139満天の星空の下(タツヤ)
夜になった。
ふと、横にある虫かごの中を見れば、アリエルは相変わらず、ケツをボリボリかきながらイビキをかいて寝てやがる。オッサンか。
けど、寝れるわけがない。久しぶりの地上の世界なのだから。
何度も転生しているとはいえ、長い時間を地下の大迷宮の中で過ごしていた。窓から覗ければ、星々の輝いている様子が見える。
ふと、散歩がてら居住区を出て飛空艦の甲板上にでる。
暗い。それは、俺たちの雰囲気が暗いという意味ではない。本当に世界が暗闇なんだ。前の地上、それは夜になっても明るかった。だって、常に砲弾が行き交い、どこかで爆撃が行われ、夜であっても、いつも赤茶色に光る空でしかなかったからだ。
これほどの暗闇のなか、くっきりと浮かぶ天の川と、それを囲むような満天の星空。
この世界に転生して、これほどの静かで真っ暗な空を見上げたのは初めてだろう。
甲板上に寝ころび、その夜の生み出す美しい芸術をしばらく眺めていた。
空を飛ぶ船というのは前の転生したときにも何度か経験はある。それほど珍しいものではないけれど、久しく乗ってない。それに、やはり、夜の星々が生み出す芸術はいつ見ても美しい。
空を見上げていると、足元のほうから、コツコツコツ、という足音が聞こえてきた。
「なーんだ。タツヤもいたの。」
霞だ。霞も寝れなかったのだろうか。
霞が寝ている俺の隣に膝を立てて座る。今もなお、飛空艦は動いているのか、霞の真っすぐで長い髪が風で靡き、ほのかに石鹸の馨しい香りが漂ってくる。
「綺麗ね。星空が。」
「そうだな。」
「ずっとず~っと久しぶりね、こんな星空を見るなんて。でも、この風景、どこかで見たことがあるのよね。どこか遠い昔に。あたしも記憶はないけれど、転生者。きっと、転生前の世界でも、こんな風景を見てたのかしらね。」
横に座っていた霞が、俺と同じように甲板上に寝そべる。
「。。。綺麗ね。」
「そうだな。」
しばらく続く沈黙。。。
「ねぇ、よかったわよね。朱音ちゃん、こうして会えたんだし。」
「そうだな。」
「。。。」
「。。。」
「。。。ねぇ、タツヤってさ、友達いないでしょ。」
「うるさい。」
「もっと自分から話とか振っていかないと、孤独になるよ。」
「今までずーっと孤独だ。それに、、、もう、孤独には慣れた。」
実際にその通りだ。何度も何度も転生を繰り返してきた。
その世界のいずれも、俺は孤独だった。独りきりだ。独りきりですべてをやりぬいてきた。
食事も、敵との戦いも、ケガしたときだって、すべてを自分独りきりでやってきたんだ。
話し相手も誰もおらず、誰かと笑いあうこともなく、ただ、生きるためにその日を生きる。そんな毎日を永遠に繰り返すだけだったというのに。
今回のこの世界だけが、いつもと違った。仲間ができた、、、、?
