収され、眷属へと変化が始まったのでしょう。もう、しばらくは苦しむでしょうけど、それを過ぎれば、あたしの眷属として生きることでしょう。
でも、あたしは眷属には興味なかった。
「人間って卑劣な生き物ね。でも、全員が全員じゃない。あなた見たいな優しい人もいるものね。目の前で困っている人がいれば助けてあげなさいな。」
そのあとは、その後の様子も確認せず、あたしはその場を去ったわ。
それが、あたしが唯一眷属を作ったという過去のお話。
その後、彼がどうなったのかは一切わからないわ。まぁ、あたしが生きているのだから、きっとどこかで元気にしているに違いないわね。




