136幕間:地上へ(グレゴリー)
ラビリンスを出発してから数十日。
何しろこれだけの大隊になっちまったから、食料の補給が持つかどうか不安だった。
ラビリンスより地下深くの大迷宮なら、地下性の植物や、動物もいるから、最悪そいつらで補給することもできるが、ラビリンスよりも地上側は、いわゆる、普通の洞窟。植物も動物も一切いない。蝙蝠はたまにいるが、どんな病原菌をもっているかわからねぇから、食えたもんじゃねぇ。
これ以上、探窟が続くならば、残念だが、今回の地上遠征は諦め、ラビリンスに戻るしかねぇ、そう思っていたときだった。
ほぼ垂直に続く洞窟の奥がなんとなく明るくなっている気がしたんだ。
隊員の中から、行動力の優れた隊員を選び、先発させた。
そして、しばらくして声が返ってきた。ここは洞窟だから、声は大きく響く。
「地上だ!!!!」
その瞬間に、ざわついていた洞窟内に数秒間の静寂が訪れ、その後、突如として、ここにいる大隊のみんなが雄たけびような歓声を上げた。洞窟は響く。まるで、洞窟中が共振し、地震でも起きたかのように大きく震えたんだ。
みな、たまらず、我先にと、この垂直な穴を登り始める。
中には老人や、まだ若いやつもいるから、俺は手を貸してやりながらも、どんどんこの垂直な穴を登り詰めていく。
そして。。。
青く、緑が覆う大地。
その大地からは灰色と赤茶色の錆にまみれた人工的な建物がニョキニョキと生えていて、さらに建物の最上階にも巨大な大木が枝葉を広げている。
俺は、ラビリンスで生まれた。だから、地上の世界なんていうのは、写真で見たことがある程度だった。
洞窟を出ると急に気温が温かくなり、まぶしい日差しで思わず手で目を遮る。まぶしすぎる。ずっと洞窟にいた人間には辛すぎる。
だけど、初めてみたこの風景を目に焼き付けるため、それでも目を大きく開き、この風景を焼き付ける。
そして、思わず小声でつぶやく。
「地上だ。」
そして、次は、大きな声で、皆に聞こえるように大声で叫ぶ。
「地上だ!」
その瞬間、俺たちの大隊は歓声に湧いた。
共に肩を組み、喚起する者。思わず、その場にへたれ込み、この風景に涙する者。地上を知るものは、「昔はあの建物は何々だったんじゃ。」と懐かしそうに、ただ、誰を相手にすることもなく目から水をこぼしながら話をする。
みなが思い思いに、この地上へと思いを馳せている。なので、この洞窟の出口でしばし、休憩となった。
地上に出たからには、食料の確保と野営地を確保し、しばらく地上を探索するつもりだ。
ただ、そう思っていた矢先のこと。
パタパタパタ
どこからともなく、変な音が聞こえてきた。
とても自然な音とは思えない、人工的な音。皆、周囲を見渡すが特に変化はない。
だが、その音はさらに大きくなってくる。
バタバタバタ
その音がこちらへとまるで近づいてくるかのように大きくなる。
どんどん音は大きくなり、耳を塞ぎたくなるほどの轟音になった瞬間、付近に強風が吹き荒れ、落ち葉や枝を巻き上げる。
そして、突如としてそれは背後の山の影から現れた。
それは空に浮かんでいる船に見えた。昔、写真でヘリコプターというものを見たことがある。プロペラと呼ばれるものを回転させて空を飛ぶのだとか。そのプロペラのようなものが船に無数についている。だが、そのヘリコプターとは明らかに違う。
俺たちを呑み込みそうなほどに巨大な木製の船に、いくつもの大小多数のプロペラがついているんだ。
数がわからん。そのプロペラを無数につけて、空を飛んでいる巨大な船が頭上を通過した。
とにかく無数のプロペラがついてその一つ一つが、ものすごい音と風を起こしながら、俺たちに打ち付けるんだ。
そして、後部に二つほど垂直に取りついた大きなプロペラが、巨大な木製の船をゆっくりと水平方向に移動させている。
そう、あれは、船じゃない。飛空艦だ!
俺たちは、そいつを口を開けながらみんなで空を見上げていたさ。
そしたらよ。その飛空艦の欄干から数人の人が身を乗り出して、手を振るんだ。
飛空艦は、そのまま、青く、緑が覆う大地の上を真っすぐに進んでいき、そして、点のように小さくなり消えた。
皆、そのわずかの瞬間の風景にあっけに取られていた。
そして、その現象の意味することは、皆、理解したことだろう。
まったく、参った。
人間というのはラビリンスにいるのがすべてだと思い込んでいた。だから、今、地上にいるのは俺たちだけだと、とんでもない思い違いをしていたようだ。
地上には、生き残りがいた。
おそらくは、あの惨憺たる戦禍を生き延びた人間がいた。
爆弾の雨、爆撃の嵐、そして、人々を消滅させた黒い雨、動画でもその様子は見たことがある。
それを生き延びた人間がいたということだ!
しかも、空を飛ぶ凄い飛空艦を持ってやがる。
どうやらラビリンスという閉鎖された大迷宮の中にいたせいか、忘れてしまったのかもしれない。
世界は広い。想像以上に広い。
想像だにしえないことが起きるんだ。
なんだろうな。ここには、とても懐かしい匂いがする。
周囲を見れば、みんな、全員、顔を真っ黒にして、空を見上げていた。
「おもしろい。」
だから、冒険はやめられない。




