134空の賊(タツヤ)
気づけば、もう、なんだかんだで時間はあっという間に過ぎ、夕方になろうとしていた。
飛空艦の甲板から眼下をみれば一面の雲海が広がっていた。
先ほどまで見えていた一面の青い海に黄色い大地も美しいが、赤い夕日に映える一面の雲海もまた、美しい。
こうも洞窟暮らしが長いと、地上の風景に見蕩れてしまう。
セイイチという冒険者が豪華なディナーという料理を出してくれるとかで、みんな、先に飛空艦の中に戻ったようだが、俺と霞はしばらく、この風景をずっと眺めていたんだ。地上の風景は懐かしいしな。
まぁ、セイイチという冒険者が凄い料理を振舞ってくれるという話だが、所詮は冒険者さ。あまり期待は出来ないだろう。
ドシン!!!
突然、何かの轟音と共に、大きく飛空艦が揺れた。
「え、なに!?」
霞は慌て驚いているようだが、すぐに原因はわかった。音の方角をしたほうを見れば、雲海の影から、別の飛空艦が見えている。船尾に砲撃が掠ったのだろうか、船尾から煙が出ている。賊を追っているとは聞いていたが敵艦か?
飛空艦の中からベベルが走って出てきた。
朱音も、羽虫もそのあとに続いて何が起きたのかとキョロキョロしながら走って出てきた。
ベベルは甲板上から、雲海に隠れる敵機を見るや否や、飛空艦の操舵室に向けて声を張り上げる。
「五時の方向、距離約5マイルに敵機確認!」
「あいよ。砲撃開始する。」
操舵室はセイイチがいるのだろうか、声が聞こえてくる。
そして、そのすぐ直後、、、
ズッドーン!!!!
すると後部にある砲台から敵機に向けて、砲撃が撃ち込まれた。
だが、相手は砲撃を見るや否や、すぐに雲海に隠れてしまい、砲撃も音もなく雲海の中へと消えていった。
「くっそー。あんな奴、いつもなら一撃なんだがよ。どうも、こういう空の上の戦い方は慣れねぇ。」
なるほど、ベベルは言うこともわかる。大迷宮内ではいつも魔獣を相手に接近戦で戦闘していたのだ。そんな冒険者がいきなり、大型兵器を使った空中戦になど慣れるわけがない。
そうこうしているうちに、雲海の中からピカッと赤い光が光った。
「セイイチ!砲撃注意!舵を回せ!!!」
飛空艦が大きく傾く。すると、その側面スレスレを弾道を残しらながら、砲弾が通過する。その直後には、その余波なのか、風が大きく吹き荒れ、飛空艦が大きく小刻みに左右に揺れた。
なるほど、これが空中戦か。
これまで転生した中で、近未来の時代に転生したときも、未来型の戦闘機で空中戦をしたことはあったが、こんな飛空艦に乗っての戦いは初めてだ。
気づくと、ベベルのすぐわきには魔女がいた。
「参ったわね。雲海で見えないわね。爆破の魔術で雲海を蹴散らしてみる??」
「あぁ、頼む。」
魔女も手を雲海に向けて、爆破魔術を放出するも、地上では魔力が弱いのか、ボフッ、と音がして、雲海を蹴散らすまでにはいかない。
この世界には魔術があるが、地球の中心部ほどに、気、つまり、魔力が濃くなる。なので、地下深くにあるラビリンスでは多くの冒険者たちが魔術を使えていた。だが、地上では薄くなってしまう。ましては、ここは上空、地球の中心から離れているこの場所では魔術の発動はより難しくなるのだろう。
「すまんな、巻き込んじまってな。あれが賊さ。地上で生き残った僅かな住人たちから金品や生活物資を略奪しているやつらさ。」
せっかく、戦禍から復興したというのに、結局はこういう奴らがいるというのか。どの時代も変わらない。
ただ、ベベルよ。これは、何度も戦いを繰り返した俺からのアドバイスだが、戦闘中にそんな暇話をする時間があったら戦闘に集中した方がいい。
ズッドーン。
再び、雲海の中ら砲弾が撃ち込まれ、側面に被弾し、飛空艦が大きく揺れる。
ほら、言わんこっちゃない。
戦いは油断したところを攻められたら、一気に終わりなんだ。
こうして、俺はベベルの船にいるが、別に俺の目的はベベルに会うことではない。
何度も言うが、霞のために、俺はアースホールに来た。そうして、たまたま、朱音の見た世界へ来たら、そこに飛空艦があり、ベベルたちがいただけのこと。
昔の自分であったならば、そのまま無視していただろうな。
けど、今は違う。何が違うかは、自分でもよくわかってない。けども、霞と出会い、こうして一緒に行動していると、それまでの自分の考えが、少しだけ変わった気がする。
目の前で困っている人がいるならば、助けてあげようじゃないかと。
「おい。妖精。あの雲海を払えるか?」
「おお、羽虫ではなく、妖精と呼んでくれるとは、嬉しいのです。それでは、生気を。。。。」
「すまん、それは却下だ。」
一応、アリエル魔術は使えるので期待はしてないが、聞いてみた。
けど、生気を吸われるというのであれば、話は別だ。やはり、期待外れ。
「なぁ、霞、霞なら出来るだろ?」
「えぇ、もちろんよ。」
「あぁ、頼んだぞ。」
なんとなく『頼んだぞ』なんて言ったが、、、なんという、久しい言葉だろうか。相手がいて、相手を信頼してないと使えない言葉だ。
もう、幾度となく転生を繰り返したというのに、ずっと孤独だった。仲間がいたとしても、同じ味方側というだけで、深いつながりはなかった。たぶん、その言葉は、転生して以来、初めて口にしたのかもしれない。
霞は少しだけ気を集中すると、手を雲海へと向け、魔術を放った。
一瞬、ピカッ、と光るも、直後に目を覆いたくなるほどに視界全体に眩い光が光る。
そして、眼下を見渡せば、あたり一帯、雲海などすべてなくなり、遥か彼方の地平線までが見えていた。
わずか一瞬の出来事。
「う、嘘でしょ。ここ地上よ。しかも、上空よ。」
と魔女はつぶやく。あぁ、そうさ。地上さ。しかも、さらに魔術の効果が弱まる空の上さ。
けどな、霞も何度なく転生を繰り返しているんだ。
単に記憶がないだけで、幾度なく繰り返した転生で、霞も魔術だけは長けている。この程度の魔術、霞には余裕なのさ。
そして、目下には、賊の飛空艦。
俺は、短刀を居合に構える。
距離はある。けどな、俺を舐めるな。幾度となく繰り返した転生で、剣術だけは長けた。
超神速、いや、神速を超えて、絶速ともいえる俺の居合は、鋭利な真空の層を生み出し、遥か先にある山、海、大地ですら、斬れるようになった。
いいか。よく見ておけ、これが何度も何度も転生を繰り返し、剣術だけは異様に長けた俺の全力の居合。。。




