146時間と空間の歪んだ世界(タツヤ)
それから、どれだけの時間が経過したのかわからない。
空間でさえ歪んだ世界のこと、きっと時間ですら、歪んでいるのかもしれないから、経過時間など、些細なことなのかもしれない。
少なくとも、自分はあるところで気がついた。
周りには一切なにもなく、視界はすべて真っ黒だった。
一切、光が入ることなく、自分が目をあけているのか、いないのかすら、区別がつかないような漆黒の闇の中。
あぁ、あの魔女の転移魔術で戻ってきたのだ。
あの空間も時間さえも歪んだ世界。一切光の入らない、まるで「死」すら思わせるこの世界。
何もしなければ、そのまま睡魔によって再び目を閉じてしまったであろう。
けども、ここに自分が戻ってきた理由は明確だ。
自分の手の先を確認する。
この世界はバラバラになってしまうかもしれないからと、転移の魔術をかけてもらう前に、霞とは手を繋いでおいた。アリエルとはひもでグルグル巻きにしておいた。アリエルは若干、紐でグルグル巻きにしているとニヤついていたが、きっとそういう性癖なんだろう。
ちゃんと手の先には、霞の手があり、そして、こちらを真っすぐに見つめている。そして、もう片方の手に握る紐の先にはアリエルがニヤついている。
あぁ、わかっている。ここでやることは決まっている。
徐々にこの世界に慣れてくると、闇の中の奥の方から、白くポワンと光る球体が数個ほど徐々に見えてくる。
この球体こそが、転移先の世界。
この1つ1つの球体が転移先の世界で、あの球体に取り込まれることで転移する。
前にも来たことがあるから、わかっている。
その一つに手を近づけると、その転移する先の世界が見えてくる。
今、手を伸ばした先の世界から、今のラビリンスの様子が見える。きっとリアのお店だろう。あの頃に比べると壊れたお店も元に戻って通常営業しているようだ。今は客はいないのか、店で暇しているようだ。
けれど、自分が望む世界はこれじゃない。
次に次に、白い球体が自分の近くを通り過ぎていく。
その一つ一つが転移先の世界。
先ほどまでいた天空未来都市ノヴァリスの世界であったり、時間は戻り戦禍の地上の世界だったりと、いろんな世界が近づいては消え、近づいては消えていく。
そのどれもが、自分が望んでいる世界ではない。
自分が望んでいる世界は、ただ一つ。もう、逃げも、隠れもしない。
俺は手を握っている霞の顔を再び見る。
霞も、頷いてくれる。
そこにもう一つの球体がポワンと現れた。
―――
マンションが立ち並ぶ住宅街。その中にあるDランク冒険者たちが集まるような安マンション。
そんなマンションから一人の女性冒険者が出てきたが、どうやら、通路を塞いでしまって別の冒険者の通行を塞いでしまったようだ。
―――
そう、霞のいるこの世界だ。けど、まだ違う。
自分が見たいのはこの時代じゃない。この世界のもっと昔。
遥か遥か昔の世界。霞が転生する前にいた世界。
俺はあのとき、転生する前に、自分の好きな先輩がいた。
霞によく似ていて、まるで瓜二つ。
それは、このような世界ではない。もっと高層ビルが建ち並び、現代的な街並み広る世界での出来事。
そう、思うと、再び、世界は時刻を戻すように急激に変化するのだ。
―――
只野馬場駅。
駅を降りると、たくさんの若者たちで溢れかえっている。
周囲にはたくさんの大学があり、専門学校があり、学生で溢れかえる町。只野馬場。
―――
あぁ、見覚えがある。
ここは、自分が転生する前の大学時代の世界だ。