いや、違うな。そういえば、前にも同じ質問をしたんだ。ちょうどアリエルと出会ってしばらくたったときぐらいの
っことだ。「うちら、仲間でいいんだよな」と聞いたんだ。
あのときの二人からの回答は
「違うに決まってるじゃない。」
だった。
だけど、今、俺はもう一度、同じ質問をしてみたい。
「なぁ、俺たちって仲間だよな?」
「はぁ?何言ってんの。死ね。」
「。。。。。。」
まさかの一言に『「違うに決まってるじゃない。」』と言われたとき以上のショックを受ける。
だが、そのとき霞は急に、起き上がった。
「あんたさ、いつまでそうやって自分は孤独、社会から孤立してるみたいな被害者面してんのよ。」
突然、霞が俺の上に馬乗りになり、襟を掴む。
いや、ちょ、ちょっと、この体勢はなんかまずくないか。
でも、霞の目は真剣だった。
「あなたには目標があるんでしょ。いつもは孤独だったかもしれないけれど、今回の転生は違ったんでしょ。今回しかないかもしれないチャンスに、全力を注ぐんじゃないの?会いたい人がいるんじゃないの?」
その澄んだ瞳の奥に強い意思を見て取れた。そして、掴んだ襟を離し、俺の隣に再びゴロンと寝そべる。
「それに、あのとき、自分で言ったじゃない。あのギルドの裏で。」
最後の言葉は少し弱く、聞こえるかどうかの小さな声だった。
あのとき、ギルドの裏で俺が言った言葉、ちゃんと覚えている。『オレはあなたの側で君を守りたい。』。今思えば、死ぬほど恥ずかしい。
霞はまだ続ける。
「ねぇ、朱音ちゃんはさ、いろいろもがいたんだと思う。いろいろもがいて、会えない可能性のほうが遥かに高かった。だけど、彼女は、こうやって、再び、出会えたんだよ。可能性ってさ、どんなに低くてもゼロじゃない。彼女は自らもがいて、ついに掴んだのよ。自分の夢を。。。。ねぇ、聞いて。。。あたしってさ、転生者かもしれないんでしょ。記憶はないけれど。あたしは気づいたら、このラビリンスにいたのよ。気づいたときには、ただ生きるための日々を過ごす毎日だった。夢なんて立派なものはなかったのよ。だから、夢があるって憧れちゃうのよね。。。そして、タツヤにも夢がある。」
確かにそうだった。何度も何度も転生した。でも、どの転生でも孤独で最後に死が訪れ、再び同じような転生を繰り返す無限ループ。ただ、それだけ。どれだけ運命に贖おうとも決して結末は変わらない。
だから、諦めていた。もがきもせず、ただ、無駄に何もせずに時間を過ごすだけ。
だけど、今回は違う。霞がいた。
それが、ただ無駄に時間を過ごすだけだった自分に、転生する前の憧れだったあの人を思い出せてくれた。
こんな自分に夢を持たせてくれた。
それに仲間がいる。霞がいる。残念妖精アリエルがいる。勝手についてきた朱音という兵士もいた。
まだ、仲間として肯定してもらってはいない。だが、もう、いい。こいつらは俺の仲間だ。
こんなチャンスは二度とない。けど、このチャンスだけは逃すわけにはいかないんだ。
夢への憧れは尽きない。だけど、それを憧れのままにしてはダメだ。もがいたところで、夢が叶うかどうかはわからない。けども、実現させようともがかなければ、夢は決して叶わない。
それに言ったんだ。あのとき、あのギルドの裏側で。たとえ、叶わなかったとしても、『オレはあなたの側で君を守りたい。』って。
そっと霞の手に触れる。
「すまん。いつも、孤独だったから、孤独に慣れ過ぎてたのかもしれない。けどさ、、、俺にも夢はある。その夢はもしかしたら、もう叶っているかもしれないし、叶ってないかもしれない。少しだけ、それを確認しないといけないけども、ここには確認する方法があるかもしれないんだ。。。。なぁ、少しだけ、一緒に付き合ってくれないか。」
「えぇ、それぐらいいいわよ。」
「それから、安心しろ。夢が叶ったとしても、叶わなかったとしても、俺は言ったことは守る。」
「ふーん、そう。ありがと、と言っておくわ。」
まったく、いつも孤独だった。孤独すぎて孤独に慣れ過ぎてしまったのかもしれない。だけど、、、霞の言う通り、こんなチャンスは二度とない。
俺は、霞の手を強く握りしめる。そして、霞も俺の手を握り返してくれた。
ここは雲の上の世界。遮るものは一つもなく、満天の星空が広がり、じっと目を凝らしていれば、ときおり流れ星が流れている。
ずっと、地下の大迷宮にいたので季節の感覚も忘れた。けども、夏から秋へと変わる季節だろうか。風が少し冷たかった。
―――
「ぐふふふ、タツヤよ。このあたしがおとなしく寝たと思ったぐらいでは甘いのです。」
「ちょっと、妖精さん。覗き見は良くないですよ。」
「大丈夫なのです。バレなければなんでもOKなのです。ぐふふふ、若いっていうのはいいですのぉ。」
「妖精さん、、、発言がオッサン。。。ですよ。」
「でも、妖精は人々の思い、タツヤだってその人々の中の一人なのです。妖精は応援するのですよ。」
「そうですね、妖精さん。」
ふと、船の壁の影から、羽をつけた虫と、赤毛の兵士さんがそっと会話しているのであった。




